【創作】風景資料
私は絵を描いている。
画風というか、作風は、夜をテーマにした絵を好んで描く。
意外にも、私のような暗い作品は人気があるらしく、インターネットのイラスト投稿サイトなどで多くのリクエストがくる。
「夜の東京を描いてください」だったり、「少女二人が星空の下で座ってる絵を描いて」など、様々なリクエストが日々送られてくる。
でも、絵はそんなすぐにパパッと描けるものではない。
全てのリクエストを受けることなんて出来ない。だから、リクエストは本当に気分で、自分でも描きたいと思ったものしか描かない。
そんかある日、面白いリクエストが来た。
「○○○県○○市○○○山の夜の風景を描いてください」
思わず画面の前で笑ってしまった。
リクエストの内容があまりにも細かすぎる。
一応気になって、インターネットでその山を検索してみると、特に夜景が綺麗とか何かがあるって訳じゃなさそうだった。
正直、無視しようかどうか悩んだけど、風景画の練習もしてみたかったし、何より場所が車で数時間程度の場所だったので、描いてみることにした。
ついでにと友達をドライブに誘い、その山へ向かう。
絵を描くにあたって、写真を撮るということは重要である。
特に風景などは、リアリティを出すためや、雰囲気を出すためにはディテールに拘る必要がある。
その部分を描くために写真が必要になってくるのだ。
本当は一眼レフなどがあればいいのだけれど、学生の私には買うのが難しい。
そのため、資料の撮影の際にはスマホを使っている。最近のスマホのカメラは高性能なので、資料として見る分には十分だ。
友達と他愛のない会話をしながら、車を運転する。
山に近付くと、人気が一気になくなった。
夜中だし、それにそもそもあまり人が訪れない山みたい。
車を走らせていると、山の中にある駐車場へと辿り着いた。
広い駐車場には、車は一台も停まっていなかった。
「どういう絵を描くの?」
「う〜ん、夜の風景って書いてあったけど、夜の山なんて、どう描けばいいかわからないんだよね」
「遠景としての山だったんじゃないの?」
「それこそ難しくない?とりあえず、ここから少しだけ山に入ると小さな祠があるらしいから、その祠をメインに描こうかなって」
「ふーん」
少しだけ調べたが、この駐車場から行けるハイキングコースを少しだけ歩くと、小さな祠がある。
この山は本当に映えるスポットなどがないらしく、この山である目印としてはその祠ぐらいしか考えつかなかった。
懐中電灯など、必要最低限の荷物を持ち、ハイキングコースへ入ろうとする。
「あ、その前に」
山へと入る前に、一応ハイキングコースの入り口を写真で撮ろうとスマホを手に取る。
軽く整備はされている道を覆うように立っている大きな木々。
懐中電灯で照らされた手前は明るいが、奥に向かうにつれて暗い闇が続いている。
カメラアプリを起動し、山に向かってカメラを向ける。
「あ…」
「どうしたの?」
「…ごめん、スマホの充電し忘れちゃったから、一回車に戻って充電していい?」
「ちょっと〜何してんのよ」
車内へ戻り、友達は助手席に座る。
「シートベルトして」
「え?」
「いいから早く!」
友達が慌ててシートベルトをするのを見て、エンジンを掛け、元来た道をそのまま引き返す。
それから山を降りるまでは、私は一切何も喋らなかった。ひたすら近くの町まで車を走らせた。
下山し、大通りのコンビニへと駐車した。
「…どうしたの突然」
友達は不安そうな顔で私を見つめる。私はスマホで一枚だけ撮った写真を友達に見せる。
「何も写ってないけど」
「…良かった」
「良かったってどういうこと?資料はいいの?」
「もうあの山には近付かないし、あのリクエストをした人もブロックする」
友達は不思議そうな顔をしている。撮れた写真を何回もじーと見つめている。
「…ここと」
私は写真の至る所を指差していく。手前の木であったり、奥の暗い山道であったり、合計で十箇所ぐらいになった。
「やっぱり何も見えないよ」
友達は指で写真を拡大し、あちこちを確かめている。
「今指したところにさ」
「うん」
「カメラの顔認識が一斉に反応したの」
友達は顔に近づけていた私のスマホを手から離した。
【実話と創作】ホラー置き場 奏羽 @soubane
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