3両目

その席は何時も空いている

どんなに混んでいても

誰もそこに居なくても

多分皆が不思議に思っている

しかし、何故か誰も座らない


ある朝

少しずつ混み始めた電車に妙にふらついた男が乗り込んで来た

車内に充満する程の酒の臭いを纏った男は、空いているその席を見つけて歩き出す

周りを威嚇するように無遠慮に体をぶつけながら人の間を無理矢理抜けて、空いている場所にドカッと座る

が、次の瞬間何かに弾かれるように飛び上がり、そのまま床に転がった

まるでバネ仕掛けの玩具のように

男は首を傾げふらふら立ち上がると、へらへら笑いながらもう一度席が空いている事を確かめ、今度はドスンと音がしそうな勢いでそこに腰を下ろした

その瞬間

男はギャッと奇妙な声を上げ、先程より高く跳ね上がると、再び床に転がって二度と動かなくなった


その席は今日も空いている

もう誰も、不思議には思わない

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