第14話 闇商店
ここはラーンザイル王国の城下町。
農業が盛んな国だけあって農産物の店が他国より多く、見るからに異国の衣装を身にまとった商人が、あちらこちらで取引交渉をしているのが見て取れた。
さらに、昼下がりということもあり、人出で賑わいを見せていた。
「まさか魔王が町中を歩いているとは誰も思わないだろうな……」
ルビは、小声で囁く。
「まあね。でもこんな暖かい春の日にマントを羽織ってフードも被る者は、十分怪しいけどね。」
そう言うアーネの後ろをフードを被った桜花が、ぴったりと引っ付いて歩いていた。
「桜花ちゃん。目立たないようにしているつもりだろうけど、それは逆に目立つし、怪しく見えると思うぞ。堂々と歩いた方がいいな。」
「そ、そうですね。でも私は異世界召喚されてから外に出たのは、今日が初めてなのでドキドキが止まらなくて……ひいっ!」
桜花は、自分の2倍はあろう大男の戦士とすれ違ってビクッとする。
「これは早く服を買わないとな。町初体験にしては、人が多すぎるかもしれないしな。でもどうする?俺はそんなにお金はないぞ。アーネの持ち合わせはどのくらいだ?」
「私も一人暮らしだし、そんなに無いわよ。まあ普通は、魔王装備を売って別の装備を買うべきなのだろうけど……」
ルビとアーネは、桜花の顔を覗き込む。
「は、はいっ!売ってください。いくらになるか分かりませんけど……」
「そう……あ!」
アーネは、何かを思いついたようでニヤッと口元が緩む。
「分かったわ。私がなかなかの闇商店を知ってるの。こっちよ。」
アーネは、得意気に路地裏へ入って行く。
(闇商店……アーネって何かやってそうだったけど……やっぱりね~)
路地裏をクネクネと何度も曲がり続け、ルビには、もうどこを歩いているのか分からなくなっていた。
「ここよっ!」
アーネが、ビシッと指差す店の看板は、黒塗りで何も書かれていなかった。
(怪しい。怪しすぎるっ!)
「ここ?大丈夫なのか?」
ルビと同じく桜花も不安なようで今度は、ルビの背中にしがみつく。
「全然、大丈夫よ。ほらほらぁ!入って入ってぇ!」
アーネが、店の扉を開けると来店を告げるチャイムが鳴った。
「あらぁ~アーネじゃない!久しぶりね~」
店の奥から話しかけてきたのは、オネエ系のガタイのいい人物だった。
他にお客はいない。
「シュナちゃん。お久しぶり~今日は買取をお願い。お客はこっちよ。」
ルビと桜花は、緊張しているようで恭しく頭を下げた。
「こっちがルビでこっちが桜花よ。そして~掘り出し物はこの装備品よ!」
アーネは、ドンと勢いよく目の前のテーブルに魔王装備を置いた。
「見かけない防具ね……こ、これって!魔王軍系列?」
「ご名答っ!さすがシュナちゃん!」
「ふぅ……知ってると思うけど国の許可なく、魔王軍装備の売買は、禁じられているのよ。」
「だ~か~らここへ持って来たわけよ。」
アーネは、ニタリと笑みを浮かべる。
「ふ~ん。で、その二人が魔王軍なわけね。」
「え?違うわよ。こっちの桜花だけよ。」
アーネは、フードから少しだけ顔を出している桜花を可愛く指差した。
「あら?そうなの?ごめんなさ~い!私って勘だけはいいのだけどね~」
「まあ魔王軍装備の売買は、禁じられているけど、後でちゃんとフレイヤ女王には事情は説明するから心配しないで。とりあえず謁見するためのちゃんとした服が必要なのよ。」
「そういうことね~詳しい事情は分からないけど私に任せなさい。でも、もう一人のあんた……ルビだっけ?どこかで会ったことないかしら?」
闇商店の店主は、ルビの顔をジロジロと見つめる。
「え?俺?いえいえ!初めてですよ。今日は、ただの付き添いです。」
「そう?おかしいわね~」
「シュナちゃん。いきなり来て、ごめんだけど急いでくれる?」
「はいは~い。急ぎ鑑定でね。あ!そうそう。あんた達、ご飯は食べたの?まだなら安くしとくわよ。」
「そういえば、昼食がまだだったな。食べていないと気づいたら急に腹が減ってきた。」
ルビは、お腹を押さえてアーネを見つめてくる。
「しょうがないわね。桜花も食べるよね?」
「は、は、はい。」
アーネの誘いに桜花は、遠慮気味に答えた。
「じゃあシュナちゃん。シュナイダー定食3つよろしくね!」
「毎度あり!3分待ってね!」
「ここって定食もあるんだな。シュナイダーってなんだ?新種の動物か?」
ルビは、首を傾げながら考える。
「あはは!違うわよ。シュナイダーは、シュナちゃんの名前よ。」
「ああ!そういうことか。」
ルビは、手と叩いて納得した。
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