第24話 猫の祈り

 「逃げても無駄だよ。ランセン神父の事を喋る気になったら頷け」


 顔、脇、腹の左右と腹の上、次々に拳大の火の玉を作り並べていく。

 驚愕の表情で次々と現れる火の玉を見ていたが、身近に炎が有るので暑さで身悶えをしはじめたが、直ぐに必死で頷く事になった。

 顔に当たる火の玉など気にしている余裕すら無く必死なので、全ての炎を消してやる。


 「質問に答え無ければ続きを始めるぞ、次はニラガ同様股間をこんがり焼いて遣るからな」


 必死で頷くので、再びランセン神父の事を質問したが、神父がどうなっているのか知らなかったが、神父直筆の供述調書を見せられて取り調べを受けた様だ。

 なぜ処分が軽いのかの問いには、セレゾ・ヘラルドン公爵様にも奴隷達を提供しているので、取調官や上司に圧力を加えて下さったのだと自慢げに吐いた。

 他にも侯爵2名伯爵5名子爵4名に王国高官にも、好みの男女を定期的に提供していたので、俺は安全なんだと嘯いている。


 セレゾ・ヘラルドン公爵以下侯爵2名,伯爵5名,子爵4名,王国高官3名の名を紙に書かせる。

 ヘラルドン王国の貴族紋章一覧と、貴族街の地図の置き場所を聞き出して一度執務室に跳び、収納に仕舞って再びエルドバーの所に戻る。


 エルドバーが受けた処分内容を聞いたが、領地没収と金貨五千枚の罰金に蟄居を命じられただけだった。

 そりゃー公爵以下高位貴族だけで8人と、子爵4人がエルドバー擁護に回れば王家も苛烈な処分は不可能だろう。

 強行して12人の貴族が逆らえば、王家の権威は失墜、下手をすれば内乱になる恐れから処分も甘くなるよな。


 ヘラルドン王国の事はどうでも良いが、創造神エルマート様を称えるエルマート教会本部に戻った、ランセン神父はどうなっているのか。

 一度教会本部にお邪魔する事に決めた。

 

