【創作】蝶がよくいる場所

 今年も春がやってきた。


 春になると、毎年とある山に訪れる。


 その山には、色々な花が咲き乱れる天然の花畑がある。


 昔、カメラで景色を取ろうと、一人であちこちを旅をしていた時に見つけた場所で、様々な種類の花、そしてそこを飛び回る多くの蝶々が幻想的な空間をつくりあげるのである。


 去年、ここで撮った花畑と蝶たちの写真を雑誌に投稿したところ、優秀賞を取ることが出来た。


 今年も写真を撮りにその山へ訪れた。


 一番近い場所にある駐車場へ車を停め、車から出ると駐車場の地面に尺取虫のような細長い虫が大量発生していた。ピクピクと蠢く虫があまりにも大量に地面で動いているので、気持ちが悪くなり、出来るだけ踏まないようにササッと駐車場から離れる。


 駐車場から花畑は遠い。昔見つけた時も偶然だったが、本当に山奥の隠しスポットといった場所にあり、駐車場からかなりの時間を歩く。しかし、あの美しい光景を見れると思ったら、道中の険しい道のりも苦ではない。


 重いカメラとその機材を持って、山を登り、ついに花畑に到着する。


 相変わらずの綺麗な花々、異なる色・形の花が一斉に咲いている。


 ふと辺りを見渡すと、蝶が飛んでいないことに気付く。


 いつもは綺麗な翅の蝶達が花と花を行き来しているのだが、今年はそれが見当たらない。花畑だけでも綺麗なのだが、少しだけ物足りなく感じる。


 温暖化の影響なのだろうか。確かにここ最近は少しだけ季節感がおかしいといえばおかしい。


 それに少しの環境の変化で、その場所の生態系が変わるともよく聞く。


 どちらにしろ、蝶達がいない花畑は少しだけ寂しかった。


 何枚か、写真を撮ってみたがやはり物足りない。結局一時間ほどして、満足できないまま山を下りた。


 駐車場に戻るとやはり地面には細長い虫が沢山転がっていた。


 この虫が大量発生したから、蝶がいなくなったのだろうか。例年はこんな虫見たことがなかった。


 駐車場に訪れた時は動いていたが、今は動く気配がなく、死んでいるようだ。


 ぱっと見の見た目は気持ち悪いが、それでもこんな短時間で一斉に死んでしまうとは、儚い命だなと思ってしまう。


 しかし、こんな何もない場所に、何故こんなに虫が湧いているのだろうか。


 気味が悪いが、地面で死んでいる虫へ顔を近づけてみる。


 細長い、よく見ると触角のようなものが生えている。


 それによく見ると足がある。幼虫といった柔らかそうな体ではなく、なんというか…。何かに似ているような…。


「あっ」


 思わず、横に落ちている別の個体を確認する。


 その虫も死んでいた。そして同じように触角と足が生えている。しかし、体の色が少しだけ違った。


 そうだ。この体、見たことがある。蝶だ。蝶の体だ。


 駐車場の床に転がる大量発生したと思っていた虫は、全部翅のもがれた蝶であった。


 

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