境界の人

日和崎よしな(令和の凡夫)

第1話 変哲のないプロローグ

 きっかけは、自分の瞳の色が何色か確かめることでした。


 正確には瞳の色ではなく、その周囲にある光彩こうさいの色です。


 私は手鏡の中をまじまじと覗き込みました。

 いま、琥珀色こはくいろのフレームで囲まれた鏡面に収まっている自分の顔の眼球の部分をじっくりと観察しています。


 黒い瞳の周囲にある光彩の色は、思ったよりも薄いブラウンでした。

 意外だとは思いましたが、その色自体はいたって普通の色です。


 そこで、ふと気づいたことがあります。


 鏡に映る私の眼に光が反射して、琥珀色のフレームが映っていたのです。

 そしてもちろん、そのフレームの中には鏡面があり、そこには私の顔が映っています。

 顔には眼があり、眼には鏡が映り、鏡には眼が映り、眼には鏡が映り……。


 それはきっと、無限に繰り返されるものです。

 ただ、それを永遠に追い続けられるほど私の目は良くありません。


 せいぜい二回か、三回か……。


 そう考えると、何回それを繰り返せるのか気になるではありませんか。


 私は鏡の中に映る眼を追いかけます。


 追いかけていきます。


「…………」


 いま、ほんの一瞬ですが、長いトンネルを抜けたような感覚になりました。


 当然、それは錯覚です。

 いつもの「もしこうだったら……」という妄想が発動したにすぎません。


 そう、いつものことです。


 ただ今日のそれが、たまたま普段よりも不気味だっただけのことなのです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る