魔法少女のオヤジ ~娘を守るためと言いつつ、本当は自分が変身したかっただけでした~
あおき りゅうま
第一章 おっさん、魔法少女になる。
第1話 大場湊(40・男性)の秘密……、
商店街の光が薄くなる裏路地————。
《ザルクシックス》という名のバーはそこにひっそりとたたずんでいる。
そして、店主、
フロアの蓄音機から軽快なジャズが流れ、穏やかな空間を演出するのは、湊のこだわりだ。
彼には娘が一人いる。
ずっと男手一つで育ててきた大切な娘だ。
実は、彼には二つの秘密がある。
一つ目、彼は魔法少女の父親だ。
そして、もう一つは置いておいて……、
娘が魔法少女をしていたことを知ったきっかけは一週間前に時間を遡る。
♥ ♥ ♥
大場湊は今年、40歳を迎えた。
娘も中学二年生になり、いわゆる思春期の真っただ中、妻に先立たれ、心細く思っていたが……、
「それじゃあお父さん、行ってきます!」
パンを口にくわえ、あわただしくリビングを出ていくのは
クリっとした目に、流水のような流れる髪、しなやかな手足と私の娘としては少々勿体ない娘で、学校ではさぞモテるだろう……と親馬鹿ではないが、ひそかにそう思っている。
「ふあぁ~……あぁ、車には気を付けなさい」
我慢をしていたのだが、つい気が抜けてあくびが出てしまった。
そんな湊へ、真冬は苦笑する。
「もう、こんな時間まで起きてるからだよ。そりゃあお弁当を作ってくれるのはありがたいけどさ」
真冬はさっき私が作ったばかりのお弁当の入った風呂敷を机の上からとる。
「ああ、たまには真冬においしいハンバーグを作ってあげたいと思ってね。ちょっと気合を入れちゃった」
真冬は嬉しそうに笑ったが、照れなのかプイッとそっぽを向き、
「本当にそれだけぇ……? 最近お父さんよく朝起きてるじゃん」
「えっ……⁉」
湊はビクッと肩を震わせてしまった。
気づかれてはならない、深夜働いて朝に眠るというサイクルを押してまで起き続けていることに気づかれては。
「大丈夫さ……心配かけてすまないね。ただ、真冬が家に帰ってきたら僕は仕事で家を出なければいけないからね。真冬の顔を見ておかないと僕も寂しいのさ」
「いや、別に心配はしてないけど……」
冷静に言われた。
ふと時計を見上げると、もうすぐ八時半になろうとしている。
「そんなことよりも、早く陸上の朝練に行ったらどうだい? 遅刻しそうなんだろ?」
「やっばい! 部長厳しいんだよ! 遅れたらグラウンド百週させられちゃう!行ってきます!」
慌ただしく真冬がリビングを出ていく。
「行ってらっしゃい~! さて……」
廊下を真冬がかけていく音を聞きながら、湊はリモコンを手に取った。
ソファーに深く座り、テレビに向ける。
ついに、時間はぴったり八時半を迎えた。
テレビの電源を———付ける。
『みんな~、あつまれ~! 魔法少女ミラクル・ミライ! はっじまっるよ~!』
オレンジ色の明るい髪の色で、目に星のマークが入った小学六年生の女の子。
彼女はテレビの中からこちらへ向けて話しかけてきていた。
主人公の
「うふ♡」
つい笑い声が漏れてしまった。
「いいなぁ、ミラクル・ミライは……」
画面の向こうでミラクル・ミライへ変身していくバンクシーンを眺めながらしみじみとつぶやいた。
こっそりペン入れにしまわせていた、〝あるアイテム〟を手に取り、スイッチを入れる。
それは眩い光を放ち始めた。
「頑張れ~、ミライ~!」
劇場版ミラクル・ミライの入場者特典のミラクルペンライトを振り、ミライを応援する。
これが彼のもう一つの秘密。
———そう、大場湊は、魔法少女大好きおじさんなのだったのだ。
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