第7話 魔王の影
翌朝、爽やかな鳥のさえずりが、ルビの耳に届く。
「もう朝か……あまり眠れなかったな。」
先月まで日常だった母の愛情スープの香りはない。
ルビは、軋むベッドの上でゴロゴロしながら昨日の出来事を考えていた。
あの後、南の勇者シーラは、帰還魔法で帰還し、アーネも家へ帰って行った。
その際に言い残したアーネの言葉が、心に引っかかっていた。
「あんた……本当に旅に出ちゃうの?」と。
ルビが、婚約破棄され、旅に出ることを知ったアーネのとても寂しそうな顔が、ルビの心をざわつかせる。
「なんだよ。あんな風にしおらしくされるとこっちの調子が狂うだろ……アーネのくせに……」
「旅か……母さんの死の真相を探るにしても、何からどうすれば良いのか分からないんだよな……」
「……犯人がモンスターなら良いが……もし、殺した犯人が人間ならどうするつもりじゃ?」
ルビは、いきなりの言葉にぎょっと驚いた。
ルビは、まだサポートアイテムであるタマとの暮らしに慣れていないのだ。
「!?……タマ。起きていたのか?」
「わしは……眠れないみたいでの~」
ルビは、静かに目を閉じながら壁側に寝返りを打つ。
「犯人が人間だったら?……ふぅ……そんなの分かんねえよ。大体、どうして大魔王を倒した英雄が人間に殺されるんだ?どういう理由で?そんなわけあるか!」
「母さんの死因は、攻撃魔法によるものだったらしい。勇者の加護がある母さんを死に至らしめる攻撃魔法ってどんなだよ!そんなのは、とても人間業とは思えない。」
(だけど、何かが引っかかる。何だろう?)
ルビは、ずっと違和感を感じていたのだが、未だにそれが何かは分からずにいた。
その時だった。
「ルビっ!大変よ!早く玄関を開けてぇ!」
アーネが、ピョンピョンと跳びはねているのが、窓から確認できた。
「こんな朝っぱらから何だよ~?まだゆっくりしたいんだよ。」
ルビは、不機嫌そうにベッドで寝続ける。
「もういいわ。扉解除魔法!」
カチャリ!
アーネは、あっさりと玄関の鍵を解除した。
「おいおーい!だ~か~ら~昨夜もそうだけど、勝手に玄関を開けるなよ!」
「そんなことより大変なのよ!魔王が……魔王級が目撃されたらしいのよぉ!」
「な、なんだってぇぇぇ!」
ルビは、あまりの驚きにベッドから転げ落ちた。
魔王とは、大魔王になる直前の階級で、成長し続ければ大魔王になりかねない。
人間にとって全くありがたくない稀有な存在であった。
魔王の実力は、その魔王個体にもよるが、大魔王より厄介なスキルを持つ輩もいたという伝説がある。
そして、大魔王と魔王の決定的な違いは、新たに魔王を生み出すスキルがあるかどうかであった。
「それで場所は?」
そう言いながらルビが、頭を上げるとアーネのスカートの中に頭が入る。
「……うん?……し、縞パン?」
「ヒグゥッ!?」
怒りの赤面アーネは、すかさずスカートの中の異物に膝蹴りを数発入れる。
ドカッ!バキッ!ベキッ!
「ぐほぉっ!げふっ!」
「いちいちパンツの種類を言うなぁ!このえっち!変態っ!」
アーネは、最後にローリングソバットをルビの顔に決めた!
すると、またアーネのスカートが舞った。
「ぐほぉぉ!」
ルビは、魔法だけでない、アーネの身体能力の高さに感心しながら心の中で思った。
(…………やっぱり……縞パン……だった……)
「もぉ~~~あんたって人は……魔王が目撃された場所は、北東にある古代ダークエルフ迷宮らしいの。私は、西の勇者として至急事実確認をするように、フレイヤ女王様より依頼を受けたわけよ。ねえ!聞いてる?」
アーネは、呆れたようにルビへ回復魔法ではなく、回復アイテムを使用しながら話しかける。これから迷宮に向かうために、MPは温存しなければならないのだろう。
「あんた……もう少し体を鍛えた方がいいわよ。」
(誰のせいだよ!誰の!)
「行くわよ!」
「ふぁいふぁい……行ってらっふぁい。」
ルビは、まだ腫れている顔を押さえながらアーネを見送る。
「何言ってるのよ!あんたも行くの!偵察だけで済めばいいけど、下手すると戦闘よ。成りたて勇者の私だけで魔王に勝てるわけないでしょうに!あっちへ向かいながらでいいから、とりあえずシーラを呼び出してよ。被害が出る前に急ぐわよ!」
「ふぁいっ!?」
アーネは、目を丸くして驚くルビを問答無用でズルズル引っぱって行くのだった。
二人のやりとりを黙って聞いていたタマは、引きずられるルビの腹の上に飛び乗った。
(またシーラに会えるのは嬉しいが、ルビ……可哀想な奴じゃな~)
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