case1 「Endress Dream」~パート1・退屈~

 22世紀に入り、人類の技術は急速に発展したことで、意図的に自分が見たい夢を見ることが出来る機械までもが作られた。人々は現実での疲労を紛らわそうとするかのように、夢に入り浸っていた。

 しかし、長所と短所は表裏一体であり、夢に入った者が夢の中で現実世界に帰りたくないと感じると、強制夢幻製造没入機、通称〈夢造機むぞうき〉によって現実世界での記憶が消去され、夢の中に囚われてしまうと言われている。夢に囚われてしまった場合、夢が望む条件を満たさない限り、夢からの脱出は不可能だ。このような現象が何故起こるのか、解析が進められているものの未だに原因は不明である。


 俺、抱影樹かかげいつきもまた、現実世界に退屈を感じていた。刺激が少なすぎるのだ。特に昼間は級友たちと他愛もない会話をしているだけの平凡な高校生活が故に、つまらない。

 それに比べて夜はいい。信頼出来る仲間と共に夢陥者むかんしゃ(夢に囚われた人)を夢から救い出す。色んな人の夢に入るのだから、飽きも来ないし、スリルもある。俺にピッタリの仕事だった。

 そんな風に物思いに更けていると、俺の幼馴染おさななじみ一条夢香いちじょうゆめか、もとい、大手財閥の一条いちじょうグループ令嬢、別名お嬢様もどき(口調と態度がとてもお嬢様には見えないので俺が命名した)が、話しかけたそうな目でこちらを見ていた。

 

 話しますか? はい/いいえ

 

 俺は迷わずいいえを選択し、物思いに更けることに…

「ねえ、樹。今何か、ものすごく失礼な事考えてなかった?」

 お嬢様もどきが勝負を仕掛けてきた。


 どうする? 戦う/逃げる


 もちろん、逃げるに決まっている。さて、今日の夕飯の献立でも考えるか…

「樹?どうしたのかな?人が話しかけたのに無視?ねぇ、ねぇ、ねぇ」

 うまく逃げられなかったようだ。俺は仕方なく、ボールペンの先で小突いてくる、いや、ぶっ刺してくる夢香に反応してやることにした。

「なんだ、お嬢様もどき。俺の貴重な休み時間を奪っているんだから言いたいことはは簡潔に20字にまとめてから言えよ」

「あなたは、どれだけ女の子を傷つければ気がすむの?それにその呼び方やめてよ!」

「えっ、傷ついてたのか。言ってくれれば絆創膏ばんそうこうぐらいはってやるぞ」

「コイツ……」

「夫婦漫才はその辺にしてください、お兄ちゃん」

 夢香を適当にあしらっていると妹であるすみかの天使の声が聞こえてきたので、すかさず身体ごと動かして反応する。

「どうしたの、栖?なにか、困ったことでもあったの?」

「はぁ…私と夢香さんとの態度が違いすぎますよ。夢香さんの話も真面目に聞いてあげてください」

 俺は仕方なく身体は動かさずに夢香の話を聞いてあげることにした。

「聞いたか、夢香。栖のお言葉にせいぜい感謝することだな。で、用件は?」

優美ゆうびさんが、今日、仕事が入ったから集まれだって。時間は21:00」

「やっとか、最近仕事がなかったもんな。で、具体的な情報は?」

「それは、今日優美さんが自分で伝えるって」

「了解。これ以上話しかけるな。俺は無駄なことは極力避けたいからな」

「コイツ……」



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