 取り敢えずエルドバー子爵家は消滅させる、子爵の手足の骨を砕きベッドごと屋敷前の道路に放置する。

 残りの三人も全て間隔を開けて道路に並べると、オルトとウルグの頸動脈を切断して即死させる。

 ニラガには直径1m程の火球を腹の上と足に置いて放置、エルドバー子爵はベッドごと火をつけてやる。

 エルドバーとニラガには、今まで他人に与えた苦痛の万分の一でも味わってから死んでもらう事にした。


 《熱い止めてくれ、ウオォォォギャァァー》

 《ギャアァァァーァァァ》


 貴族街の道路の真ん中で、燃えるベッドから絶叫が周囲に響き渡る。

 猿轡を外されたニラガが縛られたまま火の玉に包まれて悲鳴を上げるが、直ぐにその声も小さくなり消えた。


 静まりかえっていた貴族の館の其処此処に灯りが灯り、道路で燃えているベッドを見て人々が騒ぎ出し騒然となるが、俺はとっくに貴族街から姿を消しているので無問題。


 これだけ派手にやれば誰が死んだのか隠しようも無いはずだし、誰がやったのか王家は理解するだろう。

 ランセン神父の身柄を王家が引き取り調査をしていれば、俺の名は知られているはずだが此の様子だとその恐れは無さそうである。

 エルマート教会本部に忍び込み、偉い人に神父の事を聞けば判る事だ。


 その夜、借りているホテルの部屋に跳び、アイリに事情を話してクロウを置いて行く事にした。

 アイリが王家に連行されたら、クロウがベッドの下にでも隠れて俺に教えてくれる事になっている。

 2、3日に一度は部屋に来るので心配するなと告げて、王都の外にでる。

 実際はクロウとは念話で話せるので、そう遠く離れて無ければ問題ないのだが、アイリには教えてないのでそう言っておいた。


 それから一月経ったがアイリの生活に変化はなく、宿の周辺にも不審な奴がいる様子も無かった。

 やはり王家は、エルマート教会本部からランセン神父の身柄を受け取っていない様だった。

 その夜、この一ヶ月何度か訪れたエルマート教会本部の建物に侵入した。

 一般の者が立ち入れる場所はだいたい理解している。


 クロウが珍しそうに周囲を見回しているが、俺が教会本部に乗り込んで問題の神父に会いに行くと言うと、見張りをしてやるよと付いてきた。

 然し此奴は観光気分の様で、俺にあれこれと説明を求めるし挙げ句は魔力測定盤に乗り、俺の魔力高はとか言い出した。


 「俺が知る訳無いだろう。二度手を乗せた事があるが20って言われただけで、どうやって読み取っているのか知らないよ」


 ふーんとか言いながら祈りの台の上に乗り、エルマート神像に向かって俺にも魔法をくれよとか言い出したが、無理だろう。


 《なぁエディはどうやって魔法を授かったんだ》


 「どうやってと言われても、15才になったらその台の前でエルマート神像に祈る事になっていて、俺にも魔法を下さいって祈っただけだ」


 《エルマート様、猫に生まれるなんて酷すぎます。せめて俺にも魔法を下さい》


 こいつ真剣に祈りだしたと思ったら、突然狼狽えだした。


 〈にゃっ、ににゃや、にゃーにに、ににににに、にやゃゃゃにゃ?〉


 「落ち着けクロウ。にゃーにゃー言っても判らんぞ」


 《にゃ・・・あっ、頭が真っ白に光ったんだよ。何だ此れはエディ》


 「はぁああ、頭が真っ白に光っただってぇー」


 「誰だ! こんな時間に何をしている」


 いっけない、速効でクロウを抱えてジャンプして逃げた。

 物陰に潜みクロウの口を押さえて様子を窺うが、声を掛けてきた男は辺りをキョロキョロと見回した後、首を捻って去っていった。


 《ななっエディ、此れってお前の言っていた魔法を授かった証拠だよな。何の魔法を授かったんだ、なっ何の魔法だよ》


 興奮するクロウを落ち着かせて、魔法を授かったのなら神父様に聞かなけりゃわからないと説明する。

 もう自分が猫だって事を忘れて、神父様に聞きに行こうと言い出したりして大変だった。


 然し15才でもないし猫だぞ、猫又ではあるが猫に魔法ね。

 人間の意識を持っているので魔法を貰えたのかもだが、エルマート様って割といい加減な性格なのか?

 なにせホーンラビットやヘッジホッグを見れば、地球のウサギやハリネズミを大きくしたり角を付けただけの動物とか、ゴブリンやオークなんて猿やゴリラの人間版だしな。

 此の世界の神様は一人だけ、創造神として何もかも一人で作るのは大変だろうけど、手抜きが過ぎる気がする。


 《エディ・・・おいエディ、聞いているのか》


 クロウの呼びかけに気がついて何かと言えば、俺が突然考え込んでしまい動かないから心配になったらしい。

 クロウに謝って魔法の事は後で考えて何とかすると誤魔化し、ランセン神父に面会させてもらうことにする。

 正面から行けば惚けられて追い返されるか、会わせてやると言ったら危険な兆候だしな。


 こういった所は奥に居住区が有る筈だが中々広い、ヘラルドン王国エルマート教会本部だもんな。

 王都の中にこんなでかい物を作るから、一般人の住む場所が狭くなるんだ。

 クロウと二手に分れて探し一際立派な建物を見付けた、出入りする者達は丁寧に一礼して出入りしている。


 《クロウ見付けたぞ。多分此処に間違いない》


 《おっおう、直ぐ行くわ》


 何処に居るのか知らないが少し声がうわずっている。

 然しどれくらい離れているのか知らないが良く聞こえるな、一度念話の届く距離も確認しておく必要があるか。

 暫くして俺と合流したクロウに問題の建物を示すと、ちょっと確認してくると言ってトコトコ行ってしまった。

 こんな時は猫って便利だよな。

 見つかっても、野良猫が彷徨いているとしか思われない。


 クロウが此処に教会の偉い人が居るのは間違いなさそうだと言ってきたので、クロウの気配に向かってジャンプ。

 室内の気配を探り、数名が居るようだがのんびりするつもりも無い、クロウにはバッグに入ってもらい、顔を出さない様にと注意してから中に跳び込む。


 〈えっ〉

 〈だっだ、誰だ〉


 何やら騒いでいる護衛らしき男二人にフラッシュを浴びせて、鉄棒で優しく眠らせる。

 豪華絢爛を具現化したおっさんが、キンキラ指輪を並列に付けた手で指さして何か言おうとしているが言葉にならない様子。

 意味深に鉄棒を掌に打ち付けながら近寄って行くと、後ずさりしようとするが、豪華なソファーにふんぞり返っていたので仰け反っただけ。


 「お静かに願いますよ。俺の用事が済めば危害を加えずに帰りますから」


 「お前は誰だ、なんの用だ!」


 「名乗るつもりも顔を見せる気も無い。顔が見たいのなら見せるが、その代わり死ぬことになるけど見たい?」


 プルプルと首を振るがほっぺが揺れてるよ、何で此奴等って揃いも揃ってでっぷりタイプになるのかな。

 エルドバー子爵領フルンの街に赴任していた、ランセン神父を連れて来る様に命じるが判らない様子だ。

 王家からも、ランセン神父に関して何か言ってきた筈だと言ったら判った様だが、もごもご言って埒があかない。

 鉄棒で軽く頭をゴンゴンすると、ランセン神父は地下牢に幽閉していると言った。


 彼は教会の汚点だが、ヘラルドン王国に引き渡す訳にはいかない。

 ランセンのやった事は教会の弱みだが、それはヘラルドン王国の弱みでもある。

 供述書が王国にあるのなら、ランセンには生きていてもらう必要があるのだとさ。

 教会と王家の確執に興味は無いが、連れて来ないならお前に死んでもらうと告げて、1m程の火球を目の前に作ってみせた。

 お前が丸焼きになるか、ランセン神父を連れて来るかと選ばせた。

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