第8話 幼なじみとの再会

「へいへい葉月! よう、葉月!」



 翌日、学校に登校すると、テンションがバリバリに高い淳也が絡んできた。

 ちょ、肩組んで来るな。暑苦しい。



「……あぁ、おはよ。なんだお前、テンション高いな」

「これが高くなくてどうするよ。俺はもう、一生彼女なんて出来ないと思ってたんだぜ?」

「大袈裟だな」

「大袈裟じゃねーよ! 現に男子校出身って、彼女作るのにどんだけ苦労すると思ってんだ!」



 知らんがな。

 少なくとも、彼女彼女と連呼するようや奴には彼女なんてできないだろ。



「花の高校生はあと二年……俺は在学中に、彼女を作ってみせる!」

「頑張れ〜」

「……逆に、なんでお前はそんなテンション低いんだよ」

「別に彼女いてもいなくても困らないし」

「かーっ! これだから拗らせ童貞は!」

「淳也もだろ」

「俺はただの童貞ですー。彼女いらないとか斜に構えた拗らせ童貞とは違いますー」



 腹立つなこいつ。

 でもこんな風に彼女彼女、童貞童貞言ったら、マジで彼女なんて夢のまた夢だろ。

 周りを見てみろ。女子たちが変な目でこっち見てんぞ。



「見てくださいみてくださいっ。あれがリアル男の友情ですよ……!」

「茶髪の彼が攻めかしら……?」

「私は誘い受けと見ましたわ」

「では、黒髪の方のヘタレ攻めでしょうか」

「「「ふふふふふ」」」



 本当に変な目で見られてる!?

 その視線に気付いてない淳也は、まだ肩を組んでペラペラと何かを話している。



「いいから肩組むな。離せ」

「えー? 黒高ではこんなんだったろ」

「お前、男が好きって噂されたら、彼女どころじゃなくなるぞ」

「困る」



 そうだろう?

 俺だってちょっとは期待してんだから、巻き込まないで欲しいわ。

 下駄箱で靴を履き替えていると、淳也が「そーいや」と話しかけて来た。



「例の女神様とはどうよ?」

「……どうよ、とは?」



 ニヤニヤ顔の淳也に、思わず警戒してしまった。

 例の女神。つまり、雪宮氷花のことだろう。

 いきなりこんなことを聞くなんて、まさか家でのことがバレて……?

 いや、そんなはずはないと思うが。

 だが淳也は俺が警戒しているのに気付かず、まだニヤニヤ顔を向けてくる。



「昨日は生徒会の会議だったんだろ? どんな感じだった? やっぱり噂通り、クールで儚くも奥ゆかしい完全無欠のご令嬢だったか?」

「……はっ」

「なんで鼻で笑うんだよ」



 思わず鼻で笑ってしまった。

 でも仕方ないだろ。あれのどこがクールで儚くも奥ゆかしい完全無欠の令嬢なんだ。

 クールで冷たくて氷のような絶対零度の令嬢の間違いだろ。

 ……まあ、家でのあいつは、そんな印象を覆すくらいには……可愛げもあった、けどさ。



「淳也、一つだけ言っておく。噂は噂。夢は心に留めておくに限るぞ」

「お、おう……? なんか、難しいこと言うな、葉月」

「お前が馬鹿なだけ」

「何をう!?」



 俺たちは階段を上り、自分のクラスへと向かう。

 と、階段の上から、一人の女の子が降りてきた。

 お嬢様学校では珍しいド金髪。派手なメイク。だねど端正な顔立ちからは、どこか気品を思わせる。

 いわゆる、美少女ギャルだ。

 スカートは短く、胸元のワイシャツも開いている。雪宮にはない豊満な……って、それは雪宮に失礼だな。

 だが俺は、この子を見たのは初めてじゃない。

 昨日の生徒会の会議にもいた、白峰女子生徒会のメンバーだ。

 向こうも気付いたのか、俺を見てキョトンとした顔をした。

 ここは……うん、挨拶しておくべきだろう。



「あー……ども。おはよーございます、っす」

「およよ? うん、おっはー」



 ノリ軽っ。お嬢様学校なんだし、「ご機嫌よう」とか言うんだと思ってた。

 って、あれ? 淳也は? さっきまで俺の隣にいたのに……ん?

 見ると、いつの間にか階段を上りきっていた淳也は、ガチガチに緊張した感じでこっちを振り向いた。



「は、葉月っ。俺、先、行く」

「お、おう?」



 なんでカタコト……って、当たり前か。我ら男子校の生徒は、この一年で女子への免疫がゼロに近くなっている。

 俺も似たようなものだが、昨日の雪宮とのやり取りで、大分女子と話すのに抵抗はない。

 と、ギャルさんは淳也を見てケタケタと笑った。



「何あれ、ちょーウケるっ。きんちょーしすぎだし!」

「あんまり笑ってやらないでくれ、っす。あれでも彼女作りたいって頑張ってるんで」

「そーなん? ま、軽薄そうな男子じゃ、ウチじゃきびしーんじゃないかな」



 でしょうね、知ってる。

 美少女ギャルは階段をステップを踏んで降りてくると、超至近距離でニコニコと俺を見てきた。

 ちょ、顔近っ。顔良っ。あといい匂いだし、下見たら深い谷間がこんにちはしてるしっ……!

 思わず顔を背けると、美少女ギャルはムッとした顔になった。



「ちょっと、はづきち。久々に会った幼なじみの顔を見て逸らすなんて、酷くない?」

「そ、そりゃ逸らすに……はづきち?」



 懐かしい呼ばれ方に、美少女ギャルの方を向いた。

 俺のことをそう呼ぶのは、幼稚園からの友達だ。

 八ツ橋葉月。葉月から取って、はづきち。

 ということは俺はこの子と幼稚園が一緒だったってことだ。

 ……わからん、思い出せん。



「えっと……生徒会のメンバー、だよな? 名前教えて貰っていい?」

「昨日、じこしょーかいしたし!」

「すまん、緊張で全く覚えとらん」

「全く……はづきちは変わらないね。じゃあこう言えばわかるかな? よっちゃんだよ、はづきち」



 …………あ……ああっ!



「よっちゃん! 黒月陽子くろつきようこ!」

「ぴんぽんぴんぽーん! だいせいかーい!」



 美少女ギャルこと、黒月陽子。あだ名はよっちゃん。

 確かにいた。幼稚園が一緒で、小学校も三年生まで同じだった。

 途中でよっちゃんが転校して以来会ってなかったけど……まさかこんなところで再会するなんて思わなかった。

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