第42話 馬鹿共

 結構な量のクッキーだったけど、二人で食べるとあっという間に完食。

 それに加えて、雪宮は余ったチョコレートソースもスプーンで舐めきった。

 これだけ喜ばれると、作ったかいがあるな。



「はふ……満足……♪」

「……そいつはよかった」

「何よ、その間は」

「……今ざっと計算したけど、摂取カロリー1400キロカロリーを超えてると思って」



 ビシッ。

 あ、固まった。

 まあ驚くよな。1400キロカロリーとか、これだけで一日の摂取カロリー相当になるし。

 でもその他にもご飯は食べてるし、普通に今日だけで3000キロカロリーくらい食ってそう。

 いやぁ……こんなこと続けてたら、太るな。



「ど、どうして止めてくれなかったの!」

「落ち着け。別に一日くらい爆食したくらいでは太らん。明日からちゃんとすれば問題ない」

「……それは、明日からはしばらくお菓子禁止ってこと……?」

「そうなる」

「…………」



 目に見えてしゅんとなった。

 そんなに気にすることないと思うけど。だって、どう見ても脂肪が付きにくそうな体つきだし。

 胸とか、バストとか、おっぱいとか。



「今、あなたの視線にものすごく殺意が湧いたのだけれど」

「被害妄想だ」



 ちくしょう、なんでわかるんだよ。エスパーですか。

 雪宮から逃げるように食器を洗うと、雪宮は隣に立って皿を拭いた。



「やるから、休んでていいぞ。最近疲れ気味だろ」

「全部任せきりにはしたくないだけよ。それにこれから勉強もするのだし、早く終わらせましょう」

「げ、今から?」



 もう二十二時近いんだけど。

 しかも腹いっぱいだから、絶対眠くなるし。



「当たり前じゃない。勉強は一日にしてならずよ」

「うへ……」

「今から頑張っておけば、少なくとも赤点は回避できるわ。赤点取ったら、毎日二時間の補習と追試があるから」



 マジかよ。厳しすぎんか。

 俺は雪宮がいるから、勉強面に関しては大丈夫だけど……淳也とかマジで大丈夫だろうか。



   ◆◆◆



「無理だな」

「だと思った」



 翌日、雪宮から聞いた補習と追試の件を淳也に聞くと、真っ向から断定された。

 今も授業と宿題で手一杯なのは知っている。

 それに加えて、一人でテスト勉強とか絶対無理だろう。



「うぅ……しんどい。つらい。辞めたい。辞めないけど」

「お前の家、超怖いもんな。特に親父さん」

「刑事だからなぁ、親父。怒ると鬼よ、鬼。……あ」



 途端に、淳也は気まずそうな顔で頬をかいた。

 多分俺の家のことを考えてんだろう。俺の家、怒るとか褒めるとか、そういうの無縁だからな。



「気にすんなよ。もう気にするような仲でもないだろ、俺ら」

「……それもそうだな。てか俺の家のことは置いといて、マジで勉強しねーとなぁ。最近の葉月、地味に調子いいみたいだし。秘密の勉強とかしてんの?」

「してないぞ。地道にコツコツやってるだけだ」



 ただ、地味にコツコツ教えてくれる人が激鬼なだけで。

 ありがたいんだけど、そのせいで今日も寝不足だわ。



「はぁ……中間試験嫌すぎる……」

「まあまあ。その前に校外学習あるだろ? そこで女の子と仲良くなってこいよ。案外彼女できるかもよ」

「! お前、天才かっ?」



 明らかにテンションが爆上がりの淳也。わかりやすくて助かる。

 淳也は椅子の上に立つと、周りの目線なんて気にせず興奮気味に吠えた。



「校外学習! しかも女子と! もう二度と彼女ができないと思っていた男子校出身への蜘蛛の糸! 男子共、立ち上がれ! 我と共に青春を謳歌するぞォ!」

「「「おおおおおおおおおおおおお!!!! 青春!! 青春!! 青春!!」」」



 淳也のところに男子馬鹿共が集まり、なぜか一緒に叫んでいる。

 黒羽では普通の光景だったこれも、今見ると滑稽というか……ごめん、引く。

 ほら見ろ、他の女子たちを。ドン引きしてるじゃんか。

 そんな感じじゃ彼女とかできんぞ、お前ら。



「馬鹿が……」

「馬鹿だね〜」

「……ん? あ、黒月」



 いつの間にか俺の傍に、黒月がいた。

 相変わらずのギャルメイクだけど、黒月にはこれって感じのメイクだから、全然違和感がない。

 というか相変わらず胸でっけぇ。雪宮とは大違……あ、嘘です。雪宮さんのちっぱいも素晴らしいと思います。ちっぱい。

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