5. 金髪おかっぱの龍
「何すんだよ!」
和真はおもちゃのバットをつかむと男に殴りかかったが、男は冷静に指先から何かを放った。すると、パン! という音がして、バットは四角いブロックノイズに包まれ、消えてしまった。
えっ!?
あまりのことに混乱していると、男はニヤッと笑い、和真に対しても触手を射出する。
和真は払いのけようとしたが、触手はつるつると滑り、なすすべなくぐるぐる巻きにされ、床に転がされてしまう。
ぐはぁ!
「あぁ! 和ちゃん!」
芽依は悲痛な叫びをあげる。
「さーて、お仕置きタイムよぉ」
男は嬉しそうにそう言うと触手を操作して芽依を足から持ち上げ、逆さ吊りにする。ワンピースがめくれ、縞柄のショーツが丸見えになってしまう。
いやぁ!
芽依は必死に抵抗しようとするが、触手の力は圧倒的で身動きが取れなかった。
「ハッカーってすごいでしょ? 生意気な小娘は思う存分
男は嬉しそうに芽依のすらっとした太ももを撫でた。
「何すんのよぉ!」
くねくねと身をよじらせる芽依。
「止めろ――――! お前それ犯罪だぞ!」
和真は叫ぶ。
「犯罪? そんなの捕まんなきゃいいだけよ。あんたはこの小娘が
そう言うと男は芽依をベッドの上に転がした。
ひぐぅ!
男は新たな触手を芽依の両足に絡めると、大きく広げる。
「止めてぇ!」
悲痛な叫びを上げる芽依。
「あら、まだ処女なの? いい声で鳴かせてあげるわ」
男はそう言うとショーツに手をかけ、むしり取った。
いや――――っ!
悲痛な叫びが部屋に響き渡る。
「さぁて、ショータイムよ!」
男はニヤッと笑った。
その時だった、部屋に閃光が走ると、
「こん、
という少女の声が響き渡り、いきなり空中から現れた人影が男を蹴り飛ばした。
ぐほぉ!
たまらず床を転がる男。
おかっぱの金髪に赤い瞳をした女子中学生のような娘が着地し、
「ハッキングは重罪じゃぞ! キャハッ!」
と、腕を組んで嬉しそうに仁王立ちした。
男はよろよろと起き上がると、
「お前……、いいところを邪魔しやがって……」
そう喚くと、少女を睨みつける。そして、セイヤッ! と掛け声をかけ、触手を射出する。
しかし、少女は瞬間移動のように男の胸元までワープすると、
「ざーんねん!」
と、叫びながら、中腰になって綺麗なフォームで正拳突きを放った。
ぐふっ!
男は吹き飛ばされ本棚に激突し、倒れてきた本棚から降ってくる本たちに埋もれた。
「き、貴様……。
男はギロリと少女を睨んで言った。
「犬じゃない、龍じゃ」
少女は余裕の表情で見下ろす。
「くっ! 死ねぃ!」
余裕を失った男は指先を光らせるとシュッと横に腕を振り切った。
ビュヨン!
不思議な電子音とともに空間が切れ、
「うわぁ!」
と、少女は慌ててかがんで避ける。
少女の真紅のヘアクリップが真っ二つに切れてはじけ飛び、美しい金髪がパラパラと散った。
「あっ! お気に入りのヘアクリップが……。何すんじゃ!」
目を三角にして怒った少女は指先を男に向ける。すると、キン! という音とともに指先を中心に空間が波打ち、同心円状の波紋が部屋に広がっていく。
「やべっ!」
男は焦って逃げ出そうとしたが、男を中心に球状に切り取られた空間は断絶されて縮み始め、男は逃げ場を失った。
男は必死に何か術を出して逃げようと画策するが、発動せずに途方に暮れる。
アパートの床や壁もろとも徐々に縮退していく男は、顔を真っ青にして、
「わ、悪かった。なんでもする! 許してくれ!」
と、必死に懇願し始めた。
しかし、少女はドヤ顔で、
「女の敵には
と、見守るだけだった。
やがて、バレーボールくらいのサイズに縮められた男は、
「この野郎! ふざけんな、ロリババア!」
と、甲高い声でわめき散らす。
「誰がロリババアじゃ!」
少女は一括すると、雷を男に落とした。
ピシャーン!
と、部屋の中にスパークが走る。
「ぐはぁ!」
ミニチュアサイズに縮められた男は断末魔の悲鳴を上げ、ぶすぶすと煙を上げながら倒れた。
そしてさらに小さくなっていった球は最後には点になってピュン! という音を立てて消えていった。
和真の部屋には綺麗に球状にえぐられてしまった大穴が残り、隣の家の庭からの風がビュゥと吹き込んでくる。
少女は、唖然としている和真と芽依の方を見ると、
「災難じゃったな、今助けてやる」
そう言って触手を消し去った。そして、
「ケガはないか?」
と、二人の顔を見る。
二人はお互い顔を見合わせ、
「だ、大丈夫です」「わ、私も……」
と、答えた。
仮想現実空間から抜け出して芽依を襲った暴漢に、それを瞬殺した不可思議な自称龍の少女。あまりに現実離れした出来事に二人ともあっけにとられていた。
「あー、これ直すの面倒くさいのう……」
少女は渋い顔をして丸く穴の開いた壁を眺める。
「あのぉ……」
和真は声をかける。
「ん? なんじゃ?」
壁の切断面を撫でながら答える少女。
「助けてくれてありがとうございます。
「そのまんまじゃ、それに答えたってどうせ忘れちゃうしのう」
そう言うと、少女は和真の方に手をかざす。
「えっ!?」
直後、和真は意識を失い、ぱたりと床に倒れてしまった。
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