大好きな幼馴染が急に俺を避けだしたんだけど、全然デレがかくしきれてなくてなんなら好きだと言っちゃってます
天江龍(旧ペンネーム明石龍之介)
第1話 心の声?
銀髪碧眼の派手な容姿に加え、研ぎ澄まされたように整った顔立ちのくせにどこか幼さを残す柔らかい表情をした、少し背丈の小さい女の子。
キリッとした大きな切れ長の目が特徴的で、鼻筋は高く通り色白でいつも頬はほんのりと赤い。
少しクセがありクシャッとした無造作な銀髪は地毛なんだとか。
母の家系にイギリスの人がいるとかなんとかの話を聞いたことがある。
誰が見ても抜群に可愛いとしか言いようのない彼女だが、勉強はお世辞にもよくできるとは言えないし、運動だってそこそこというかむしろ苦手なジャンルが多く、その辺は平凡な子。
しかし学校という狭い世界の中では、一つでも非凡なものがあればたちまち人気者になってしまうもので。
彼女の場合、それがとびぬけた容姿だったというだけの話だ。
つまり、彼女は学校でとてつもなく人気がある。
さる筋から訊いた話では、彼女と同じクラスになれなかった男子が、その権利を同じクラスになったやつから高額で買おうとして、先生に注意されたとか(そもそもの話、実際に売買できるわけがないのだが)。
また別の筋から訊いた話では、彼女に告白する際には事前にファンクラブの許可を得て、承認が下りなければ近づくことすらできないとか(まあ、そのファンクラブがそもそも何者だよって話だけど)。
どれもこれも信憑性の低い与太話だが、そんなデマが横行し、しかもそれがまるで事実かのように思わされるほど、彼女の人気は絶対的なのである。
と、まあ。
そんな風に大袈裟に紹介をしてみたが、四条紫月は俺の幼馴染である。
だから俺にとってはクラスの人気者でも美人な同級生でも憧れの女子でもなく。
どこまでいってもただの幼馴染なのだ。
「おはよ、しゅうちゃん」
「ああ、おはよう紫月」
「えへへっ、今日も迎えにきたよー」
「今日から高校生か。頑張ろうな」
「うん、毎日迎えにくるね」
これは俺たちが高校入学初日を迎えた日の朝の会話。
それにこの日に限らず、こんなやりとりが、幼稚園の頃から変わらず、飽きもせず、毎朝俺の自宅の玄関で行われていた。
玄関を出て通学路を歩く間も、学校に着いてからもずっと。
来る日も来る日もずっと。
俺は紫月と一緒だった。
可愛い幼馴染との甘い日々。
それは昔からずっと続いていて。
俺もそれを望んでいて。
これからもずっと、当たり前のように続いていくものだと、そう思っていたんだが。
ここ最近、そんな幼なじみの様子がおかしくなった。
「おはよう紫月」
「……よう」
「え?」
「お、おはようって言ったの! し、知らない先にいく!」
「お、おい」
という会話が、珍しく紫月が迎えにこないから一人で家を出た後、登校中の紫月を発見して声をかけた時に実際にあった。
三日ほど前から突然こんな感じ。
しかし当然俺に心当たりは全くない。
奇しくも高校生になってからもずっと同じクラスで、一年生の頃から二年生になった今も、ずっと彼女は俺の後ろの席にいる。
もちろんこれは偶然だが、運命を仕組まれていると言っていいほどにいつも彼女とは席が隣接しているのだ。
ほんと仲がいいな、とか。
羨ましいぜくそ野郎が、とか。
リア充死んじまえ、とか。
皆の憧れである彼女と常に一緒とあって、学校では常に散々と揶揄されながら疎まれたものだけど、ここ数日の俺たちの様子を見て。
男子たちはニヤついていた。
そもそも付き合っていない俺たちのことを破局したと勝手に思い込んで歓喜したり、なんなら紫月と近づくチャンスだと思っていつにも増して積極的に彼女に話しかける男子が増えた。
もちろん紫月はそんな連中を相手にしてない様子だし、喧嘩をした覚えもないから俺も普通に用事があれば話しかけるんだけど。
「なあ、昨日のノート見せてくれよ。ちょっと寝てて板書し損ねて」
「……ぷいっ」
「お、おい。無視すんなよ」
「知らない。しゅうちゃんの方が頭いいじゃん」
「いや、そういう話じゃなくてさ」
「ぷいっ」
「……」
まあ、こんな調子である。
ちなみに紫月とは家も隣で四六時中一緒だったころもあったが、喧嘩をしたことなんて一度もなく。
なんなら彼女が俺を無視するなんて経験も、一度もない。
だから、普通なら焦るべきなのだろう。
もしかして俺の知らないうちに彼氏ができたんじゃないかとか、幼い頃は仲良かったけど高校に入って色んな男子を見ているうちに俺に興味がなくなったんじゃないかとか。
あれこれ邪推して不安になりそうなものだけど。
どうもそうはならないのである。
別に彼女に対して何の気持ちも抱いていないとか、女子として見ていないとかそういう強がりをいうつもりはない。
