第16話 金獅子の実力
コウの乗るレーヴェが単独先行し、戦闘を開始した一方。
スピルリナ軍艦隊の中央に構える大型戦艦の中で、シオン王女はとある心配事を抱えていた。
「レーヴェが無事だと良いのですが……」
数十分前、彼女の元には『レーヴェが敵全戦力の四割に囲まれた』という報告がオーラ経由で伝わっている。
パーゲル軍は侵攻に動かせる艦隊だけでなく、残りのレノプシスを全て投入し今回の戦いに挑んでいるのだから四割でも数はかなり多いはずだ。
いくら金獅子と呼ばれる傭兵が強くとも、そこまでの数には手こずるとシオン王女は予測していた。
「……もっとも、あんな無礼者が本当に我々の助けになるとは思えませんが」
彼女は自身と父であるコーディエ王を悩ませるコウを良く思っていない。
そうした考えを持つ者はシオン王女の周辺、そしてスピルリナ軍内部にも多く存在してる。
だがそうした人々と同じように、友好的に行くべきと考える人々も過半数を占めていた。
「彼が強大な戦力である事はこれまでの戦闘で十分証明されています。使えるのであれば、正当な報酬を払い頼るしか無いでしょう」
「ですが……傭兵は信用出来ません」
シオン王女の言葉にも一利ある。
実際に傭兵を囲い込んだ事が滅亡の引き金となった国が宇宙のどこかにはあると聞いている。
どちらが良いか悪いかでは無く、ただの真実として。
「我々が礼節を忘れなければ良いだけです。報酬さえちゃんと払えば、彼は仕事をしてくれますよ」
「それもどうだか……」
そもそもコウが戦果を上げすぎたが故に、こうして彼女が出なくてはいけなくなったという現状がある。
本来必要なかった危険に巻き込まれる原因となった相手が明確に居るのであれば、文句の一つも言いたくなるだろう。
「我々がどれだけの苦労をかけて金獅子を守ってきたのか……彼は分かっているのでしょうか?」
シオン王女の言葉にも一理はあるが、残念ながらコウの預かり知らぬ所である。
「それより、我々も我々の仕事をしましょう」
「……そうですね。報告の読み上げをお願いします」
「はっ!」
近衛兵が読み上げた報告によると、やはりパーゲル軍艦隊は戦力の大半をレーヴェに向けているらしい。
普通の相手であればそれで押し潰す事も出来たのだろうが、今回ばかりは達成が出来ていない。
暴れ続けるレーヴェの対応に手をこまねいている間に各地の戦力は散り散りになり、スピルリナ軍が優位に立てるレベルとなっているそうだ。
「では次の報告をお願いします」
「はい。続いては各部隊の損耗率に関してですが――」
だがそこに続く言葉は突如鳴り響いたアラートで遮られた。
旗艦にしてシオン王女の乗り込んだ大型戦艦の近くで、突如として爆発が発生したのだ。
「――何事ですか!?」
「右後方で原因不明の爆発、長距離砲撃と思われます!!」
スピルリナ兵の中でもシオン王女を護衛する近衛兵は特に練度が高い。
彼らは即座に状況を把握し、既に次の事態へと備えていた。
「左前方、急速接近する機影を確認。これは――」
『――未警告での射撃、失礼いたしました』
だがその備えは不要なモノである。
「金獅子、レーヴェ……。コウ様ですか」
『おう。全体の戦況を見るのは良いが、後ろもちゃんと見とけよ? 大型艦は乗っ取られやすいんだからさ』
「そうですね。戦闘が優位に進んでいて、少し気が緩んでいたかもしれません」
まさにスピルリナの希望とも言うべきコウの登場ではあるが、シオン王女の顔は渋いモノだ。
今にも舌打ちをしそうな程に悪化している機嫌を彼女は必死に堪え凌いでみせた。
『で、そっちはどんなだ?』
「概ね問題は無いはずです、コウ様が多くの敵を引きつけて下さいましたから。ですが、そちらは大丈夫だったのですか?」
『問題ありません、ほぼ全滅させてきました』
画面に映るアイオーンはサムズアップし、その成果を自慢する。
その事実を素直に称賛する者達も居る一方で、やはりどうしても彼らを受け入れられないという者達も居た。
「あっ、ありえません! あれだけの数をどうやって一人で倒したと言うのです!?」
『ま、そういう奴も居るわな』
その代表格であるシオン王女は金獅子が持つ力、そしてそれを振るう者の高潔さに憧れた。
だが実際に現れた男は高潔とも言えず憧れにも程遠い、本人に言わせれば忌避すべき存在に限りなく近い人種である。
『そうですか……』
「認めるのですね? 貴方達の言葉が虚偽の報告である事を……」
『ログを送信しましたので、後はどうぞご勝手に』
このような人物を相手取るのはアイオーンの仕事であり、コウは一切口を出さない。
だが行動で結果を出して相手を黙らせるのが彼の仕事である。
「なっ、何なのよ……この動きは!?」
「流石ですね。一応味方艦のレーダーログと照合しましたが、敵の減少位置と行動範囲がキッチリ噛み合っています」
シュトロームとヴァイス・ブリッツが敵艦を撃破し、ノイント・エンデがAMを相手取る。
母艦であるレーヴェが何かをする事も無くレーダーからは敵機が消え去り、大きな空白地帯が完成していた
『ついでに我々は道中の敵も喰らい、全戦力の一割は減らしているのです。もう少し友好的な態度を取られては如何でしょうか?』
それは純粋な戦闘能力による実質的な脅しである。
一応は相手も友好的な態度を取っている以上、考える頭のあるシオン王女はそれ以上の言葉を飲み込むしか無かった。
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