あたおかの日常脳内妄想。

寅田大愛(とらただいあ)

エッセイ1

 あたおかとか言うなあや。あたおかやけど。あたおかパリピミュージック大好きやけえ部屋で大音量で流しとるわけやけど、やっぱりあたおかなんかもしれん。どうでもええけど。めっちゃでかい音でアルプス一万尺のEDMが本棚の上の方のつまり頭の上の方に置いてあるBluetoothスピーカーから降ってくるというわけ。おかしいよね。そうでもないかなあ。どっちでもいいや。仔山羊なんて正直どうでもいいんやけどね、テンションの上がる曲を聴きたいわけよ。

 家にはキーボードが3本あるんやけど、そのうち一本はシンセサイザーなんやったわ。うん。で、それの調子が悪いの。はあ。鬱になるわ。

 趣味で音楽を作ってるんだけど、小説同様大したものができんのが悩み。もう知らん。

 

 頭のなかにはイー様って個人的に呼んでいる大天使様が棲んでるんだけど、うん、イスラム圏の天使ね、なんでとか言われてもそこにいるからとしか言いようがないから聞かないでほしいんだけど、イー様がなんと今日、コーヒーの濃いめのを何杯も飲むと神のお告げが降りやすくなるって言ってくださったもので、本日わたくし朝から濃いめのコーヒーを何杯も飲んでるんだけど、なんかすごい。カフェインきめながら暮らしてるとね、変性意識とかいうやつかな? あれっぽくなったりしてる感じする。なんで? なんかとにかく鋭敏なわけよ。神様のお告げまだかなあ?

 神様と繋がるのはとても難しい。神様の偽物とならいくらでも拾えるし繋がるけど、本物と繋がるのは難易度がとても高い。神様の偽物があたしの教育係を自分で名乗り出て自ら率先して担当しているものだから、本当に面倒くさい。それだけあたしのレベルが低いからだと思うけど、本物の神様に近づこうとするとその偽物の自称教育係の霊が邪魔するから、神様と直接お話できない。

《本物の神様に会ったらきっとおまえ号泣するよ》

 自称教育係が大して偉くないくせに偉そうにあたしに上から目線で言ってくる。非常に腹が立つ。どっかいけや。

「でもあたし会いたいの。邪魔しないでよ」

 ここで中断してしばしのホワイトノイズみたいな音が入る。たぶん教育係と神様とで話し合いが行われているんだ。はよ。はようして。

 ああ。

 瞑想しよ。

 霊力を高めるには瞑想がいちばんいい。

 目を閉じて集中しているといつの間にか寝落ちしてしまうけど、瞑想ってやっぱり効果的だと感じる。これはね、やってみないとわからないと思うけど、体感したらわかる。身体を流れるスピリチュアル的なエネルギーが増してくる。

 わわわわわわわわぁああああみたいな変な音が降ってくると思ったらなんかあたしの体質と会わない曲がたまたま流れてきた。トランス状態っぽくなる曲よりも無音状態の方が集中力が増すんだけどねー、いいかなあと思ったんだけど。

 神様のお告げ、降りてこないや。

 好きな食べ物を食べるとお告げが降りてくるらしいと頭のなかのイー様が言ってたけど、それも違うっぽかったし。なんなんやろ。あたしの唐揚げ代900円。もったいなかったわ。返せ。

 

 あたしは音楽を聴きながらベッドの上でごろごろしているのをやめて、キャンドルでも焚いてみるかと思い至った。キャンドルの灯が揺らめいているのを暗闇のなかで眺めていると、いい瞑想の練習になるときいた。

 あたしの霊力が何者かに盗まれている。

 あたしのスピリチュアルヒーラーとしての霊力が、ある日を境に急激に減った。盗まれているんだ。はーあ。盗まれるとかなに? あたしのこと馬鹿にしてるやろ? マジ頭来る。

 

 なんか知らんけど、夜になった。

 チルでメロウな音楽を聴いてまったりしていると、泣きそうになってきた。なんでこんなに涙が滂沱と流れるんだろう。音楽を聴いていて、こんな感覚になったことはないんだけどな。音楽って不思議だ。囁き声みたいな歌い方で優しく歌われると、溶けそうになる。優しく波打つような優しい繰り返しを多用するメロディ。良すぎる。あたしの耳がおかしくなってしまったのか。以前はこんな音楽を聴いてもなんとも思わなかったのにな。泣きそうなあたしを隣でなだめてくるような優しい心を溶かす歌詞。脳か。あるいは心か。感情か。どちらにしても、あたしは変わってしまったようだ。チルでメロウでおしゃれなシティポップスに心が揺らいだこの感覚は生まれてはじめてだった。また何度でも聴きたいけど、変な邪な気持ちがわいてきたら嫌だから、ほどほどにしとこおうっと。

 この歌を作った作者と恋したいとかね。

 あたしってすぐそうなっちゃうんだ。

 お馬鹿な思考回路だよね。ホント自分でも呆れるよ。

 だからあたしはありとあらゆるものから距離を置いておかなければならないんだ。自分を律するために。


 すれ違っただけで恋に落ちた。

 視線を感じた。でも無視した。普通ならそれでよかった。

 でも。

 あたしは払いのけるようにその男の思念を、繋がろうとして追いかけてくる霊体を、見えないふりをした。

 男はついてきた。頭のなかだけで。

 いつものようにストーカーされるのだろうなと諦めた。

 ある程度邪険に扱ったらいなくなるだろうなと推測した。いつもそうだったから。

 あたしはテレパシーが使えるので、ある程度の霊力の保持者だったら、相手をもテレパシー能力者にすることができる。

 テレパシーの能力がうつってしまうのだ。感染? 能力開花? させてしまう。

 その男は。

 あたしは。



 どうでもいい。どうせ全部あたしの妄想だから。

 そういってしまえばなにもかもが終わってしまってどうでもよくなってしまうけど、あたしはまだ期待しているんだ。ほんの少しだけ。またきっとどこかで会えるよ。あの男が頭のどこかでそう言っているのがわかる。どうでもいい。どうしたらいい。あたしは泣きたくなってしまった。

 駅前に出た。

 人が閑散としている別にどうということのない駅前で、ふいにあたしはここにいるんだよ、迎えに来てよ! と叫び出したくなってしまった。

 あたしはここ! 早く来て!

 そう叫んだって、みんなが驚いてしまって、ようようやってくるのはあの男じゃなくて救急車かパトカーか警察から連絡を受けた両親かなにかだろうからやめておくけど。

 

 迎えに来ない時点で気づけよ。

 そんな声にはっとなって目を覚ますと、あたしはパソコンに突っ伏して眠っていた。深夜4時だった。この時間帯になるとこの間自殺した同級生が部屋に遊びに来るんだったな。とっととベッドで眠ってしまえばいいのに、あたしはまだパソコンの前でもがいていた。名作が書きたい。とんでもない作品が書きたい。そんなことばかり思って毎日を、生きている。


  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る