第21話 一斉斉射
すでに日も落ち、闇の軍団にメリットがある夜になっていた。
城壁には、等間隔でたいまつが設置され、不安な兵士達の顔をゆらゆらと照らしていた。
「ルビぃ~そっちは何か見えたか?」
北の勇者レイブンが、暇そうに敵を探している。
「俺は、皆さんみたいに遠くを見るスキルは持っていないですよ。」
ルビは、フレイヤ女王の指示通りに『レベルMAX勇者召喚』スキルで勇者を3人召喚していた。もちろんレベルMAX勇者のフェリックス、シーラ、レイブンの3人だ。
「もう斥候も倒せたようだからな。後は奴らダークエルフ軍本体を待つだけだ。」
「うん。フェリックスぅ~シーラを守ってね!」
「もちろんだ。ずっと俺の後ろにいろ。」
「はぁ~い!」
フェリックスとシーラは、召喚された時、デートの最中だったのようでまだイチャイチャモードから抜け出せずにいた。
「ふぅ~緊張感ないわね!いつもながらイライラしちゃうわ!」
「まあまあ……」
桜花が、イラつくアーネをなだめていると望遠魔法で覗いていた魔道士達が騒ぎ出した。
「ダークエルフが来たぞーーっ!」
ルビが、その指差す方向に目を凝らすと、まだ遠くではあるが、多くの蠢く影が確認できた。
「……き、来たっ!」
「ルビ。こういう時こそ落ち着くのじゃ。」
タマが、ルビの鞄の中から話しかけてきた。
「あ、ああ。分かってる。」
ルビは、激しい戦闘でタマが鞄から落ちないようにもう一度、鞄の留め具を確認した。
「いよいよだな!全員、気を抜くな!魔弾銃隊は待機。弓隊!敵をよく引き付けて矢を放つように!」
大魔王軍さえも退けたフレイヤ女王が最前線にいる。
その事実だけでもラーンザイル軍の士気は高まっていた。
辺りは、また静まり帰り、燃えたたいまつが時折、パチパチと火花の弾ける音を鳴らす。
(うぅ!緊張する!)
ルビが、そう思っているとすぐ横にいたレイブンからゴクリと生唾を飲み込む音が聞こえた気がした。
(いつも陽気なレイブンさんでさえも緊張しているんだ……)
ルビは、歴戦の勇者であり、騎士団長でもあるレイブンさえも緊張していることに安堵した。
徐々に鎧や盾の擦れる音であろう音が大きくなってくる。
時折、怒号らしきモノも聞こえるが、聞きなれない意味不明な言葉だった。敵なりの鼓舞なのだろう。
「構えっ!撃てぇぇぇ!」
弓隊長の命令で数えきれないほどの矢が一斉に飛んで行き、闇に消えた。
その落下地点には、多くの蠢く影が見えた。
ガキッ!カンッ!カカン!
矢が盾で防がれる音が聞こえ、時折、断末魔が聞こえた気がした。
「矢のほとんどが弾かれた?さすがはダークエルフ。あの暗闇で見えているのか?」
弓隊長は、そう言いながら闇の中を覗き込む。
現在の天候は曇り。月明りでもあれば話は別だ。
猛者ならば盾で防ぐことも可能であろう。
だが、それは人間側の常識であった。
フレイヤ女王は、冷静に状況を踏まえて言い放つ。
「何度やっても同じだろうな。奴らは我々の想像以上に闇に長けているのかもしれない。出し惜しみは、無しで行こう!魔弾銃隊は前へ!アーネお願い。」
「お任せを!みんな~練習通りにやれば大丈夫だからね!」
そこにいる東側の魔弾銃隊は300人構成となっており、前列150人、後列150人の隊列となっていた。
もちろん、これは魔弾装填時間を考慮しての配置である。
残る魔弾銃隊は、念のため北南西の各門に100人ずつ配置されていた。
魔弾銃隊が、弓隊と交代しているその間にもダークエルフ軍が迫って来ていた。
「みんな焦らないで。よく狙いを定めて~いくよ!一斉斉射ぁ!」
バヒューーーンッ!
凄まじい発射音と共に火属性爆発魔法が飛んで行く。
弓の3倍以上の速度は出ていた。
ブレイズアローの燃える灯りが、ダークエルフ軍を照らした瞬間!
バババババンッ!バンッ!ドンッ!
激しい衝突音が鳴り響き、あちこちで影の塊が吹き飛ぶ。
「キエェェェ!」
「シャアアァァ!」
アーネは、燃え広がる中で奇怪な断末魔を聞いた。
「な、何なの?」
「あれは?身体が透き通っている?……召喚精霊!」
「召喚精霊?シーラ、間違いないの?」
シーラは、頷きながら話を続ける。
「母から聞いたことがあるの。特定の種族は、術者そっくりに似せた精霊を大量に召喚できるって。元々数が少ないダークエルフが、何万も残っているなんておかしいと思ったわ。」
「じゃあ……ダークエルフの召喚師が、あの中に混ざってる?それともどこかに隠れているわけ?」
「それは分からないわ……」
アーネとシーラが、どうしたものかと考え込む。
「う~ん。さっきの弓防御率からしておそらく防御型の精霊と思うぞ。」
フェリックスが、盾使いらしく説得力のある説明を加える。
「防御型か~それではこの城は攻め落とせないだろうにな~」
レイブンが、不思議そうにつぶやく。
「まさか他に狙いが?」
フレイヤ女王が考え込んでいるとアーネが指示を仰ぐ。
「フレイヤ女王様。次弾装填完了です。続けて攻撃します。よろしいですか?」
「そうだな。やってくれ。あの中にダークエルフの召喚師がいるかもしれないからな!」
「はいっ!いくよ!一斉斉射ぁ!」
バヒューーーンッ!
バババンッ!バンッ!
「す、すごい……これが戦場なんだ……」
ルビは圧倒され、息を呑む。
「何かひっかかるの~これではただの消耗戦じゃ。」
「タマ、何か分かりそうか?」
「う~む。まだ分からん。」
ルビとタマは、何か嫌な予感がしたが、現時点で結論に達することはできなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます