第2話 暗躍する者たち
夜が深まり、人々が寝静まる午前1時頃になる。すると、決まってある者たちが、動き出す。暗躍者だ。その中でも最も有名なのは、今、桜井と名乗る協力者から、特定の個人に関する情報を聞き出している、夜影迅という黒ずくめの服装をした男だろう。
「それで、
「特に常闇地区と水運地区が多いですね。知り合いも、それらしい人を目撃したって言ってましたし」
「桜井さんは、G.O.C.って知ってる?」
「そういえば、そんな組織もありましたね。人食いたちの集まりでしたっけ。
「それを、今こうやって調べているところです」
こう答えることが、特定の情報について協力者ではあるが、信用はできない人間から、深く詮索されそうになった場合の適切な答え方であることを夜影迅は知っていた。つまり、否定も肯定もしなければ、相手はそれ以上の追及をすることができない。
「そうなんですね。では、引き続き頑張ってください」
「ありがとうございます。それでは、僕はこの辺で失礼します。桜井さんから聞きたいことは全て聞けたので」
夜影迅は、手長210mmの大きな手と、でこぼこに並んだ歯を見せながら、別れの挨拶をした。桜井が、夜影迅を見送ろうと手を顔の近くまで上げる。だが、桜井が手を振ろうとしたときには、夜影迅は、既に深い闇の中へと消えていた。
A氏は、夜泣市において南側に位置する安眠地区にいた。もっと具体的に言うならば、安眠地区の中でも高級ホテルとして知られている
A氏にとって、ホテルのユニットバス、あるいは個室のトイレというのは秘密の情報をやり取りするうえで、理想的な場所といえた。なぜなら、それらの場所にカメラがあることは稀で、仮にあったとしても、その空間の上の部分しか見れないようになっているからである。
A氏は、ユニットバスに出入りするための扉を閉めると、軽く便座の表面をトイレットペーパーで拭いてから座った。目的は情報のやり取りなので、ズボンやパンツは下ろさない。灰色の袋から携帯を取り出し、「???」アプリを起動する。A氏宛に1件の新着通知が来ていた。A氏はすぐにメッセージの全文を表示し、それを目で追った。
『以下の参考情報は、ZEROからいただいていますが、今後もいただきたいため、これからも収集していただきたいものとなっています。確認よろしくお願いします。
〇犯罪組織に関する情報
・夜泣国(メンバーの人物に関連したものも含む)
・神聖領域実現教団(メンバーの人物に関連したものも含む)
〇
・犯罪者コミュニティーに関すること
・犯罪組織同士の敵対及び同盟関係に関すること
・その他の犯罪特区関心事項
◎参考になるかわからない情報でも、とりあえず送信してください。何度でも大丈夫です。』
A氏は、メッセージを一通り読んでから削除した。「???」アプリは、世界最高レベルのセキュリティを誇るSNSなので、個人間の会話でもメッセージを消してしまえば、外部に漏れることは絶対にない。それから、A氏は、「???」アプリを使用して、同じZEROのメンバーであるE氏にメッセージを送った。犯罪組織の内部にZEROの協力者を作るために、相手との信頼関係を築くことに長けているE氏は、A氏にとってぴったりの人物だった。
そして、当の本人(常野場屋)は、帝星と呼ばれる爆弾魔の行方を追って、
それに、危険を完全に避けるためには足元と頭上、さらには突然来るかもしれない敵の攻撃を同時に警戒し続ける必要がある。
(そんな芸当、ボクにも出来っこないね)
だからこそ、帝星は
さらに言えば、現在は夜で懐中電灯などの道具がなければ、目の前はおろか足元さえもよく見えない。逆に、光を頼りに歩いていると目立って、敵から狙われやすくなる。それなら、なぜ、常野は夜でも周りに存在する物を視認できるのか。その理由は、常野が装着している暗視ゴーグルにあった。
(これがあるから今も動けているんだけど、夜に移動しても何も得られなさそうだから、朝まで待とう)
暗視ゴーグルで周囲と比較すれば安全だと思われる場所に腰を下ろして、水筒の水と数枚のクラッカーを口にする。そうして、常野場屋は、前後左右に人がいないことを確認し、静かに目を閉じた。
常闇地区にある夜泣国の本部では、夜影迅及び最重要幹部の4人が集まっていた。切れ長の目をした夜影迅が秘密会議を開く宣言を行う。
「じゃあ、早速だけど秘密会議を始めようと思う。今回の議題は2つ。新しい市長が言っていた犯罪対策連携協定と、脅威が増している
アンと呼ばれた女性、
「そうね。望月とかいう市長が提唱していた犯罪対策連携協定が実現した場合、同時に幾つもの市民防衛組織と相手をしなきゃいけないことになる。特に、警戒しなきゃいけないのは皆輪市のミナノワ悪党退治衆ね。ここまでで何か質問ある?」
「あー、僕から1ついい?」
申し訳なさそうな顔で、遠慮がちに手を挙げたのは、総書記にして、メディア・通信対策部の部長でもある広底内記だった。
「なに?」
「どうして、夜泣市の民の盾じゃなくて、ミナノワ悪党退治衆が挙がるの?」
「いい質問ね。民の盾は、市民防衛組織としては暗暮地区で最大の人数を誇るけど、組織としての完成度は高くないの。それに対して、ミナノワ悪党退治衆のメンバーは強い団結力で結ばれていて、誰もが優れた戦闘能力を持っている。これが私の説明なんだけど、理解できた?」
「出来ました」
広底内記の顔は、納得したような表情に変わっていた。
「
「ええ!?」
最重要幹部の3人が一斉に驚きの声を上げる。女性並みの小さな両手をテーブルに出した夜影迅が言う。
「さすが、アン。僕が偽物の夜影迅だってよく気が付いたね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます