第46話 ドラゴンキラー
クロウが暫くアイリの所に居たいと言うので付き合ったが、アイリの魔力が欲しかったらしく、胸に抱かれて匂いを堪能し就寝前の魔力放出を全身に受けてうっとりしている。
俺の魔力ばかりで飽きていたらしい、かといってアイリ以外に魔力放出が出来る者もいないので、胸と魔力の魅力に勝てない様だ。
臨時収入で懐もあたたかいし王都のギルドには乱闘騒ぎで行きづらい、安心してのんびり出来る、フルンの街に戻る事にした。
其処に乱闘騒ぎや貴族街の火事と毒煙騒ぎで遅れていた、武術大会が10月に行われると発表された。
此れに反応したのがクロウだ、娯楽の少ない世界で猫ともなれば、美女に抱かれて匂いを堪能する以外にないので見に行くぞと煩い。
俺も特別枠で参加させて貰えないかと、本気で言い出したのがちょっと恐い。
出会ってもう2年になるが、少しは成長した様に見えるが未だまだ見かけは子猫だし、精神的な成長が見られない。
どうも子猫の時のおっぱい争奪戦が影響している様だが、猫の、テイルキャットの寿命って幾つなんだろう。
テイルキャットで猫又の寿命なんて誰も知らないだろうけど、其れより俺の成長はどうなってるんだエルマート様。
全然服が小さくならないんだが、街で過ごす普段着も魔法付与の物にする為に以前の仕立屋に出向いたら、前回の採寸と変わらないと言われがっくりきた。
* * * * * * *
色とりどりの刺繍が施されて胸には王家の紋章が浮かぶ純白のワンピースに身を纏い、迎えの馬車に乗り込むアイリを見送ると俺達も会場に向かう。
《なっなエディ、アイリの席で見物出来ないかな》
《却下、招待状を持っていないし目立ちすぎ。そんなに近くで見たいなら闘技場の中に降りて行けば、近くで迫力ある闘いが見られるぞ》
武術大会会場は貴族席、一般席、冒険者席などと分けられていて夫々の身分証がなければ入れない。
一般席などは裕福な者の升席の様なものから、ギュウギュウ詰めの席まで複数有り、冒険者席は王族や貴族席から一番遠い闘技場の向かいだ。
早めに来たので前列に座って開会を待っていると、後ろから蹴られた。
「小僧がそんな所に座るな! 後ろに行け!」
振り向くと、如何にも売り出し中って感じの派手な格好をした連中が睨み付けてくる。
武器は持ち込めないので丸腰だが肩を怒らせてやる気満々、お前は武術大会の出場者かと問いかけ様と思ったが、自粛。
代わりに思いっきり腹を蹴り、前で見たけりゃ早く来いと諭してやる。
蹴り一発で腹を抱えて蹲りゲロを吐く男を見て、仲間達の顔が引き攣り何も言わない。
周囲からクスクス笑う声と騒めきが聞こえてくる。
〈おい、彼奴に絡む猛者がいるぞ〉
〈知らないって強いよな。俺なら即行で逃げるけどな〉
〈見たかあの蹴り、親子ほどの体格差でよ〉
〈俺はあの時見ていたんだよな。転移魔法と火魔法を駆使してそりゃー凄かったぜ、死体だらけの中に血塗で立つ姿なんて震えがきたね〉
〈あれでブロンズだってな〉
〈薬草を売りに来ていたらしいが、未だブロンズの一級ぺーぺーだってよ〉
王都冒険者ギルドに出入りする男達の声に、意気がった男も顔色が変わる。
騒めきが歓声に変わり、クロウの興奮した声に振り向くと有力貴族の最後に国王が席に着く所だった。
《おいアイリは国王の近くだぞ。あいつそんなに地位が高いのか、やっぱりアイリに抱かれて見物したかったな》
武術大会は見応えがあった、冒険者達の個人戦、団体戦から始まり、騎士や国内の腕に自信の有る者が出世を夢見て闘う様は、迫力満点クロウも自分が猫なのを忘れて騒いでいる。
回りからは会場の興奮状態に驚き、ニャアニャア言ってるとしか見えなかっただろうけど。
全ての試合が終わり三々五々帰路につく冒険者に混じって会場を出ると、試合前に俺の背中を蹴った奴とその仲間に囲まれた。
「お前中々の有名人らしいな。兄貴達がお前と手合わせしたいと待っているから顔貸せや」
「はあぁぁぁ、おっさん達、俺に勝てないから仲間を呼んで仕返しに来たのか」
「どうした武術大会に出ていた相手は恐いのか。意気がってる割には情けねえな」
《かー、下手な煽りだな。俺が一発引っ掻いてやろうか》
《駄目だよ、クロウが出るとややこしくなるから》
「どうした、何か言えよ」
〈恐けりゃ土下座して謝罪しろ!〉
〈俺達ドラゴンキラーに逆らったら、どうなるか教えてやるよ〉
〈冒険者ギルドで堂々の模擬戦だ! 逃げるなよ〉
「冒険者ギルドでやるのか。こんな場所で取り囲んで意気がるから、路地裏にでも引きずり込まれるかと震えていたんだよ」
「ほう、良い度胸だな。ならギルドで勝負しようぜ」
「ああ良いよ」
〈おい、やるってよ〉
〈武術大会より面白えぞ〉
〈また、転移無双の闘いが見られるのか〉
〈こいつは見逃せないな〉
