在りし日のアリシア

押田桧凪

第1話

「アリシアちゃんっていつも校門まで送迎だよね? いいなー、お金持ちで」


 お金持ち。その言葉が、ちくりと刺さる。


「ちっ、ちがうっ。いや……ちがうく、ないけど」


 慌てて否定しようとするも遅れて、気付く。ふつうの生徒になりきるためには、毎日、歩いて登校しないといけないんだ。体育の授業だって、体が弱いからなんて言い訳せずに、もっと周りに馴染む努力をしないと……。

 折角できたお友達を、ここで逃す訳にはいかなかった。私は勇気を出して、言ってみる。


「ねぇ。じゃあ今度から、一緒に登校しない? 途中にあるコンビニからでいいなら」


 ほっとしたように表情を緩め、うんっ、と威勢のいい返事が辺りに響いた。

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在りし日のアリシア 押田桧凪 @proof

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