第4話 マリア様の聖女の力

この団長様、今好きな人がいることをお認めになられましたよ。




ニヤニヤした顔で男を見ていると、急に恥ずかしくなったのか、私の鼻をつまんできた。




「何するんですか!」


「聖女様がおかしな顔をしてたから、治してやろうかと思ってな。」




この男は本当にガサツだな。


しかし、これは使えるかもしれない。




「団長様、これを差し上げます。」


「?聖水か。」


「いえ、ただの聖水ではございません。なので、これをお飲みになる際は、団長様が想われているという相手の前でお飲みください。」


「?」





私の聖水は、作って直ぐに騎士たちに手渡される訳では無い。


私の聖水にきちんと効果が付与されているのか、精査する人たちがいる。




私はあの後、自分の作った聖水を精査所に持っていくついでに、マリア様が作った聖水も見てもらっていた。




「確かに、状態異常の効果が付与されておりますね。」


「これ、使えないんですか?」


「この聖水自体は使えないでしょうね。魔獣に使ったところで、興奮状態になって暴れられても意味が無いでしょうし。」


「人体への影響はないってこと?」


「?はい。これを飲んで死ぬということはありません。死ぬほどに強力なものであれば、そもそも机の上には置かないでしょうし。」




確かに。


そんな毒みたいなものが普通に置いてあるとか怖すぎる。


……いや、これも充分毒みたいなものなんだけど。




「間違えて飲まなくて良かったですね。」


「飲んでたら、どうなっていました?」


「効果通りですよ。体が火照って、興奮してきて、目が冴える。」




もう少し弱く作れば、エナジードリンクとしても使えそうな効果だな。




つまり、精査の結果はこうだ。


「飲まない方がいいけど、飲んだところで特に人体に多大な影響を及ぼす訳では無い」




なら試してみたい。


マリア様の聖水を。


いや、媚薬というものを。





私は早速動き始めた。


団長にはあまり詳しく説明せず渡したので、あの聖水の結果は自分の目で確かめる必要がある。


「他の人の前では使うな」と、かなり念は押しておいたので、そこら辺で飲むことは無いだろう。


ただ、あの男が聖水を使う可能性のある場所が分からない。


あの男は、いつもどこで想い人と会っているのだろう。


自室か?相手の部屋か?それとも別に密会場所かあるのか?


検査結果が見届けられないのでは意味が無い。




私は、第1騎士団を尋ねた。


第1騎士団は、聖女の護衛をするために特殊訓練を受けたエリート集団だ。




「すみません、リーナ騎士はいらっしゃいますか?」


「せ、聖女様……!しょ、少々お待ちください!」




第1騎士団に所属するリーナは、私の身の回りの世話も担当してくれてる女性騎士だ。


彼女はとても有能だし、秘密も守ってくれるだろう。




「聖女様、如何されましたか。」




リーナの頬には汗が伝っていた。


恐らく訓練の最中だったのだろう。




「急に呼び出してごめんね、少し手伝って欲しい仕事があるの。」


「聖女様のお仕事を私が手伝うのですか?」


「そうよ。しかもこれは、秘密のお仕事なの。」


「秘密の仕事……。わかりました、すぐに準備してまいります。」


「あ、出来れば暗めの服を着てきて。」


「暗め?」


「そう、今着てるみたいな服でいいわ。」


「……かしこまりました。少々お待ちください。」





暗めの動きやすい服に着替えてきたリーナに、仕事の一連の流れを説明した。




「つまり、第3騎士団団長の尾行をすれば良いのですか?」


「そう。」


「……何故か聞いても?」




できれば説明はしたくなかったが、リーナが団長と想い人の濡場に遭遇するという可能性もあるのか。


そう考えると、きちんと説明した方が良さそうだ。




私はリーナに、マリア様の聖水の効果と、その聖水をあの男に渡したことを説明した。




「マリア様には聖女の能力はなかったはずですが……。」


「治癒能力はね。でも、状態異常の効果を付与できるということは、その力で騎士たちの能力を底上げできる可能性もあるのよ。」


「確かに、機能上昇という効果は気になります。」


「でしょ?だから、私たちで確かめましょう、マリア様の聖女の力を。」




リーナを上手く丸め込むことに成功した。

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