紫月は可愛いし、ほっとけないし、ずっとここまで傍にいて何も感情が沸いてこないはずもない。
むしろ情がありまくりだ。
回りくどい言い方をやめれば、俺は彼女が好きだ。
大好きだ。
もちろん一人の女の子として。
で、大好きな幼なじみによそよそしくされて、なんで焦らないのかという話だけど。
「……しゅうちゃん、好き」
「……」
「しゅうちゃん、大好き……」
「……」
「どうしよう、どうやって伝えたらいいかなあ」
「……」
後ろの席で独り言を漏らす紫月の声が、丸聞こえなのだ。
本音が駄々洩れるにしてもひどい。
心の声が漏れ始めたのは俺につんけんした態度を取り出したその日の三限目辺りから。
なーんかぶつぶつ言ってる声が聞こえるなと思って耳を澄ましてみると。
「しゅうちゃん、かっこいい」
という声が聞こえたのだ。
聞き間違いか? と、後ろを振り向くと顔を逸らされ。
やはり聞き間違いかと、前を向くと。
「しゅうちゃんの顔、恥ずかしくて見れないよう……」
という声が、今度ははっきり聞こえた。
そこから念仏のようにずっと。
しゅうちゃんしゅうちゃんと呟く紫月の独り言をずっと聞かされて。
そのくせ、こっちが話しかけると避けられて。
ということを繰り返して四日目。
いい加減嬉しさと恥ずかしさと気まずさでどうにかなりそうなのを必死に堪えての今日。
最後の授業をもうすぐ終える時に、背中を何か鋭利なものでつつかれた。
「いてっ」
思わず声が出てしまう。
そして振り向くと明らかに嘘っぽく、頬杖をついて窓の外を見る紫月が。
シャーペンをくるくる指で回している。
「……なんだよ」
「……別に」
明らかにそのペンで俺の背中をつついたのだろうが知らんふり。
呆れて前を向くと今度は首のあたりがチクリ。
「いった!」
今度は大きな声が出てしまった。
先生から「おい
「す、すみません虫が目に入って」
と、意味不明な言い訳をしてから睨むように振り向くと。
なぜか紫月が泣いていた。
「ううっ……」
「な、なんだよ今度は」
「なんでもない……前、向いて」
「……なんなんだよ、まったく」
どうせ彼女のことだから、授業中にこっそりネット小説でも読んで感動して泣いてるんだろうとか。
その程度だろうと思っていたがそうじゃなかった。
それに、理由は聞かずとも勝手にネタバレしてくれた。
「しゅうちゃんと話したいのに、お顔見れない……」
だそうだ。
いや、だったら見ろよって言いたいが、そうか見れないのか、と。
……つまりだ。
彼女が連呼するしゅうちゃんとやらが、この俺、
紫月は俺が好きでたまらないそうだ。
いわゆる『好き避け』とやらが、なぜか急に発動してしまったということだ。
「はあ……」
どうして俺の幼馴染はこうも素直でなく、それでいてポンコツなのか。
容姿はいいが、容姿以外はてんでダメなんだよな。
でも、そこが可愛いというかほっとけないから困ったもので。
さて、この困った幼馴染に対して俺はどうしたらいいのかと。
悩んだ末にもう告白してしまえと、ようやく踏ん切りがついたのは放課後になる直前。
両想いなんだから、無理やりにでも呼び出して告白して付き合っちゃえばいいじゃないかと。
そう結論付けるまでに四日もかかるんだから俺も随分拗らせていると思うけど。
近すぎて、改めて話をするのが気恥ずかしいというのはご理解願いたい。
さて、と。
「なあ、紫月」
放課後を告げるチャイムが鳴り終える前に。
俺は振り返って彼女に呼び掛ける。
「……な、なに?」
「話があるんだけど、ちょっといいか?」
さすがに教室で告白するわけにもいかんだろうと、彼女を外に連れ出そうと呼びかけた。
なんかこっちまで緊張してきた。
でも、ずっとこのままってわけにもいかない。
「な、なんで?」
「なんでって……話があるんだよ」
「は、話って?」
「だからそれを今から言うんだろ」
「こ、ここでは言えないこと?」
「……ああ」
ただでさえ紫月は人気者で俺なんて一緒にいるだけで石でも投げられそうなくらいに睨まれるというのにそんな相手に教室で告白なんてできるか。
せめて人のいないところを選ばせてくれ。
「ど、どうしてここでは言えない、の?」
「大事な話だ」
「……やだ」
「……は?」
「き、聞きたくない!」
「お、おい待て」
銀髪の美少女は。
少しヘンテコな女走りで。
全力でその場から逃げて行ってしまった。
「……なんで?」
いや、なんでだろう。
俺は冒頭でいかにも俺だけが彼女を知ってる風に語っていたけど。
本当に今日のことはよくわからないままだった。
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