「過去に迷い込む」

田舎散策や山歩きが好きな知人がいる。

ふっと、たまに過去に迷い込むことが出来る。その時間が何故か愛おしくてとても好きなんだ。というのがそいつの談だ。

例えば、ある山地を藪漕ぎしていたときのことだ。

唐突にふっと視界が開けたかと思うと、目の前には風にそよぐ黄金色のススキ原が見えたそうだ。

地平線の果てまで広がる、ススキの大草原。

よく見ると、ススキが風ではなく動いている場所があったらしくて。目を凝らすとそこには、古ぼけた着物?甚兵衛?を来たおっちゃんやおばちゃんがいたそうだ。

「多分ススキを刈ってたんだろうなぁ…。なんでか知らないけど、すごく懐かしくて泣きたくなったよ」

大人たちが作業をしている周りで、子供たちがきゃーきゃーはしゃいでて、それはそれは和む光景だったという。

また、突然光に包まれたかと思うと、何かが破裂するような音、続けて鈍くて重い音が聞こえてきたこともあるそうだ。

調べてみると、その近くの土地にはかつて、陸軍の演習場があったとのこと。

「多分あれは砲弾かなんかの音だったんだろうなぁって思うよ」


そいつは今でも、暇を見つけてはぶらぶらと気の向くまま、どこかを歩いている。

いつか迷い込んだ過去から戻ってこなくなるんじゃないかとハラハラしてるけど、今のところはまだ、大丈夫なようだ。

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