第18話 報酬の譲渡






「……何なんだ? アイツ」

「あのお方が私の仕える主、シオン王女殿下だ。以前の戦闘で何度かお会いしているはずだが、覚えていないか?」

『確かに面会は求めていましたね。全て私がブロックしていたはずなので、コウがまともに顔を合わせたのは先日の戦闘が初めてかと』

「あ~! あの時の奴か!!」


 アイオーンの言う面会を求めてきたタイミングと言うのは、コウがスピルリナと契約した直後の戦闘。

 そして先日の戦闘とはクラルス決戦の事を指している。


「けど何であんなカリカリしてるんだ?」


 これらのタイミングで今に繋がる因子は存在したが、当人であるコウがそれを一切認識していないのもシオン王女の怒りを助長する要因なのだろう。


「最近はオーラが戦場に行く事も多かったし、コウ殿にべったりだからなぁ……」

「べっ、べった!?」

「なるほどな。ヤキモチ焼いてんのか」

「恐らくは。数少ない友人、と言うよりは肉親に近い存在だからな」


 コーディエ王の予想もある意味では当たっている。

 だが当人の心境は、当人にしか全てを理解する事は出来ない。


「まぁ、そうですね……。シオン王女のお陰で、私は今こうしてここに立って居られるのです。何だかんだと言いつつも公正な評価をして下さる事には感謝していますよ」

「「「ほぉ~……?」」」

「そんなに見ないで欲しいのですが……」


 ある種のスピーチを終えたオーラは恥じらいと共に顔を下ろす。

 個人的な事情にはクビを突っ込まない主義のコウは大半を聞き流しているが、国王を初めとした重鎮達の心には響いたようだ。


「さて……話がかなりズレてしまったな」


 国王は咳払いをしコウに向き直る。

 重鎮達も姿勢を改め顔を引き締めた。


「今日コウ殿を呼び出したのは、直接お礼を言いたかったからというのもある。だが本題は提案だ」

「ほう?」

「良ければスピルリナ軍に所属しないか?」

「コーディエ王!?」


 こういう場ではある程度の台本が用意される。

 だがコーディエ王の発言は予定に無い事らしく、オーラを始めとした重鎮達は目を見開き動揺を隠せていない。


「悪いがそれは断る。軍属は多分、お互いの為にならないからな」

「そう……か」

「結論は前と変わらないという事だな」


 僅かな希望も残っていない事にコーディエ王は落胆するが、以前の話を聞いたオーラをとしては戦々恐々とした思いである。


「そりゃあ、もうさぁ……命令って面倒じゃん? やられるとさ、全部まとめて吹っ飛ばしたくなるんだよ」


 コウは宙に向けた両手をワキワキさせ、その不快感を主張した。

 オーラは国王からの視線を受けても肩をすくめるのみである。


『それで、まさかこれだけの為に我々を呼び出した……なんて事はありませんよね?』

「勿論だ。本当の本題、それはネストについてだ」

「ほーう?」


 ネストは今回の戦争でコウがパーゲル軍と戦う報酬となっていた資源惑星。

 そしてスピルリナが最初にパーゲル軍から取り戻した惑星である。


『理由は分かりました。ですが何故今なのですか?』

「コウ殿のお陰でパーゲル軍はほぼ追い出せた。ここまで働いているなら、報酬は先に渡すのが筋だと思い準備していたのだよ」


 パーゲル軍はグリーゼ宙域から完全に撤退した。

 各地の防衛線も以前同様に機能するようになった今、コウという英雄の強大過ぎる力が無くとも国は維持出来るだろう。


 そうした余裕のある状況ならば、凄まじい戦果を上げているコウに早急な報酬の譲渡をすべきだ……という声が王宮内外問わず上がっているらしい。

 そしてそれが可能な最短タイミングが今だったようだ。


「ネスト自体の説明は受けているだろうが、少しその歴史について話しておこう」


 ネストはスピルリナの本星に近くにあり、優秀な鉱石資源惑星として運用されていた。

 だがいつからか、不思議と植物が異様な速さで成長する星になってしまったらしい。


「植物が……?」

「地表に液体としての水が存在出来るような環境でも無ければ、栄養剤の類を撒いてもいない」

「原因は全くの不明か」

「そうだ。唯一の手がかりは最深部掘削班が見つけたと言う結晶体なのだが、それも回収出来ておらん」


 研究も満足に出来ていない上に、そもそも現地で調査をする人間も不気味がって中々行きたがらない。


 それでもコーディエ王達は何とか技術者と交渉し、何とか宇宙船を用いての除草作業までは行き着いた。

 だがコウのパーゲル軍撃退が予想以上に早かった事から、完璧な改善には至っていないそうだ。


『それでも、資源惑星としてはまだまだ使えそうですね』

「うむ。当時の予測では、資源を取り尽くすにはまだ数百年以上かかると考えられていたからなぁ。残るも何も、そもそもがそこまで取れていないはずだ」


 もったいないの一言に尽きるが、誰も行きたがらないのでは意味が無い。

 厄介払いとも取れる今回の譲渡も、コウであればどうにか出来ると踏んでの事でもある。


「追加で人の住む星を領地として与える事も考えましたが、それらは趣味ではないだろう? だからそちらは私の方で選択肢から外しておいたよ」

「さっすが~、分かってるぅ」

『むぅ……浮気ですか?』

「えっ、浮気……」


 AIから嫉妬を受けるオーラをの表情は微妙なモノである。


「いやいや、俺はロボット一筋だから」

『そう、ですか……』


 コウの返答を聞いたアイオーンの声色は微妙なモノである。

 その原因は何食わぬ顔で座り続けるが、室内には微妙な空気が漂い始めた。


「……話を続けよう。我々は当初の契約通り、ネストの所有権を無期限に無条件でコウ様に譲渡する。何かあれば今言ってくれて構わんが?」

「俺の方に異論は無い。契約完了だ」





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