〈俺はブロンズに銀貨5枚賭けるぜ〉
〈嫌々、相手を見てからだな〉
周囲に居た冒険者達が騒ぎ出し、冒険者ギルドに着くまでお祭り騒ぎになってしまった。
俺はドラゴンキラーと名乗った8人に取り囲まれて、後ろから小突かれたり蹴られたりしながらギルドに向かう事になったが、黙ってついていった。
ギルドに到着すると既に話が伝わっていて、ギルマスの出迎えを受けた。
「お前さんか、ドラゴンキラーの奴等と模擬戦をしたいって物好きは」
「ギルマス別に望んだ事じゃない。其処のチンピラに取り囲まれて、連れて来られただけだ。来た以上はやるよ」
〈ウォー武術大会の猛者を相手にするとよ〉
〈流石に其れは厳しいだろう〉
〈兄貴頼みます〉
〈ボコボコにしてやって下さいね〉
「お前等、なにか勘違いしてないか」
〈何だよ、今更逃げる気か!〉
〈ギルマスに助けてぇーってか、情けねえなあ〉
「俺はドラゴンキラーと名乗ったお前等8人に、模擬戦を挑まれて承知したんだよ。お前等の兄貴とやらに模擬戦を挑まれた訳じゃない。話をすり替えて逃げるなよ」
「中々度胸の据わった奴だな。お前等もドラゴンキラーを名乗るなら、小僧の一人くらいぶち殺してみせろ」
「何をグダグダ言っている。さっさと訓練場に行け!」
ギルマスに怒鳴られ、兄貴分から嗾けられて顔が引き攣り気味だが、後には引けないので肩を怒らせて訓練場に向かう。
「おらっ! 誰からださっさとやれ、俺は忙しいんだ!」
ギルマスの切れ気味の声に慌てて模擬戦用の木刀を手に取っている。
俺はクロウをバッグごと訓練用具置き場の横に置くと、短槍に見立てた棒をお財布ポーチから取り出し、ギルマスに見せて使用許可をもらう。
《頑張れよー》
《まあ何とかなるでしょう。ゴブリンキラーに格下げしてやるよ》
「ギルマス一人ひとりは面倒なので、8人全員とやりたいんだが駄目かな」
ギルマスにマジマジと顔を見られて恥ずかしいぜ。
「判っていると思うが、模擬戦に魔法は禁止だぞ」
「魔法を使う様な相手でもないしいいよ」
〈野郎とことん舐めくさっていやがる〉
〈8人相手で勝てると思ってる様だが、嬲り殺しにしてやる〉
〈取り囲んで一斉にいくぞ〉
あーあ、8対1だと判ったとたん強気になっちゃって、さっき後ろから小突いたり蹴ったりしてくれた礼をたっぷりしてやるからな。
「良いんだな」
頷いて訓練場に入る。
続いてドラゴンキラーの8人が入ると、見物人が騒ぎ出す。
〈おい8対1だぞ。掛け金を変えるぞ〉
〈ウワー、凄い強気だな〉
〈あれで勝つ気かよ〉
〈オイオイ模擬戦は魔法禁止だぜ、ちょっと無理があるんじゃないのか〉
〈俺は8人に賭けるよ、流石に魔法無しではきついだろう〉
外野の声に自信を取り戻したのか、やる気を漲らせて木剣の素振りをしたりしてニヤニヤ笑っている。
武術大会の会場では、魔力を纏っていると煩すぎるので外していたが、此処では十分魔力を纏って相手をしてやるよ。
開始の合図で一斉に走り出して俺を取り囲むと、構えもせずに下卑た笑いを漏らす馬鹿の群れ。
正面の男に向かって踏み込み腹に蹴りをいれる。
くの字に折れて跪く男の後ろに回り、腰を思いっきり蹴りとばすと顔から地面に激突している。
動きを止めて残り7人を見渡すと、下卑た笑いが凍り付いた様な顔になっている。
〈ウオー今の動き見たか〉
〈凄えなー〉
〈まだまだ、未だ一人だぞ〉
一番ビビっていそうな男に目を付けて、素早く踏み込み腹に突きを入れ、引きながら回して顔面を横殴りにする。
倒れてくる男を避けようと俺から注意の逸れた奴に、振り回した棒を太股に叩き込む。
おかしな姿勢で崩れ落ちる男の足が変な方向に曲がっている。
振り回した棒が男に当たり、隙が出来たと勘違いした奴が踏み込んで来るが、俺は倒れた男を踏みつけて前に出る。
振り返ると、俺が居なくなって蹈鞴を踏む奴の顔を殴りつける。
残り4人、顔色が悪いので病気かなと思うが、此処は勝負の場だ遠慮無くやらせてもらう。
ギクシャクとした動きの男に向かう様に見せて右の男を誘い、反対の左に跳ぶと木剣を構える手首に一撃を入れる。
直ぐさま囮に使った男の後ろに回り、右側に居た男の横腹に突きを入れ、怯んだ隙に顔を蹴り飛ばす。
あと二人、がむしゃらに打ち込んで来る奴を躱す為、囮の男を盾にしようと陰に回ると大上段の一撃が囮の頭を直撃、慌てる男ににっこり笑って腹を突きすかさず鼻にも突きを入れる二段突きで終了。
ギルマスの〈止め〉の声がする。
〈ウッワー、あっという間だぜ〉
〈ドラゴンキラーって案外弱いんだな〉
〈あそこは数で勝負だからな〉
〈やったぜ! おらっ金貨2枚寄越せ〉
〈あのー、糞ドラゴンキラーの腰抜けがー、金返せ!〉
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