第22話 クロウの魔力

 ギルマスの制止の声に、もっとやれーとか殺せ! との声が飛ぶ。

 相当嫌われてますなゴブリンキラーの皆さん。


 「本当にやっちまうとな、中々よい腕だ。何年冒険者をしている」


 「1年ですよ、9月生まれなんだ。それよりギルマスに頼みがある」


 「聞ける頼みなら聞こう」


 「此奴等に聞きたい事が、いや調べたい事があるので少しの間見逃してくれないかな」


 「訳ありか?」


 「俺はこの街の孤児院育ちだ、そう言えば判るだろう。噂を知っている筈だと思うが、それを確認したい」


 黙って俺の顔を見て、訓練場で興奮気味に話す冒険者達を追い払ってくれたが、ギルマスは立ち会うと言って動かない。

 殺されると、立場上不味いんだよな等と嘯いている。


 無理を通す気も無いので黙って奴等の持ち物を調べ、お財布ポーチやマジックポーチを取り出し、使用者登録を外すか中の物を全て出せと命じる。

 ギルマスは興味津々でマジックポーチやお財布ポーチを見ている。

 言っても聞き入れないのは承知しているので、赤髪の男の面前にピンポン球ほどの火球を浮かべる。


 「何か判るよな。使用者登録を外さなければ、此奴を股間に埋めてやるよ。ちょっと熱いけど試してみるか」


 赤髪とは別の男とブルゾもお財布ポーチを持っていたので、三人を横に並べているがふてぶてしく笑っている。


 「怪我が治ったら、この礼はするぞ。俺達にはエルドバー子爵様の後ろ盾があるから、覚悟しておけ」


 やはりな、しかしエルドバー一家の事を知らないらしい。


 「残念なお知らせがあるんだ、エルドバー子爵様は失脚したらしいよ。息子のウルグや家族は王国騎士団が来て王都に連れて行ったよ。今このフルンの街は、代わりの代官が治めているよ。ねっギルマス♪」


 ギルマスが、満面の笑みで頷いている。


 怪我で顔色が悪かったが、別な意味で顔色を無くしているので追い打ちをかける。

 股間にピンポン玉をプレゼント、一人ずつは面倒なので三人並んでいる事だし手間を掛けずにさくさく聞き出したいのだ。


 《ウオォォォ、止めろー》

 《アッァッァァ、止めて下さい、熱い!》

 《てめえぇぇ必ず殺すぞ! グオーォォ》


 余り煩いと尻にも埋めるぞ。

 三回ほどピンポン玉をプレゼントしたら素直になり使用者登録を外した。

 逆さにして中の物をぶち撒けたら出てきたね。

 様々な衣類に大小の剣や宝石類、金目の物を溜め込むのは習性なのかね。

 ギルマスが隣で嬉しそうに出てきた物を調べている。


 「中々の収集家だな。しっかり喋って貰う事になりそうだ」


 クロウが肩の上からそれを見ているが、尻尾で俺の頭をポンポン叩いてくる。


 《此の世界は無法地帯とそう変わらないな。お前を非情な奴だと思っていたが、日本人の甘ったれた考えでは生きて行けない世界の様だ》


 《まぁな。弱肉強食とは言わないが、法が通用しない事が多々有るからな》


 後はギルドがゴブリンキラーの始末を付けてくれるだろう、他の協力者や奴隷商までは俺も面倒みきれない。

 此奴等を潰しても暫くすれば又似たような奴が出て来るだろうが、俺に関わらなければどうでも良い。

 ギルマスに帰る挨拶をすると、昇級させるからカードを出せと言う。


 「おれは其奴らの報奨金だけで満足ですよ。一年で二回も昇級しても有り難みが在りませんよ」


 「一年で二回? 何をやって昇級したんだ」


 「旅の途中で野盗に襲われて、返り討ちにしたらアイアンの二級になったんです。俺は最高ブロンズの二級までしか上げないつもりですから、当分アイアンの二級で良いんですよ」


 食堂に行くと、ヘッジホッグのメンバーが揃っていた。


 「悪いな、野暮用で遅くなっちまったよ」


 「あれを野暮用って言うかね」

 「ほんとエディの強いのは知っていけど、ブロンズやシルバークラスを手玉にとって楽勝だもんな」

 「でも此れでエディの用事は済んだんでしょ。此れからも俺達とやってくれるの」


 王都に行く必要があると告げて、一度ヘッジホッグを抜けると伝える。

 

 * * * * * * *


 今回の王都への旅は対人戦にも有る程度自信がついたし、一人なら転移魔法を使って逃げるも楽なので歩く事にした。

 馬車の座席の攻撃に耐え続けるのにも飽きたし、乗合馬車で王都まで18日だ。

 歩けば24、5日で着くと聞いたので歩く事にした、旅の道連れもいるしね。

 急ぐ旅でもなしのんびりしてと思ったが、旅は散歩と違う事を忘れていた。 空間収納とお財布ポーチにマジックポーチまで有るので、荷物を持たなくて良いのだが、前に進むにはひたすら歩かなければならない。


 陽も暮れかけて適当な所で野営する為にカプセルホテルを取り出すと、クロウが食いついてきた。


 《なっ、なっ、エディ、此れは何だ何処にしまっていたんだ》


 食いつくねクロウ、おれがランク5のマジックポーチ持ちだと知らなかったな。

 カプセルホテルから説明してやると、俺の出入口がないとご不満の様子。

 完全に猫の思考だ、猫用通路を作ったら俺が危険になるので駄目と言っておく。

 中に入れば俺がカプセルホテルと呼ぶのを理解した。


 《確かに此れはカプセルホテルだよな。トイレが有るだけ上等な部類だな》


 などと言いながら、ベッドの足下側上に有る棚の一つに飛び乗り座布団を出せと要求してくる。

 座布団代わりの毛皮を敷いてやると、香箱座りで鎮座し満足気である。

 そのうち猫ちぐらでも作ってやったら、速効で中に入りそうだ。


 夕食後、俺は魔力放出をして寝るので暫くは完全に気を失った状態なので呼んでも無駄だし、決して外に出るなとクロウに言いつける。

 戸締まりの出来ないお前が外に出て、野獣が来たら俺には反撃のしようが無いので死ぬからと、きつく言っておく。

 それに又食いついてきた、魔力放出ってなんだどうして気を失うんだと煩い。 それで気づいて、クロウに魔力の有る場所を知っているか聞いてみた。


 《お前、それはラノベにも書いてあったぞ。へその奥に有るって》


 「それが判るか、感じられるか」


 《いんや、生活魔法にそれは必要無いだろう。魔法を使うのに、魔力のなんたらかんたらと書いていたのを覚えてるけど》


 「その、なんたらかんたらは生活魔法にとっても重要なんだよ。俺が模擬戦でフラッシュを使ったのを見ていただろう」


 《ああ見事な目潰し攻撃だったな。昼でも十分通用するんだな》


 「あれはライトの強化版だぞ。つまり生活魔法を利用した攻撃だな」


 《はあぁぁぁ、あれが生活魔法ってか。おいそれじゃ俺も覚えたら使えるのか、闘えるのか》


 「落ち着けよクロウ。それには先ず魔力の有るところを知る必要があるんだよ。へその奥の方をよーく探ってみろ、何か感じる物をみつけたら言えよ。話はそれからだ」

 立ち上がってへそを見ているが、毛まみれでへそなんて見えるのかよ。


 《俺、へそねえわ》


 「はぁーへそがないって、お前哺乳類だろう」


 棚に置かれた座布団の上で、猫立ちしているクロウを持ち上げて確認してみた。

 ん・・・へそどころか、タマタマが見当たらない。


 クロウに尻尾の往復ビンタをくらった。


 《失礼な奴だな》


 「クロウお前女か・・・いや、雌猫か?」


 《俺は男だ!》


 「然し、現にタマが見当たらないぞ。男なら・・・雄猫ならタマが有る筈だぞ」


 《俺は、おれは・・・猫に産まれたが、ちゃんと日本人南野高次の意識を持って生まれたんだ。それを、それなのに、タマが無いからって女扱いしやがり、チビだからって・・・おっぱいも碌に吸わせて貰えなかったし》


 いかん鬱モードに突入し始めている、相当兄弟間の性差別が有ったようだ。


 「落ち着けクロウ、お前は男なんだな。身体は女でも心は立派な男、日本人南野高次に間違いないぞ。決して雌猫じゃないぞ」


 また尻尾の往復ビンタを貰ってしまった、何か地雷を踏んだようだ。

 話をそらさないと、俺のほっぺが腫れ上がりそうだ。


 「よく聞けクロウ、ようは魔力を感知する事が肝心なのだ。心を静かに持ち腹の中に精神を集中しろ! 何処かに違和感を感じる場所があるそれを探せ」


 よし! 何とか意識をそらせた様だが、なんとまぁ面倒な奴だ。

 俺は此の隙に魔力を放出して寝てしまおう。

 翌日から俺はクロウの性についての話題を避ける事にした、ふさふさもふもふの尻尾とは言え高速での往復ビンタは結構痛いのだ。


 クロウは自分で歩いている時以外俺の肩に乗り、真剣に魔力を感じる為に半眼になり意識を集中している。

 時々居眠りに移行して落ちそうになるのは、猫の本性に引きずられているのだろう。

 5日目には多分此れだと思うと言い出したので、それを体内でぐるぐる回してみろと俺の遣り方を教えた。


 《うぅぅ、目が回るー》


 「心で感じ取るんだぞ、見ていないのに目が回る訳ないだろう」


 《えっ、見えるぞ。目を閉じると毛糸玉を適当に丸めた様なものが、ぐるぐる回りながら糸がうにうに動いているな》


 初めて聞いたってか、そんなもの見た事無いし見えるって話も聞いたことがない。

 詳しく聞いたが色は分からないが、球体の中に太い糸の様なものが見え、それがうにうにと勝手気ままに動きながらぐるぐる回っているらしい。

 それに付いて話し合ったが神様の領域か、クロウが猫又だから見えるのだろうと結論づけて考えを放棄した。


 クロウにはそれを細長くし、両手・・・両前足を合わせて輪を作り輪の中をぐるぐる回せと言っておく。

 人と猫とでは少し勝手が違って面倒くさいが、クロウはこれがラノベで言う魔力を練るって奴かとご機嫌で練習している。

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