002. 終わりの始まり
文字通り光の如き速さで空を駆け抜けたその矢は、地景の頬をかすめすぐ後ろのコンクリート壁に突き刺さる。
「……はぁ……?」
矢を掠めた頬は一瞬鋭く痛み、触れれば手は赤く染まっていた。滴り落ちる自分の血を見て、思わず惚けた声を漏らす。
矢の刺さったコンクリート壁が、まるで風船のように赤く膨れ上がり、直後大きな爆発音が地景の鼓膜を刺激した。そして、ある事に気がついた地景が、小さく震える声で呟く。
「次は……、俺だ……」
直後、震える手足そのままに、一目散に屋上を後にする。何度か転げ落ちそうになりながらも階段を必死に駆け降り校門を抜け、自らを射抜こうとした奴には目もくれず走り去ったのだった。
◇ ◇ ◇
校門を抜け、いつもの下校道を必死に駆け抜ける。何が起きているのか理解出来ない。ただ一つ分かることは——あの天使は地景を殺そうとした、ということだ。
「おい、お前ら!逃げろ!」
少し先、帰っていたはずの友人二人がこちらに手を振っているのが見えて、地景は声を荒げてそう叫ぶ。必死な形相で駆けてくるその地景の様子に、友人二人は不思議に思い——
「お〜い地景〜、そんなに慌ててどうした〜?」
「てか、お前もあれ気づいたか〜?空が割れて——」
友人の一人がそう言葉にした直後、地景の両側を一瞬、突風が鋭く駆け抜ける。それは、天使の矢が地景のすぐ真横を駆け抜けたことで起きたものであり、見ればその矢は友人二人の心臓に見事に突き刺さっていた。
「だから……、逃げろって……」
直後、二人の体はまるで風船のように赤く膨れ上がり、限界を迎えた頃に破裂、爆散。血飛沫がまるで雨のように道路と地景を濡らす。
「あぁーーーーー!!!!!」
一瞬、目の前で何が起きたのか理解出来ず、そしてそれを理解した時——友人が死んだことを理解した時、地景は思わず叫んでいた。
その叫び声を聞き、人間が破裂する一部始終を見ていた周りの人々も同時に恐怖する。辺りは一瞬にして混乱状態に陥り、四方八方逃げ回る人々で溢れていた。
「なん、で……」
そんな中、地景は友人が弾けたあとの血溜まりに、震える足でゆっくりと近づく。彼らは、忘れ物をしたと高校に戻った地景を置いて帰ることなく、その場でずっと待っていてくれたのだ。
「俺が……、財布を忘れなければ……。こんな……、くだらないことで……!」
震える声で、もうしても遅い後悔を口にする。自分のほんの些細な決断が、二人の友人を血溜まりに変えたのだ。そして、後悔と自責の念に支配された地景は、近くに放たれた天使の矢に気づかず、その爆風で軽々と吹き飛ばされる。
「あ……、ぁ……」
まるでボールのようにゴロゴロと転がり、コンクリートに体を打ち付ける。薄れ行く意識の中、血溜まりの方に手を伸ばす。そして、こちらをじっと見つめる天使の一体が地景に弓矢を向けたところで、彼の意識は途切れたのだった。
◇ ◇ ◇
「ごめん……、ごめんな……」
目の前の友人に、これから弾ける友人に謝罪の言葉を投げかける。しかし、どんなに謝ってもそれは届くことなく、二人の心臓に矢が刺されば、あとは血溜まりと化すだけだ。そんな悪夢を何度見ただろう——地景はゆっくりと目覚め、いつの間にか流れていた涙を拭うのだった。
「地景……!やっと起きた!大丈夫!?」
「……こ、ここは……」
「地景、道で倒れてたから私がここまで引っ張ってきたんだよ!」
ゆっくりと体を起こし周りを見渡すと、地景以外にも十数人が転々と、怯えながら座っているのが見えた。そしてその内の一人——心配そうな表情で地景に話しかける少女がいた。その少女の名は——
「聖那……!」
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