第59話 勉強会

   ◆◆◆



「いやー、助かったぜマジで! サンキューな、葉月!」

「肩組むな、暑苦しい」



 翌日の放課後。俺と淳也は、二人で図書室にやって来ていた。

 この学校に来て初めて図書室に入ったけど、なんというか……まるで外国の建物みたいに、厳かな場所だ。

 階段があり、二階建ての図書室。これはもう図書館と言ってもいい。

 当然俺たちだけじゃなくて、他の生徒も読書や勉強に来ている。

 まあ全員女子だけど。黒羽の生徒はゼロだ。

 なのにテストになると慌てる……悲しきかな。



「にしても、お前が氷の女神様と勉強会をしてたとはねぇ。やっぱ生徒会の繋がりってことか?」

「そんなところだ。けど、女子との勉強会だからってあんまり期待するなよ」

「いやいや、もしかしたらこれを機にお近付きになれるかもしれねーだろ」

「普通に女子と会話できないお前が何言ってやがる……」



 雪宮はそんな奴じゃないんだよ。

 それに絶対あいつ、男に興味ないと思う。

 いつも一緒にいる俺が言うんだから、間違いない。

 カバンからノートと教科書を出して準備をしていると、僅かに館内がザワついた。



「見て、雪宮会長よ……!」

「あぁ、今日もお美しい……」

「図書室に来るなんて珍しいですね」



 お、来たか。

 入口の方から、雪宮がこっちに歩いてくる。

 けど、それは雪宮だけじゃなかった。



「あれ、黒月……?」

「やほーはづきち〜。ウチもお邪魔させてねん」

「別にいいけど……」



 雪宮をチラ見すると、そっとため息をついた。



「鼻が利くのか、勘がいいのか、着いてきてしまったのよ」

「まーまー、いーじゃないの」

「それ、あなたが言うことじゃないわよ。黒月副会長」

「ぬへへ」



 思わぬ来客だけど、俺は二人を知ってるから問題ない。

 問題なのは、淳也の方だ。



「それでは、勉強を始めましょうか。えっと……」

「み、み、みみみみ水瀬淳也、っす……!」



 あらまあ。やっぱり緊張してる。

 ただでさえ女に慣れてないのに、雪宮と黒月並の美人を前にしたら、こうなるのはわかる。

 てか、学校が統合されて一ヶ月も経つのに、まだ慣れてないのかよ。



「そう。では水瀬友人、黒月副会長。あと八ツ橋会長。私がしっかり教えますから、妥協は許しません。いいですね」

「は、はぃ……」

「あーい」

「俺をついでみたいに言うな」



 あと友人て……俺の友達だからか? 呼びにくくないそれ?

 ノートと教科書を広げ、早速勉強会を始める。

 図書室だから、会話は小さく、必要最低限。



「むん? ねーねー氷花ちゃん。ここってこう?」

「ええ。これを代入して……」

「あ、なるほどー」



 どうやら黒月は、ちょっと教えたら理解してくれるようだ。

 白峰にいるんだから、地頭はいいってことか。

 対して淳也は……。



「ぐおぉっ……! わ、わからん……!」



 やっぱりか。

 淳也のことだから、こうなるのはわかってたけど。



「雪宮、淳也がわからないとよ」

「そのくらいならあなたが教えられるわ。私の代わりに教えておいて」

「げ、マジかよ」



 俺、人に教えるの苦手なんだけど。



「えっと、これはだな……」

「ふむふむ……?」



 とりあえず教えられるだけの知識を使って、あれこれと説明してみる。

 確かに雪宮の言う通り、俺の頭でも教えられるレベルだ。ちょっと自信が付くな、これ。

 それに、人に教えると頭の中が整理されるような感じになる。

 理解が深まるっていうのかな。そんな感じだ。



「で、これがこうなる訳だ。わかったか?」

「わからん」



 こいつどつき回したろか?

 ええ、ここがわからないってことは、こっちがわからないってことで。てことは、一年の範囲がわかってないってことだから……。



「もう諦めてバイト辞めろ。な?」

「見捨てないで!」

「バカ、うるせぇ」



 ここ図書室なんだから、もっと静かにしろ。

 いやでも、この段階でこれがわからないって……あと三週間でどうにかなる問題じゃないだろ。



「雪宮、どうにかできないか?」

「……お父様に土下座とか」

「だよなぁ」

「雪宮さんまで……!」



 淳也には悪いけど、たった三週間でどうにかなるレベルではない気がする。

 そっとため息をついて解決策を考えてると、黒月が前のめりになって俺と淳也の手を握った。



「ウチは応援するよっ。だって一度がんばるって決めたんだもん。一緒にがんばろ?」

「──天使……うん、ぼくがんばる……!」

「お……おぅ……」



 いやわかりやす。女の子に手を握られて応援されたから頑張るって、単純だなぁ、淳也。

 俺? もちろん頑張りますよ。……ちょろいんじゃないからな。



「ところで、黒月って学年何位なんだ?」

「ウチ? 去年の終わりは五十位だったよん」

「「…………」」



 し、白峰で五十位……それめちゃめちゃ頭いいんじゃないの?

 伊達ではないと思ったけど、すげぇな黒月……。



「ちょっと、いつまで手を握ってるの。勉強に集中しなさい」

「あーい」



 雪宮は雪宮でちょっと不機嫌になってるし。なんで?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る