第2話 マリア様の聖水
聖女としてこの世界に転移してから、一ヶ月が経った。
異世界と言えど、日付や時間が元いた場所と同じというのは、とても助かる。
私がこの世界でやることは一つだけ。
魔物との戦いで傷を負った騎士たちを癒すこと。
つまり、治療をするのが私の仕事だ。
私は元いた世界で看護師をしていたので、幸い血を見ることに抵抗はない。
前職での経験も活かすことができるし、細かい医療技術は必要としないので、聖女としての仕事はまさに天職だった。
この世界には残業という概念がない。
元いた世界では残業、徹夜は当たり前だったが、この世界でそのようなことをしたことはまだ一度もない。
ゆっくり寝て、いっぱい食べて。
そして、つい先日この世界に届いたBL本を読む。
なんて幸せな一日だろう。
こんなに幸せな生活を送らせていただいて、いいのだろうか?
ただ、一つだけ気がかりなことがあるとすれば、マリア様だ。
代々聖女としてこの世界を守ってきたのに、なぜ彼女にだけ治癒能力が宿らなかったのだろうか。
コンコン。
ドアをノックする音が聞こえた。
「聖女様。そろそろ仕事のお時間です。」
「分かりました。」
私はBL本を急いで棚の奥に戻し、部屋を出た。
お仕事と言っても、騎士たちを治療をすることだけが仕事という訳では無い。
騎士たちが遠征先で怪我をした際に、すぐに治療できるよう、『聖水』を作るのも私の仕事だ。
「今日は聖水を二箱分作っていただきます。」
最近魔物の数が減少傾向になりつつあるからか、聖水の出荷数も最初の頃よりは減ってきた。
それもこれも、騎士たちが前線で戦ってくれているおかげだ。
早速作業に取り掛かろうと机を見ると、見たことが無い色の聖水が置いてあった。
「これは、何ですか?」
「あ、それは……。」
私が作ったやつかと思ったが、どう見ても色が違う。
私がいつも作る聖水は水色だが、この聖水瓶に入った水は淡いピンク色をしていた。
もしかして。
「マリア様が作られたものですか?」
「……はい。ですが、聖水としての機能はございません。」
「でも、色がついてますよ。」
「効果が異なるので、聖女様のお作りになった聖水とは色が違うのです。」
「効果?」
私が作った聖水には、治療効果はもちろん、痛みを抑える効果や、リラックス効果などが付与されている。
しかし、マリア様が作った聖水は、それとはどうも異なるらしい。
「具体的にどのような効果が?」
「興奮状態付与、体温上昇、機能上昇などですね。」
え、それって。
「媚薬……ですよね?」
「ビヤク?」
もしかして、この世界には媚薬という概念もないのか。
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