第15話 怪しげな人影
ピピピピ──ピピピピ──。
「んっ……あぁ、もうこんな時間か……」
六時半になり、アラームとともに起床。
思考がぼーっとする。ねみぃ〜……。
昨日の夜にあったことと、男の子的事情で寝不足気味だ。
それにプラスして、春の陽射しのせいで眠気が。
春眠暁を覚えずとはよく言ったものだ。本当にずっと眠い。
休みてぇ……。
……いや、ダメだダメだ。黒羽高校の時は簡単にサボったり寝てたけど、今の俺は白峰高校の人間なんだ。少しでもサボったら、すぐ授業に置いてかれる。
……雪宮に土下座すれば取り返せそうだけど、それは俺のプライドがゆるさない。
できるところはしっかりやんなきゃな。
朝飯を済ませて諸々の準備をすると、丁度いい時間になった。
さて、学校に行くかな。
可燃ごみの袋を持って部屋を出る……と。
「「ふああぁ〜……え?」」
同時に、雪宮も出てきた。
しかも結構なあくびをして。
雪宮もあくびなんてするんだな。まあ人間だし当たり前か。
「……えっと……お、おはよう」
「え、ええ。おはよう……」
思わぬことに硬直する俺たち。
だが雪宮は、ぽぽぽぽっと頬を染めて睨んできた。
「……見た?」
「見た」
「即答するんじゃないわよ」
「いえ、気にしないで。もう見てしまったのだし、今更言い訳するつもりはないわ」
「気にするかどうかは私が決めることなのだけれど。それにそのセリフ、昨日の私のセリフよね」
バレたか。
雪宮はジト目で俺を睨みつけると、さっさと鍵を閉めて俺の前をそそくさと歩いて行ってしまった。
「私が先に行くから、あなたは時間を置いて登校しなさい。一緒に登校するところなんて、見られたくないから」
わかりやすくツンツンしてるな。
いや、お父さんと一緒のところを見られたくない、思春期の娘って感じか。
だとするお俺がお父さんで……って、誰がお父さんだ。
「はいよ。行ってらっしゃい」
「……行ってきます」
でも挨拶は返してくれるあたり、本当に律儀な子だ。育ちの良さがわかる。
俺はアパートの二階から雪宮が歩いていくところを見送る。
本当、どこからどう見ても憎たらしいくらいに可愛いな。
……ん? なんだ、あれ?
雪宮の後ろに、怪しいおっさんがいる。スーツ姿にサングラス。いかにも不審者な装いだ。
物陰に隠れて、雪宮を見てるように見えるけど……え、まさかとは思うが、ストーカーか?
……ありえる。雪宮って、黙ってたら超一級品の清楚美少女だし、ストーカーの一つや二つ湧くのも無理はない。
でも雪宮本人から、ストーカー被害があったとかは聞いたことないけど……とりあえず、変なことになる前に話しかけにいくか。
アパートから降り、少し遠回りをしてから物陰に隠れているおっさんに近付く。
「おい」
「ッ!」
え……あ、逃げた。
しかも革靴のくせにめっちゃ足速い。
俺が呆然としている間に、おっさんはもう見えなくなってしまった。
「なんだったんだ、一体……」
まさか本当のストーカーなんじゃ?
一応警察に連絡して、警戒してもらった方が……いや、その前に雪宮と話をする方が先か。
ったく……ここ最近、雪宮のことで色々起こりすぎだろ。
俺はそっとため息をつくと、学校に向かって歩き出したのだった。
◆◆◆
「は、葉月ッ、助けてくれぇ……!」
「淳也、鼻水キモい」
「親友に向かってなんてことを!?」
親友だから言ってやってんだよ。
学校に到着すると、間髪入れず淳也が泣きべそをかきながら助けを求めて来た。
まあ、淳也がこうなることは予想済みだ。
「宿題についてだろ。確かにすげー量だったもんな」
「そう! 英語はギリギリ終わったけど、それ以外がマジで終わんなくてさあ! まあ、どうせ葉月も終わんなかったんだろうけど。一緒に叱られようぜ」
失礼な断言だな、こいつ。俺が宿題をしてきてない前提で話してやがる。
まあ、俺も雪宮に教わらなかったらマジで終わらなかっただろうし、気持ちはわかる。
こんな量の宿題が毎日出るって考えると、今からゾッとするな。
「終わってるぞ、宿題」
「……葉月、嘘をつくのはよくないぞ。嘘つきはオオカミ少年の始まりって言葉を知らないのか?」
「それを言うなら、嘘つきは泥棒の始まりだぞ」
「あれ、そうだっけ?」
こいつマジで大丈夫か。
「見せてやろうか。一教科ジュース一本で」
「見せてください!」
ガバッ――!
こいつ、教室のど真ん中で土下座し始めたぞ。
プライドのプの字もないのか。ぷー太郎か。
「だってよぉ! 先生たちみんなこえーんだもん! 昨日の授業、めちゃめちゃ厳しかったじゃん!」
「まあ、確かに」
先生に当てられて答えられないと睨まれるからなぁ……まだこっちに来て数日だし、進学校式の授業に慣れてないのもあるけど。
「ほらよ。さっさと返せよ」
「おぉっ、神よ……!」
淳也は涙を流しながら宿題を受け取ると、すぐに自分の席に戻って写し始めた。
あいつ、確かバイトもしてるんだよな。バイトしながらこの量の宿題は、本当に大変そうだ。
「へー、やさしーんだ。男同士のゆーじょーってやつ?」
「男同士というか、単純に親友だから見過ごせないというか……ん?」
あれ、今俺誰と話してるんだ?
声のした方を振り向く。と、いつの間にか俺の前の席に座っていた黒月と目が合った。
しかも、超超至近距離で。
少しズレたら鼻キスできそうなほど、近い。
黒月は何も気にしていないみたいで、ニカッと笑った。
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