異世界転移系男子の冒険戦記(トーキング フォー ザ リンカーネーション)

弐屋 丑二(にや ちゅうに

オープニング~放浪編

第1話 とてつもなく長い物語のはじまり

「ねぇ、私たちってさ」


「ん」

「高校まで一緒になって、何か縁があるよねぇ」

この微笑んでくる女は鈴中美射、俺の幼馴染だ。色素の薄い茶髪にツインテールでかわったやつだ。俺にどこにでもついてくる。

「そうだなー」

ツッコむのも面倒なので生返事を返す。

この季節、学校までの桜の咲き誇る通学路の坂道を俺たちは毎日歩いていく。高校に近づくほど下には小さなわが町の全景が見えていく。縁があるというが、日本の片隅にあるド田舎で近くにはこの公立櫻塚高校しかないので余程偏差値が高くないと、小学校→中学→高校と持ち上がりみたいにみんなと同じ学校に通うことになる。小さな学校で一学年六十人くらいで二クラスだ。

「てかさー」

「なーにっ?」

「来年受験だろ。お前どこいくの?」

「但馬とおんなじとこ!」

ああ、俺は但馬孝之だ。高校二年のクソ田舎に住むつまらんガキです。

イケメンでもないし、頭がいいわけでもない。体格も身体能力も人並みの……ああ、自分で言ってて嫌になってきた。

そう思いながら

「俺、就職するかもよ?落ちたら、予備校行かせる金ねぇらしいし」

「じゃあそこで働く!」

「おまえさー」

「なーにっ?」

「自分ってものはないの?」

親は役場の職員と先祖から受け継いだ農業を掛け持ちしている。俺は子供のころから親の働く背中を見て育ったので親の迷惑だけはなりたくないと思っている。

「いーのっ。私は但馬と一緒にいたいのー」

「ちょ、腕を絡めるな。勘違いされんだろ」


「あついねー!」


「山口っ!!違うって分かってるだろ!!」

「学校公認のバカップルはちがうねー」

この背中を叩いてきたガタイがでかいやつは山口隆哉、今時学生帽かぶって、学生服の胸を開け無頼を気取っているが、実際はとても真面目なやつだ。我が高校の弱小野球部キャプテンで、見た目と違い品行方正で先生や生徒の人気も高い。勉強もできるので東京の大学にいくつもりらしい。


「山口先輩!!ちっす!!おはよっす!!」


山口に挨拶したジャージで坊主の子は、一年の菅正樹。

野球部のエースピッチャーである。

彼の実力には我が校はじまって以来の県大会二回戦突破の期待がかかっている。

「但馬先輩たち見てると自分も幸せになるッす!じゃ!自分ランニングの途中なんで」

「おい……!」

「スガー無理すんなよー」

彼は練習熱心なので朝練を欠かさないのだ。

「山口ー」

「なんだ」

「運動部っていいなー青春ってかんじだー」

「そうだな。俺は文芸部も羨ましいけどな」

俺は文芸部という名のマンガ読書部の副部長である。部長は美射に押し付けた。はり切った美射は予算をとりまくり部室にはありとあらゆる文芸書に偽装された漫画が揃っている。ああ、言い忘れていたが、野球部は弱小なのでまだ三年がいるこの春の時点で

実力のある二年の山口が今年からキャプテンで、文芸部は俺が放課後ダラダラするために一年のときに新規に立ち上げた部である。

というか美射に立ち上げさせた。

三年の部員も一応居るが、皆物静かなので俺(の意向を汲んだ)美射中心で回している。

「今度、漫画見にいっていいか?」

「いいぞー。代わりに俺ら野球やっていい?身体なまり気味でさー」

「先生に話してみるわ。たぶんいけるだろ」

俺は中学までは野球部だったのだ。硬球が怖いので漫画部に転進した。


「あんたらベタベタしてて、毎日毎日、ほんっとキモイ」


「うっせボケ」

慣れた声に脊髄反射で反撃する。

後ろから煽ってきたのは山根鏡歌、地味な女子が多い我が高校で

唯一のギャルである。

百七十の長身に金色に染めた髪を結い上げて、裾の短いスカートからは長い足が伸びる。美射は彼女が苦手で、俺の後ろに隠れる。そしてそれを目ざとく見つけた山根が

「美射ちゃんは相変わらず、但馬の金魚の糞してるのかー」

と一言嫌味を言ってから、去って行った。

「こわかったぁー」

涙目の美射はぎゅっと俺の制服を握りつめる。

「あいつはなぁ……」

山口がため息を吐く。山根はここらの一帯の山を持つ地主の家系で見た目の美しさもあり、高校内にも信奉者がいる女である。

本人はそんな状態のまま小中高ときているのでかなり勘違いしたままきてしまった。

俺らも大人に近づいてきて、年々彼女の傲慢さを理解するようになり次第に彼女の周りには一部のファンしか残らなくなり、それを感じた彼女は、益々トゲを増していくといったのがここ最近である。

「まぁなー。あと二年だしほっとこうぜ」

「うーむ……」

真面目な山口は、山根をみんなに溶け込ませるためにどうにかしたい思っているようだが、俺は性格なんてもんは簡単には変わらんしほっとくのが一番だと考えている。

その時


「ねぇ但馬……あれ何?」


山の向こうに見える海のさらに先を美射が不安げに指をさす。

「ん……?」

次第にせまってくる細長い物体に俺たちは目を凝らす。

「なんだ……?飛行機?」

すごい早さでそれは俺たちの町の上まで飛んで来て、弾け飛んだ。

ミサイルなどの何らかの兵器だと気付いたときにはすでに辺りは真っ白な光に包まれていた

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