第6話 旅立ち

「では!!ここにいるタカユキ様と、ミーシャの義兄弟の契りを執り行う!!」


かがり火が幾つも焚かれ、昼間のように明るい

真夜中の村の広場で、壇上に立った長老が

その下に詰め掛けた二百人ほどの村人たちに宣言する。

俺とミーシャはナイフで掌を軽く刺して、お互いの血液をお互いの持つ盃に注ぎあう。

二人の持つその血の入った盃に、長老が酒を継ぎ足し

俺たちは同時に一気に飲んだ。

口の中を血の味と酒の味が駆け巡る。


「ここに!!ミーシャとタカユキ様は義兄弟となった!!」


長老が豊かな白髭を揺らしてもそう宣言すると、村中から拍手と歓声が巻き起こる。

「この者は今日からはミーシャ・タジマとして兄に尽くすだろう!!」

「そして我が村の者と血縁となり、我等の家族となった

 流れ人、タジマさまの行く先に光あらんことを!!」

その言葉と共に、「ウオオオオオオオオオ」と言う大歓声が村中に響き渡った。

そのまま会場は酒宴場と変わり

俺とミーシャは壇上に設けられた席に村長と共に座って歓待を受ける。

「村に来てすぐ、すいませぬな……」

村長が、肉をむさぼり食っている俺に謝ってくる。

「……いえいえいえ、こんなに歓迎してくれてありがたいです」

俺はとりあえず謙遜した。何かの含みはありそうだが、人の温かさに今は浸っていたい。

「もうすぐ長い"雨季"がくる。村も移動せねばなりません。

 なので、時間が無かったのです」

「雨は嫌いです……」

ミーシャが飲んでいたお茶を置いて、うな垂れた。

「ひとつお願いがあるのですがな」

「なんでしょうか」

「この子を連れて行ってもらいたいのです」

村長はまじめな顔で俺を見つめ、その言葉を聞いたミーシャが複雑な表情をする。

「我が部族は、外からの風と、内なる草木を大切にして発展してきました」

よくわからんけど人材とかそういうのの例えかな。と俺は思う。

「ミーシャに流れ人様と共に、沢山の色の風を浴びてもらい、

 そしていつか、村に帰るときには、我が一族の援けになるようになってもらいたいのです」

「……長老様」

「何より、貴方様が、もしも人の上に立つようなことがあれば

 その妹を一族にもつということは、弱く小さな我々の強き援けになります」

村長は俺に何かを見出したのかな。と思いながら

「明日まで待ってください。ゆっくり考えてみます」

と俺はとりあえず答えて、村長が優しく頷くのを見ると

ちょうどいい機会なので、気になっていたことを訊いてみる。

「村長様、"流れ人"ってなんですか?」

「……」

村長はしばし沈黙した後に、グラスの赤い酒を少し飲むと


「流れ人というのはですな……」


と語りだした。


この世界には、大きく分けて

ドラゴン、幽鬼族、魔族、人間、水棲族

そして"マシーナリー"と呼ばれる機械と生物が一体化したり

機械そのものな種族がいる。

この六種族は、お互い非常に仲が悪く

例えば森で俺がレイスという幽鬼族に憑かれたように

基本的には、隙あらば、他種族を殺そうとしている。

時には大規模な戦争になったりして、勢力の盛衰を繰り返し

その時代で強い種族は違う。

今は、人間率いるゴルスバウ王国がこの周辺では強いが

あまりに身勝手なのでいずれ同種族人間からの支持も失い、

廃れると思われる。


「ここまでが前置きです。すみませぬな、年寄りの話は遠回りで」

と村長は断ってから、本題を話し始めた。


"流れ人"というのは、そんな混沌とした世界の調停者や破壊者として

稀に、この世界に現れる異世界の住人である。

それらは様々な形態をしていて、

俺みたいに人間と似た姿をしていることは実は少ないようだ。

大きなタコの形をした流れ人は

その抜群の知性と身体能力で水棲族の英雄となり

この世界に流れ着いたある機械人は

第六の種族"マシーナリー"を数百ラグヌス(年)かけて自ら創りだしてしまった。


「そうだ、なぜ俺が流れ人だと分かったのですか?」

話を遮った俺の言葉に村長が答える前に

「私が会ったとき、兄さんは大きなレイスを引きずってたからだよ!!

 普通はすぐに生気を吸われて死んでる」

とミーシャが割り込む。

「うむ……。どういうわけかは知らぬが、"流れ人"は強靭な生命力をもつのです」

村長が再び酒を飲む。しばしの沈黙が流れ

そこで俺は、ゴミ捨て場から刑場に行ったことや、

脱走、森の中で人間に化けたドラゴンだったガーヴィー師匠と修行して、

その後、頼まれ師匠を殺してしまった話まで正直に打ち明けた。

「……なんと……早くも幾度も強い落雷に打たれ、泥雨に塗れておったとは……」

「兄さん、すごいねぇ……」

「うむ。私の目に狂いはなかった……ミーシャを、この村の未来をよろしく頼みます」

村長は、それだけ言うと退席していった。


その後、一時間ほどで宴会はお開きになり、

俺は一族になったので村の掟に従い、ミーシャのテントで寝ることになった。

「家族なんだから、添い寝しよう!!あったかいよ!」

という下着姿のミーシャの頼みは軽く断り、

俺はぶーぶー文句を垂れる妹に

床に薄い布団のようなものを敷いてもらいそこで寝た。


翌朝遅く、俺が起きて服を着て、テントの外に出ると

村が跡形もなかった。ミーシャのテントには彼女の馬が1頭繋がれ

近くにはバッグ一杯の食料と水のはいった大きな瓶が置かれているだけだ。

「おい、ミーシャ!!」

俺は良く眠っていた妹を揺さぶって起こす。

寝ぼけ眼のミーシャは着替えると、ふらふらとテントの外に出て

「みんな、もう行ったんだ……」

涙目のミーシャは、嘆くよりも素早くテントやベッドなどの解体作業に取り掛かる。

俺も不器用ながら手伝うと、それは30分ほどで大きな皮製のショルダーバッグに収まった。

入りきらない調度品は全て置いていくことにする。

「はいっ」

と真剣な目で、俺に槍とそのショルダーバッグを渡すと、

自分は弓と矢の何本も入った筒を背負い、食料の入ったバッグと水のはいった瓶を

馬にくくりつけてから、飛び乗る。

俺はショルダーバックを背負うと、長槍を持ち、

まだ余裕そうなので、馬から水の入った瓶をおろして持つ。

「助かる。この子が疲れないで済む」

微笑んだミーシャは朝日が出ているおそらく東の方角を指差す。

「3グルヌスも歩けば、山が見えてくる。雨が振り出す前に、あそこまで行こう」

グルヌスは恐らく日とかそんな感じだろう。ということは三日だ。

「わかった」

俺と、馬に乗ったミーシャはゆっくりと進み始めた。

師匠と特訓に使ったあの剣がないのが唯一の気がかりだが、

恐らく棒切れでさえ、何か手にもっていれば何とかなるだろうという

変な確信があるので気にしないことにした。

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