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 僕は準備運動をしたあと、街道を走り始めようとした。


 でもその時、ミューリエが冒険の身支度を調えて僕のところへ歩み寄ってくる。まさかこのままどこかに行っちゃうってことはないよね……?


 不安を抱えつつ、僕は恐る恐る彼女に声をかけてみる。


「ミューリエ……どこかへ……行くの?」


「うむ。町へ行って体力回復薬を補充してくる。それを使えば、アレスも少しはマシな状態で試練の洞窟に挑戦できるだろう? ま、そういうわけだ。私が戻り次第、洞窟へ出発するからそのつもりでいろ」


「あ、うん……。えっと……じゃ、このままいなくなったりしないよね?」


「案ずるな、約束は守る。本当に心配性だな、アレスは」


「だってさ……」


 ミューリエは苦笑いしているけど、僕はどうしても不安になる。彼女が約束を破るはずないと分かってはいるけど、万が一ってことを考えてしまうのだ。


 傭兵たちに置き去りにされたことが、やっぱりまだ心の奥底に引っかかってるのかな……。


「アレスよ、私が見ていないからってサボるなよ?」


「大丈夫だよ。そんなことはしない。僕だってちゃんとミューリエとの約束を守るよ」


「ふふ、信じているぞ。では、行ってくる」


 ミューリエは僕の肩を軽く叩くと、シアの城下町のある方向へ歩いていった。


 もし普通のスピードで移動したとしたら、ここに戻ってくるのは日没の前後くらいかな? あるいは夜になるのかな?


 なんにせよ僕と一緒だった時みたいに数日かかるってことはないと思う。あの時のミューリエはかなり余力を残している感じだったから、その数倍は早く進めるだろうし。


 つまりこれはほんのちょっぴりだけど、試練の洞窟へ挑むタイムリミットをオマケしてくれたってことだ――と思う。


 まさか全速力で走っていって、馬にでも乗って戻ってきたりしないよね? でもミューリエの性格だとそれも完全には否定できないんだよなぁ……。





 ミューリエが町へ出かけて数時間が経った。相変わらず僕は走り続けている。


 ――といっても、スピードは歩いているのと変わらないかもしれない。疲労がもう限界で、これが精一杯なのだ。


 だけど僕は前へ進み続けるしかない。もし立ち止まってしまうと、もっと足が動かなくなってしまうということが昨日よく分かったから。


 歯を食いしばり、僕は一歩ずつ足を踏み出す。


 するとその時――!


「ゴァアアアアアァッ!」


 不意に森の奥から恐ろしい雄叫びが響いた。しかも定期的なリズムで地面が微かに振動していて、それは少しずつ大きくなってくる。


 これは尋常じゃない重さの何か。おそらく普通の獣じゃない。巨大な熊でさえ、目の前を歩いていてもこんな振動は起きていなかったんだから。


 ――だとすると、これはきっとモンスターだ。それも洞窟にいたスライムとかデビルバットみたいなヤツとは比べものにならない大きさのヤツ。


 なにより離れていて姿も見えないのに、身がすくみ上がってしまうような威圧感まで明確に伝わってくる。思わず全身に鳥肌が立って、奥歯がガタガタと震える。気を抜くとその気配だけで失神してしまいそうだ。


 やがて近くの木々の葉が揺れるくらいにまで振動は拡大し、ついには僕の前に姿を現す!


「ヒッ!」


 木と草の陰から姿を現したのは、大きな岩の塊みたいなモンスターだった!


 高さは僕の身長の倍くらいあり、目や鼻、耳、口などはない。だから雄叫びは全身を震わせて発しているみたいだ。


 その体は瓢箪みたいな形をした岩の塊で出来ていて、そこから手足が2本ずつ出ている。


 しかも岩みたいなくせに動きは意外に速くて、地面には重さによって窪んだ足跡をつけつつ、あっという間に僕のところまで迫ってくる。


「あ……あぁ……ぁ……」


 恐ろし過ぎて声がうまく出てこない。こうして目の前に立たれると、その巨大さが際立って分かる。


 別に手足や魔法などで攻撃されなくても、僕の方へ倒れかかってこられるだけで充分な脅威。ぺしゃんこに潰されておしまいだ。絶対に命は助からない。



 なんて最悪なタイミングなんだ……。この場にミューリエはいない。どうすればいいんだろう?



●逃げる……→65へ

https://kakuyomu.jp/works/16816927862192814506/episodes/16816927862195287311


●剣で戦う……→47へ

https://kakuyomu.jp/works/16816927862192814506/episodes/16816927862194856439


●ミューリエが戻ってくるまで時間を稼ぐ……→39へ

https://kakuyomu.jp/works/16816927862192814506/episodes/16816927862194661754


●考える……→41へ

https://kakuyomu.jp/works/16816927862192814506/episodes/16816927862194715289


 

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