第4話 セクシーな三角布

 部屋の構造は、俺の部屋と同じだ。

 同じアパートで隣同士なんだから、当たり合えと言ったら当たり前だけど。

 でも部屋が汚いだけで狭く感じる。

 ゴミがあるだけでこんなに違うのか……俺の部屋、ちゃんと綺麗にしよう。

 手前のゴミから袋に詰めていき、まずは寝室の方に向かう。

 部屋の構造は、リビングと寝室が扉で分かれている2DKだ。

 かなり広くて使い勝手もいい上に、学生割で結構安い家賃で住まわせてもらっている。

 リビングから寝室に入ると、まあ中も結構な汚さだ。



「お前、これ……」

「な、何よ。いいじゃない眠れるんだから」

「そういう問題じゃねーよ」



 こんな部屋で質のいい睡眠が取れるとは思えない。間違いなく病気になりそう。

 でも雪宮の言う通り、ベッド周りと机周りは比較的にゴミが少ない。

 綺麗とは言えないけど、まあ生活出来る範囲だ。



「にしても……」



 さ、流石に女の匂いというか、スメルというか……濃密で濃厚な匂いがする。

 それでもゴミの匂いは隠せてないけど。

 ベッドに関しては干せないから消臭剤を撒くとして。掛布団は干して、シーツは洗濯だな。

 これは雪宮に任せよう。流石にそれくらいは……いや、無理か。こういうところも、やり方を教えないとなぁ。

 ベッドの周りは、脱ぎ散らかしているのかどちらかと言うと服が多い。

 学校では完全無欠っぽいのに、自分の部屋だとこんな感じなのか。

 てかこいつ、どんだけ服持ってるんだ。いらないだろう、こんなに。

 ビニール袋やお菓子のゴミを袋に詰めていく。

 雪宮もこういうの食べるんだな……ん?

 ふと、手に今までにない柔らかなものが触れた。黒い布? 小さいし柔らかい。ハンカチの生地にしては薄いし……なんだ?

 取り合えず雪宮に渡すか。これだけここに置いといても仕方ないし。



「おい雪宮、これベッド横に落ちてたぞ」

「何?」

「ほれ」



 手に持っていたそれを雪宮に渡す。

 雪宮もわかってないみたいで布を広げると……黒色の三角がこんにちはした。

 レースと小さなリボンのついた、透けていてちょっとセクシーな三角である。

 はい、おぱんつ様です。

 しかも雪宮の。



「…………」

「…………」



 気まずい。気まずすぎる。

 突然のことに固まる俺と雪宮。

 ごめんなさい、こういう時どうリアクション取るのが正解なんですか。答えてくれ有識者ニキ。

 呆然とする俺と雪宮が互いに顔を見合わせ……雪宮の顔が一瞬で真っ赤になった。



「ぁ、うっ……!?」

「ぇ、と……」



 俺の顔も熱い。これでもかってぐらい熱くなっている。

 多分、雪宮に負けず劣らず赤くなってるだろう。

 だって、こんな……同級生の、しかも美少女のセクシーな黒おぱんつって……!



「なっ、なっ……!」



 げぇっ、今にもビンタが来そうな予感……!

 流石にビンタは理不尽だろッ。

 顔面をぶっ叩かれるのは本当に嫌だ。俺はマゾじゃないからマジで泣く。

 こんな時、俺に今出来ること。

 それは。



「この度は誠に申し訳ありませんでした」



 誠心誠意、謝罪である。

 いやなんで俺が謝ってんだろう。謎だ。

 厳密に言えばこれを放置していた雪宮が悪い。

 そもそも脱ぎ散らかすなという話だが、それでもこういう時に謝罪をするのが男だ。

 ……多分、知らんけど。

 流石に謝罪をされるとは思ってなかったのか、雪宮は振り上げた手のやり場を失くしたみたいに口をもにょもにょさせた。



「……い、いいわよ、謝罪しなくて。これに関しては私が悪いから」



 イエスッ、生き延びた……!

 助かった。ここで関係が拗れたら、親睦どころじゃなかった。

 雪宮は下着を後ろに隠すと、そっとため息をついた。



「早く終わらせてしまいましょう。お腹空いたわ」

「だから、俺の部屋でカレー食ってていいって言ったろ。服には触らないようにするから、俺の部屋でくつろいでろよ」

「どうだか。そう言って盗むつもりでしょ」

「俺をどんな性犯罪者だと思ってんだ」

「冗談よ」



 だからお前の冗談は(略)。

 そこからはお互いに無言でゴミや服を片付け。

 二時間後にはリビングと寝室は見違えるほど綺麗になった。

 ゴミに関しては、一旦外の廊下に出している。

 あれだけの量のゴミ、邪魔だからな。

 あとは掃除機と雑巾掛けで、大体終了だ。

 綺麗になったリビングを見て、雪宮は目を輝かせて見渡していた。



「おおっ……フローリングがちゃんと見えるわ」

「むしろあれがおかしかったんだけどな。これからはちゃんとゴミ捨てするんだぞ」

「わ、わかっているわ。ちゃんとやるわよ。……出来るだけ」



 おい、今ぼそっとなんて言った?

 これ、定期的に確認にこないとダメなような気がして来た。またゴミだらけになってゴキブリの温床になるとか洒落にならん。



「はぁ……じゃ、掃除の合間に洗濯回すか。やり方教えてやるよ」

「あ、うん」



 ……やけに素直だな。なんか気色悪い。

 キッチン横にある洗濯機に向かい、あれこれと指示を出しながら洗濯機に服を入れて行く。

 俺に触られたくないだろうから、完全に指示厨になってるけど。



「洗濯用洗剤と柔軟剤は、この投入口に入れるんだ。あとは自動的にやってくれるから、少なくなったら入れること。いいか?」

「…………」

「……雪宮、いいか?」

「……ぇ? ぁ、ええ。わかったわ」



 ……? なんか、様子がおかしいような気がする。

 言葉に覇気がないというか、元気がないというか。

 あ、まさか、さっきのことを気にしているのか?

 ……いや、ないな。雪宮はそんなタイプじゃないと思う。

 じゃあ一体何を気にしているのか……わからん。



「どうした。気になることがあるか?」

「あ、いや、その……なんかすごく手馴れているなと思って」

「お前は知らなさすぎるけどな」

「私はいいのよ。実家では身の回りのことは基本的に家政婦さんがやってくれていたから。でも八ツ橋生徒会長は違うでしょう?」

「まあ、我が家は家政婦がいるような金持ちではないが」



 てか雪宮の家、家政婦いるくらい金持ちなのか。凄いな、それ。



「別に気にするようなことでもない。ただ両親が共働きなだけの、普通の家庭だ。幼稚園の頃から家のことの大半はしてたから、まあ慣れみたいなもんだよ」

「ようち……!?」



 予想外だったのか、雪宮は目を見張った。

 俺からしたら当たり前のことすぎて、特に何も感じない。だけどこの話をすると、大抵驚かれるんだよな。



「ま、そんだけだ。だからお前より全然家事全般は出来るぞ」

「私を比較対象に選ばないでよ」



 ごもっともで。

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