剣を握る手の大小
アークは、グレーテが囚われているトラックに気づくより前に、一階の窓からするりとビル内へ侵入する。当然魔法を遣って、だ。
カミヤのところへは
取り敢えずビル内を捜索しよう、とアークは走り出す。窓から入ることで受付は突破できているので、建物に相応しい格好をしていれば、他人から怪しまれることはない。そもそも大きいビルで、いろいろな企業が入っており、他社との接触が深いとも思えない。自社の者でなければ、多少違和感があっても、見逃すだろう。
それにしても、とアークは思う。
ここに入っている企業は、大中小問わず、科学技術を取り扱う会社だ。
そんなビルで、なぜか
重い『
実は歴史的な料理の製法とか、伝統的な芸術の作法とかには、古い時代の魔術が刻まれていることが多い。それは基本的に魔法を知る者にしか感知できないもので、よってこれが規制されることはない。かつて魔法が一般的だった時代では、魔法ありきのものも少なくなかった。それが『ヘンゼル魔女裁判』以後も見逃され、今に至る。
とはいえ、最近隆盛した科学技術に、魔術が使用されているとは考えにくい。
それはつまり。
「
アークは気を引き締め、『
☨
カミヤは腕時計を見る。十七時三十七分。まだ見つからない。先程から、会場の周りを何周もしていた。
猫には持久力がない。それは『猫憑き』のカミヤも同様で、もうすっかり息が上がっていた。思いつきで行動するものではないと、カミヤは少し反省し、ベンチに座る。会場には次々に人が入っていく。ここで爆発が起きたら、大騒ぎ――どころではない。出口に人が殺到したり、出口ではなくフェンスを飛び越え逃げる人がいたり、ドミノ倒しになったり。小さな子供も多くいる。大人たちには賢く行動してほしいものだが――この興奮状態。
それも作戦の内なのだな、とカミヤは思う。こちらで大騒ぎが起きていれば、シュテルンビルの爆発も霞ませることができる。そう思う程、皆
また探し始めようと、カミヤは立ち上がる。その時、カミヤの動体視力が、しゃがんでガチャガチャ何かをいじっている男を捉えた。その周りには三人。見張りだろうか。
カミヤは、持ち前の瞬発力で――瞬く間に、しゃがんでいた男に飛びかかる。噛みつかんばかりの勢い。男は驚いて手に持っていたものを落とす。周りの三人は突然のことに固まっていたが、すぐ我に返ると、カミヤを取り押さえようとする。一方のカミヤは、最初に手を伸ばした女に、「フシャアッ!」と威嚇する。そうすると三人は手を出さなくなった。
カミヤに飛びかかられた男はというと、なんとか落としたものを拾おうと、手を伸ばしている。カミヤがそれに気づき、先んじてそれを拾った。
「おい、迂闊に触るな!」
地面に倒れながら男は叫ぶ。
カミヤは拾ったものを観察する。薄い板状のものにボタンやレバーがいくつかついている。右上では青い光が点滅していた。爆弾のようには見えない。これは――
と、カミヤの顔の横を、何かがかすめる。カミヤは何とか避けるが、それは戻って再びカミヤに向かってくる。
ドローンだ。カミヤはまた避けた。
「いい? よく聞いて。それはそのドローンのコントローラーなの。私たちに返して頂戴」
先程カミヤに威嚇された女が、そう言う。
カミヤはドローンを目で追う。何かが乗っている。コンサート会場での演出用かと思ったが、それならば会場の外で操作する必要はない。そして今日、この会場で計画されていたことを思い出す。
(
カミヤはコントローラーを地面に叩きつける。女が持っている小さなコントローラーでは簡単な操作しかできないだろうという判断。そしてドローンを捕捉し、飛びかかる――のを見越され、ドローンは空高く上がる。
「壊される訳にはいかない」怖気づいていた他の者も、
ドローンが、ステージへ。観客がそれに気づく。カミヤは走る。間に合わない。このままでは――
ドローンが、どこからか、撃ち抜かれる。
そして遅れて――爆発。
※
「なんて『
男は構えていた銃を下ろし――『
“ ¡###! ”
☨
爆発は――したのだが。
光と煙が出ただけで、ドローンの破片は飛んでこず、他に被害は見られない。
「……?」
カミヤは汗だくになり、息切れをしながら、
あれは――アークのような、魔法だろうか。
アークが来たのだろうか――だったら、まず連絡が入る筈である。では誰が――?
観客は突然の爆発に驚き、ざわざわとどよめいた。そして――ツヴァイマールの二人が、不測の事態に舞台に上がってくる。マイクをオンにして、『だ、大丈夫でしたか、皆さん――』
ワアアアアアァァァァァッ!
観客は盛大に叫ぶ。どうやら演出だと思ったらしい。まあ爆破犯が仕掛けた爆弾だといわれるよりは簡単な結論だ。カミヤは一気に脱力し、フッと顔を緩める。現在の時刻、十八時ちょうど。
どうやら、任務は達成したようだった。
ツヴァイマールの二人は、困惑しながらも、観客の声に応える――そして、最前列に、猫耳が頭から生えた女性を見つけた。彼女は目が合ったのが解ると、蒼い目をきらりと輝かせ、「にゃ、にゃあおー」と言い――自分で言ったことに驚いたのか、口を押さえ、フードを被りながらどこかへ走っていった。ツヴァイマールは、顔を見合わせる。そして、二人で笑い。
「「ツヴァイマール、野外ライブ! 最終日、開始でーす!」」
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