第39話 歓迎会

 クロウが自分は冷凍倉庫じゃないと文句を言い出すまで買い付けるので、心配するな。

 俺の魂胆も知らず浮かれていろ。

 お財布ポーチと周囲に言っているので適当に買い、お昼には一度宿に戻る。

 俺の収納とお財布ポーチの中から、クロウの空間収納に全て移動してから一休みして、昼からの買い出しに備える。


 魚は切り身にしてもらい、貝類は木桶を買ってその中に入れる。

 干した貝柱を見付けた時はホタテの貝柱かと喜んだが、味が全然違ってがっくりきた。

 聞けば料理人が買い込んで行くそうで、素人の俺には無用のものだ。

 毎日朝昼二回買いにいくので顔が売れて、市場に行くと今日のお勧めを教えてくれる様になった。

 しかし俺の買う量が多いのでマジックポーチ持ちと知られているようで、どう見てもお財布ポーチに収まる量でないのに進められる事も増えた。


 どうも貴族の買い出し係か、大店の仕入担当と思われているようだ。

 クロウが聞く話と俺も魔力を纏って常人よりは良い耳をしているので、人混みで注意すれば自分の事を話しているとすぐに判る。


 そうなると良からぬ奴等に目を付けられるのは必然、ましてや猫連れで護衛も連れていない小僧だ。

 スリにチンピラや数人掛かりで物陰に引きずり込もうとする者まで、千差万別悪人の見本市だ。


 だが自分で言うのも何だが相手が悪かったね、俺に絡んだ奴等は悉く不幸に見舞われている。

 スリは失敗して逃げる途中アキレス腱断裂でまともに歩けなくなったし、チンピラは物陰に倒れていたが複雑骨折で再起不能、物陰に引きずり込もうとした奴は俺に返り討ちにされて逃げ出した。

 しかも逃げた先で全員水死している所を発見されて噂になった。


 スリはクロウがアキレス腱を爪でチョン、チンピラもクロウが物陰で空中に何度も放り上げて落としたから複雑骨折、拉致しようとした奴等は空中に放り上げて落とし、動けない所をウォーターの水球で包んで水死。

