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ミューリエに不意打ちを仕掛けて、少しは僕の力が上がっていることを示そう。もし成功すれば、実力を認めて剣の使い方を教えてくれるかもしれない。
ゆえに僕はハーブティーを啜りながらもチラチラと視線だけを動かしてミューリエの動きをこっそりと窺い、隙が出来る瞬間をじっと待つ。
一方、ミューリエはいつものように落ち着いた様子で、切り株に腰をかけて古ぼけた何かの本に目を通している。時折、手で前髪をいじったり顔を触ったり本のページを捲ったり。
いずれにしてもこちらには意識が向いていないような気がする。
これならふとした瞬間に足下の棒を拾い上げつつ駆け寄って攻撃を仕掛ければ……。
その時、ミューリエは視線を本に向けたままポツリと呟く。
「……アレスよ、不意打ちを狙っているなら殺気を隠せ。『無』の心でなければ相手に感づかれるぞ」
「っ!?」
「厳密に言えば、アレスの場合は殺気ではなく『空気』といったところか。いつもの無垢な空気が淀んでいるように感じる。その違和感で異変に気付く」
「……っ……」
さすがミューリエだ。分かっていたことだけど、気配を感じ取ったり戦いに関するセンスだったりは僕より何百枚も何千枚も上手。付け入る隙なんて最初からなかった。
不意打ちならなんとか一矢報いることが出来るかもなんて考えが甘すぎた。
僕はガックリと肩を落とし、苦笑する。
「やっぱりミューリエには適わないな……」
「当然だ。踏んできた場数が違う。――さて、アレスは私に不意打ちを仕掛けようとするくらい自分の力に自信がついたようだし、特訓は切り上げて試練の洞窟へ向かうとしよう。良いな?」
「そ、そんなつもりは……」
僕は慌てて否定するものの、ミューリエは全く聞く耳を持ってくれなかった。もしかしたら彼女は僕の思い上がった気持ちに腹を立てたのかもしれない。
こんなことなら素直に言うことを聞いて、走り続けるべきだった……。
その後、僕は試練の洞窟へ挑んだけど途中で遭遇したモンスターたちとの戦いに苦戦し、タックさんのところへ辿り着く前に力尽きてしまったのだった。
BAD END 5-4
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