第45話 悪知恵
放課後。約束通り俺、雪宮、黒月の三人は生徒会室に集まり、校外学習に向けての話し合いをしていたのだが……。
「えっ。黒月、保健室行ってたのか? 大丈夫か?」
「うん! もうだいじょーブイ!」
元気にピースをする黒月。
いやぁ、体調悪いんだったら今日は延期にした方がいいと思うんだけど。
それを言うと、雪宮がそっとため息をついた。
「私もそう言ったのだけれど、まったく聞く耳持たないのよ」
「ぬへへ。だってウチがてーあんしたのに、ウチのせーで延期なんて嫌じゃん?」
うーん。そんなに気にしなくてもいいと思うけどなぁ。俺も気にしないし。
でも黒月は気にしいな性格なのかもしれない。そこは、尊重しないとな。
……ところで……。
「なんで生徒会室なん? どっか喫茶店とか移動しようぜ」
「ダメよ。登下校中に寄り道は校則で禁止されてるもの」
「ふ……甘いな雪宮。それでも生徒会長か?」
「む。何が言いたいのよ」
俺の物言いにカチンと来たのか、雪宮は冷たい目で睨んできた。
ふっ、今さらそんな目で見られても怖くもなんともない。
なぜなら今は、俺が有利だからだッ。
「はい。というわけで、ここに生徒手帳があります」
「はづにち、頭打った?」
「そのノリ、ちょっとムカつくわね」
……乗ってくれよ、ノリ悪いなぁ。黒羽の生徒だったらノリノリよ、ノリノリ。
咳払いをし、とりあえず話を進める。
「生徒手帳にはこう記載されている。ざっくり言えば、『用のない寄り道は禁止する』と。つまりこれは、用のある寄り道はよいということだ」
「まあ……確かに、そうね」
雪宮も渋々といった感じで頷き、黒月も感心したように拍手をした。
「この校則は恐らく、この学校の生徒は放課後に習いごとが多いからだろう。放課後の寄り道をすべて禁止にすると、習いごとにも行けなくなるからな。だからこそ、俺たちみたいに会議や話し合いで喫茶店に行くなら、それは寄り道にはならない!」
ふっ、決まった。完膚なきまでの論破。
早く帰りたいから適当に積み上げた論理だったけど、思いの外いけたな。これで生徒会室での会議なんてしなくて済む。
「ところで八ツ橋生徒会長。なぜそんなに校則に詳しいの? こういうの読まないイメージだったわ」
「あーね。それ思ったー。はづきち、意外と真面目じゃん?」
「え? 合法的にサボるために校則を把握するのって普通じゃね?」
「「…………」」
……おい、なんだその冷たい目は。
え、普通だよね。普通じゃね?
「……はぁ。八ツ橋生徒会長の意見はわかりました。とりあえず、佐藤先生に聞きに行きましょう」
というわけで、生徒会室から移動して職員室へ。
メガネをかけた妙齢の女性で、学年主任の佐藤先生。
社会科の先生だが、他の先生より厳しくて有名だ。
本当はこの人に話したくないんだけどなぁ……。
「ダメです」
うーん、やっぱり却下されたか。
仕方ない。俺が口出しするか。
「確かにそれなら寄り道ではありません。ですが、会議であれば生徒会室の方が集中できますでしょう」
「お言葉ですが先生。一つの部屋にこもって会議をするのは、むしろ能率が下がります。喫茶店や公園などの開けた空間でこそ、のびのびとした意見が出ます。今でこそ、ウォーキングミーティングという話し合いの方法が提唱されています。ひとつの部屋にこもるのは、前時代的かと」
「ぜっ、前時代的……!?」
お、まさかの効果的?
「さらに人は、静かな部屋では集中しにくい性質があります。人のざわめきや自然の音があった方が集中でき、紅茶やコーヒーの香りはリラックス効果があります。つまり喫茶店での話し合いは合理的です」
「そ、そうかもしれませんが……」
これはあと一押しって感じか。
ならここで、必殺の一言を言うぜ。
「校外学習を楽しみにしている生徒のためです」
「! ……わかりました、許可しましょう」
「ありがとうございます。失礼します」
佐藤先生に頭を下げ、三人で職員室を出る。
二人はまだ現状がわかってないのか、ぽかーんとしていた。
「な?」
「いや、な? って言われても……一連の流れを見てたけど、なんで佐藤先生が許可したのかまったくわからないわ」
「簡単だ。ああいう手のタイプは、効率を重視するからな。集中とか、リラックスとか、合理的とか。そういう言葉を入れたらいい。それに結構歳はいっているが、身に付けているものも古めかしいものはない。新しいもの好きなんだろう。だから前時代的って言葉に過度に反応した。それに、学年主任まで務めるくらいの人だ。常に生徒のことを考えてると思って、『楽しみにしている生徒のため』って言葉をいれたら……な?」
はい、説明終了。
まさか黒羽で遅刻してたときの言い訳のテクニックが、こんなところで活きるとは。
「ほぇ〜……はづきちすげぇ〜」
「悪知恵だけは一人前ね……」
失敬な。
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