 その間俺は市場にいるので疑われず、クロウが居なくても猫にそんな事が出来る筈もなく悠然としていた。

 クロウって、無敵の存在だよな。


 20日も過ぎる頃には町のチンピラ達は、俺を見るとこそこそ逃げるようになった。

 クロウが聞いた話では、俺には影の護衛がついているとチンピラ達の間で噂になっているらしい。


 この町で色々買い込んだが、残念な事は刺身が無い事だった。

 此の世界は生魚を食べる習慣が無い、生魚には寄生虫がいるので全て火を通さなければ食べられないって教えてもらった。

 塩干物は沢山有って寄生虫も死んでいるので心配なし、切り身を沢山仕入れたが生で食べられないと知った時はがっかりした。

 調理した物は寸胴を沢山買い、料金を払ってそれに作ってもらいしっかり溜め込んだ。

 クロウからもう良いだろうとストップが掛かかり、買い溜め諦めた。

 結局ミルヌの町には二月近くいたので、アイリに会いたいと言うクロウに引きずられて帰る事にした。


 又二月以上歩くのは憂鬱だが、歩かなきゃ帰れないので仕方が無い。

 シードラゴン亭に別れを告げ、ミルヌの長い坂を上り振り返れば遠くに小さく町が見える。

 送り狼も姿が見えるが、遠いので暫くは襲って来ないだろう。

 丘の頂上からの下りでクロウの最大ジャンプ4回で引き離し、カプセルホテルに潜んで送り狼をやり過ごす。

 面倒事は嫌いなんだよね。


 カプセルホテルの中から覗いていると、俺達の姿が見えなくて慌てて後を追う集団の姿が見えた。

 街道脇にいるクロウが彼等の話を聞いて教えてくれたが、俺の姿が見えなくなり、マジックポーチ持ちだ絶対に逃がすなと必死らしい。

 総勢16名、追いついて来る様なら皆殺しだが面倒だよなぁ。


 * * * * * * *


 ミルヌを過ぎて三日目、今日はコルサホの街だと思っていたら街道脇に男が二人いる。

 俺の顔を見て笛を吹くので、やり過ごしていた送り狼の集団の見張りらしい。

 少し離れた窪地からわらわらって感じで人が湧き出てくるが、死ぬ為に待っているなんてご苦労なこった。


 《クロウは後ろから頼む、俺は前の奴からやるよ。最初は20mね》


 《おう、任せろ》


 下げたバッグが軽くなったので窪地の方に跳んだようだ。


 《何処に居やがった》

 《逃げられると思っていた様だが、無駄だな》

 《おーお、待ちくたびれたぜ》


 好き勝手を言っているが、後ろの奴から姿が消えているのに気がついてない。

 俺も先頭の奴から上に跳ばす〈ドスン〉っ音とともに人が降ってきたので皆の足が止まる。

 態々止まってくれるので遣り易いねー、次々上にジャンプさせて墜落させると流石に変だと思った様で、気の早い者は逃げ出したが手遅れ。

 地面に16人が倒れて呻いているのは不思議な光景だが、容赦はしないよ。


 街道から見えない様に窪地にお帰り願う為、再びクロウと二人でジャンプさせる。

 この時になり、漸く俺達が魔法を使っていると気づいた様だが、墜落の痛みで逃げられない。


 「残念だねー、獲物はお前達の方なんだよ。俺の姿が見えなくなったら諦めて帰るべきだったのに、のこのこ出て来るからだよ」


 「お前何をした?」


 「知ったところでどうにもならないよ。みんな懐の物を目の前に全て出せ!」


 「てめえ、必ず仕返しはするぞ」


 「皆こいつをよく見てな」


 その男を、又20m程ジャンプさせて落とす。

 〈ウオォォォ〉って声が聞こえたと思ったら〈ドスン〉と皆の目の前に男が落ちてきてびっくりしている。


 「今度は此の男の上を見ていな」


 再度上にジャンプさせると、空中に男が現れて悲鳴とともに落ちてくる。


 「判るかな、もっと高いところから落とす事も出来るよ。落ちたくないのなら懐の物を全て前に出しな」


 二度落とされた男が失禁して震えている。

 隣の男にそいつの持ち物を全て出せと言うと、片手しか動かないのか必死になって出している。

 お財布ポーチ持ち四人、マジックポーチ持ち一人には、使用者登録を外させ中身をぶち撒ける。

 マジックポーチ持ちがボスかな、例によって色々収集しているしお財布ポーチ持ちも同じ。

 お財布ポーチの一つに金貨と銀貨を全て入れ残りのお財布ポーチも回収、マジックポーチに収集品を入れて此れも回収。


 残りは全て仕舞わせると、命は助かったと思ったのか安堵した顔つきだが甘い。


 《クロウ、後ろの奴から遠くに投げ捨てようぜ》


 《おーし任せとけ》


 俺が何も言わないので安心しているが、後ろの奴から姿が消えているのに気づいてない。

 何か様子がおかしいと気づいて振り向いた時には、大半の者の姿が消えていてフリーズしている。

 来世が有るのは経験者だから判るので、お前達も来世は真面目にやれよと心の中で教えてお別れする。


 「はあー面倒だね、後は収集品を捨てながら行くとするか」


 《然し、証拠品を収集するのが此の世界の悪党の趣味なのか》


 「それは集めている本人に聞いてみないと何とも言えないな」


 * * * * * * *


 以後ムラーデス王国では野獣に襲われた以外は退屈な旅だった。

 オーザンからワレヘム迄は例に依って一人旅は許されなかった。

 今回は丁度乗合馬車が客を呼び込んでいるところで、後二人迄と言ったので即乗り込んだ。

 四日間馬車の座席の攻撃に耐えて無事ワレヘムに到着したが、国境を越えて向かいのヘラルドン王国ヘルズの町に入ると何か雰囲気が違う。


 《ちょっと雰囲気が悪いな》


 《だね、歓迎会を開いてくれそうだよ》


 《直ぐに襲って来そうにもないので、町を出てからだな》


 《今夜は町に泊まって、早朝に町を出る事にしようかな》


 朝一番に町を出る為門に向かうと、早起きの男が二人出入口の前に待機している。

 ヘルズからジエットまで馬車で五日もかかるのに、早朝からご苦労な事だこと。

 まっ、暫くは襲って来ないだろけど、油断だけはしないでアイリの下へ向かうか。

 エロ猫が、アイリの胸が恋しいと煩いからなぁ。


 早朝門の所で見かけた二人は、ヘルズの町を出てからずっと距離を空けてついてくる。

 鬱陶しいが未だ攻撃された訳では無いので敵認定はしないが、気に障る。

 7月の暑さの中ご苦労な事だと思うが、俺は魔法付与の服なので快適でクロウもバッグから出ようとしない。

 ただフードを被っているので後方確認にはフードに手を添えて身体ごと振り返るのが面倒だ。

 一日歩きカプセルホテルを出し中に入るが、月が出る前に一度仕舞ってジャンプし場所を変えてから本格的に寝る事にした。


 翌日はゆっくり起きてのんびり出発、どうせ敵対者なら何処かで待ち伏せしている筈だと油断せずに歩く。

 左右と後ろから弓の攻撃を受けたが、魔法付与の服は充分にお値段なりの仕事をしてくれて、少々痛いだけで済んだ。

 弓が通用しないのを見て姿を現したが、前後左右を囲まれていますがな。

 立ち止まる俺を嬲る様に、ゆっくりと包囲の輪を縮めてくる。


 《クロウ後ろに行ってくれ、テレビや映画なら後ろで離れて見ている奴がボスだから》


 《お前、テレビの見過ぎじゃねえの。まっ、行ってくらぁ頑張れよ》


 気楽な奴だね、近づいて来る奴らは腰が座っているというか、落ち着いてじっくり俺を観察している様だ。

 嫌だねぇ、こういう奴は手強いんだよ、盗賊の方が楽なのにな。

 30m程手前で全員止まったので、此れじゃフレイムの火球攻撃も出来ないしクロウと離れたのは失敗かな。


 余計な事を考えていたら横からの魔法攻撃が来た、アイスランスだが俺から2mは離れている。

 次いでファイヤーボールが直撃して吹き飛ばされたが、服が被害を防いでくれたので痛いだけで済み動きに影響はない。

 アイスランスが厄介なので、正面にいる男の後ろにジャンプする。

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