非現実的幻想風景

フィガレット

非現実的幻想風景

 美しい幻想風景。


 非現実的風景。


 現実からかけ離れた情景。

 しかし、それだけでは足りない。

 何故か?人は比較でしか物事を判断出来ない。

 かけ離れたモノは正しく認識出来ない。


 よく知る綺麗なモノで形取る。


 更に観測者によってもそれは変化する。


 置かれている状況、過程にも左右される。

 想像や推測すら、景色を変化させる・・・。


・・・・


 彼は生前、全盲であった。

 彼にとって、暗闇こそが風景。

 否、暗闇という表現も正しくはない。


 何も認識出来ない。


 目を瞑り見る瞼の裏の闇ですら存在しないのだ。


 彼にとって、風景は想像であり創造。

 しかし比較対象が存在しない彼にとっては、その創造すら困難であった。


 それを現す言葉は、言葉としてしか認識されない。

 触れた感触が、手触りが、質感が彼にとっての景色。


 水の冷たさが、海や川と直結する。


 肌に触れる温度が、季節を現す。

 弱く儚い感触と、柔らかく甘い香りが花を現す。


・・・


 そんな彼が、命を落とし新しい世界に降り立つ。



 そこで彼は・・・視力を得た。

 

 彼は空を見上げる。


「これが、青か・・・。

 これが世界・・・美しい」


 念願の刺激が涙に滲む。

 彼は慌ててそれを拭う。


 自らの手ですら初めて正確に認識する。

 肌色・・・黄、赤、青、白、黒。色の性質。


 彼は、そう言った特性を知識として深く得ていた。

 それはきっと・・・憧れから来るものだったのだろう。


 先程から大小、球体であろうモノ?が宙に浮かびながら横切る。

 大きいモノは掌より大きいくらい。小さいモノは小指の先ほど。

 柔らかそうで、実体のない雰囲気。

 触れてみるとなんの感触もなくすり抜ける。


 不意に風が吹き彼の髪をなびかせ景色が震える。


「私は知っている。これは風だ」


 風が、足元、膝ほどの高さで広がる稲穂の様な草を、

撫でるように揺らしていく。


 彼は小高い丘の上に立っていた。


 傍には、五メートル程の樹。

 それは後ろの景色を透過し、光を反射し輝いている。


 空の遥か手の届かない場所、そこには眩しく光りアメーバ状の蠢く図形?

 それがいくつも浮かんでおり、伸びては、時折ちぎれて丸い形状をとる。


「あれが太陽?それとも雲?・・・穴?」


 知識との齟齬に少し戸惑う。


 丘から見下ろした草原の先には明らかに文明を感じられる、

街の様なものが小さく見える。


「まずは、あそこを目指すか・・・」



 そして彼は歩き始める。



 彼は気付かない。



 空の色は、青色ではなく黄色だと言う事に・・・。



 そして、足元に広がる草原は赤で染まっている事も・・・。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

非現実的幻想風景 フィガレット @figaret

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る