第9話
「今日は東の1区から行くわよ」
と言ってオカンが元気に先陣を切る。
東の1区には、該当者の男性が3人いるらしい。ちなみにオカンのリストには、女性も載っている。それを聞いたらあっけらかんと「雅也さんだったら、男でなくても良いの」と言われた。
オカンの愛が怖い。
驚く事にオヤジを見つける方法は、オカンの勘らしい。
オカンが一目惚れした人=オヤジ。
もう俺には理解が追いつかない。
オヤジ、いるなら早く出てきてくれ。
ちなみに、パーティーに出まくって、貴族の調査は終えたらしい。
18年間、俺のために色々やっていて、オヤジを探してないって言ってたよな?って言うと3倍になって返ってくるから言わなかった。
しかし、王都と言っても東京23区の世田谷区くらいはある。そこそこ広い。
王都は最北端に王城を構え、中央に大聖堂を置く。中央の大聖堂を中心に放射線状に28区に分けられている。東西南北にそれぞれ7区ずつ。その内の北部の4区が王城と大聖堂をつなぐ区域だ。貴族は北の4区に住まいを持つ。オカンのサヴィーニ公爵家も、当然そこに広い邸宅を持つ。
今日は東の1区を探すと言うが、それでも広い。そんな中、どうやって3人の人間を見つけると言うのか。考えるとため息がでる。
「こっちよ!咲夜!!」
前を歩くオカンが手を振る。
「なんでこっちって分かるの?」
「これよ、こ・れ~」
自慢気に見せる懐中時計には、赤い点1個と黄色の点が3個。これは、赤い点はオカン?
「手の者を使って、対象者にマーキングさせたの。なんてったって一時間しかないからね!」
「それって、犯罪……」
「バレなきゃ良いのよ」
「そう言う問題……」
下から睨めつけられた。あ、ヤバい。
「雅也さんが見つからなかったら、私の手の者使ってクーデター起こすわよ!それでも良いの!」
えー、どう言う事ですか!いきなりの過激発言‼︎
「私の組織は日々拡大を続け、他国にも影響を及ぼし始めてるのよ。闇のルートも何本か持ってるわ。あんたを娼館に送りにする事も可能よ。私は本気よ。さぁ、あんたはどうすんの?娼館行くの?雅也さんを探すの?」
なんでオヤジを探すか、娼館かって話になってんの。クーデターどこ行った⁉︎と言うか、まだ言うか娼館ネタ。
「あ、はい。オヤジを探します」
相変わらず選択肢がない!これ実質、一択だよね?
「だったらこの位の事でウジウジ言わないの!ったく、みみっちいわね」
髪を掻き上げながら、盛大なため息をつくオカン。その姿は公爵令嬢とかけ離れている。
(俺が悪いのかなぁ)
父上にエヴァンジェリーナ嬢との歓談時間を、増やしても良いと言われた。時間が足りないだろう、っとボソっと言われた。
この国は処女性を重視しているわけではない。婚前交渉もありだ。魔法で避妊も完璧にできる。そう言う意図だと言う事は分かっている。そして、これをオカンに言うと、チャンスとばかりに捜索時間を伸ばすだろうと言う事も、分かっている。だから言わない。
しかしオカンは分かってるのか。オカンが毎日、俺の色の艶めかしいドレスを着て来城する事により、周りがそういう目で見てるという事を。自分から段々、埋められに行っている事を。
「そう言えば、3ヶ月後に私達の誕生日パーティーがあるじゃない?ファーストダンスを踊るように言われたからさ。咲夜、あんた私にドレス贈ってよ」
「母上に言われて用意してるよ。後ろの裾がすごく長いマーメイドラインのドレスだけど、平気?母上のお抱えのデザイナーがデザイン画持って来てさ。母上がこれが良いわ~ってはしゃいでた」
今世の母上は、オカンと違ってかわいい。ドレスのデザイン画を二人で見たが、一枚一枚を丁寧に解説してくれた。細い美しい指を重ね、口の前で合わせる仕草にクラクラする。下からニッコリ笑う姿は、美しくて、かわいくて、比護欲掻き立てられて、これで、40歳って嘘だろう⁉︎って思ってしまう。
「王妃様のデザイナーか。じゃあ安心ね。私もあんたに服を贈るから。ちゃんと着てよね!しかしアレね。ちょっとヤリすぎたわね。完全に外堀から埋められて行ってるわ。この間はお父様から、行儀見習いで城に住む事も可能だって言われた~」
マジで?公爵が?あんなに娘が大事な感じだったのに?と、言うか嫌だ!そうなったら、夜まで借り出される‼︎
「断ったけどね。でも20歳になったら結婚だって言われた。ヤバいね~。あと一年以内に雅也さん見付けないと」
「オカンさぁ、オヤジが見つからなかったら、どうすんの?俺、オカンと結婚なんて嫌だよ」
「そしたら、雅也さんを探す旅に出るわ。その為の資金も潤沢だしね。さっき言った組織だってあるし。だから安心しなさい」
(組織って何?もう、本当にヤダ)
「だから、あんたも早く良い人見つけなさい。次の誕生日パーティーとかで良い子が見つかると良いわね~。ロッセリーニ公爵の次女なんてお薦めよ。大きい胸、お尻も大きい、安産型よ。顔は私には負けるけど」
「アリガト、次のパーティーで見てみるよ」
引きつる笑顔。現世の母との違いがひどい。これが元母親の言う事かと思うと、頭が痛くなる。もう、何を言っても無駄だ。
「いたわよ!一人目!話しかけに行くわよ。付いてきなさい。咲夜」
オカンが指差す先にいるのは、小麦の大袋を魔法で運ぶ男。あれはオヤジかな?違うんじゃないかな。魔力量、かなり少ないけど。
「この認識阻害の魔法って、私達を感知できなくしてるのよね?姿を変える魔法ってないの?」
「変わってるよ。周りには、平凡な男女に見えてるはずだよ」
「つまり、モブになってるって事ね。あんたの魔法って便利よね」
ぼーっとしてる内に、オカンはターゲットに話しかける。やっぱり違うみたいだな。オカンの目が冷ややかだ。これは時間がかかりそうだ。
しかし、ノリノリなオカンには悪いが、正直、効率の悪さが気になる。
猪突猛進、思い立ったが吉日のオカンらしい策だが、他に良い方法はないものか……。
考えあぐねてると、後ろに誰かがぶつかった。
「あ、ごめんなさい。あ、違、、申し訳ございません」
俺にぶつかった子供は、その勢いのまま転けた。
「こちらこそ、申し訳ない」
助け起こそうと手を差し伸べる。
差し伸べた手は、受け取ってもらえなかった。
立ち上がった子供を見る。随分と痩せた子だ。服はボロボロだ。穴の開いた服を上から当て布している。当て布は元の洋服と生地も色も違う。
頬はこけ、手足は鶏ガラの様だ。髪も何日洗ってないのだろう。ゴワゴワになった髪には、フケがいっぱい溜まってる。
貧民街がないのが、王都の自慢だったはずだが、どうなっているのか。
「君はどこの子なの?両親はいるのかな?」
膝を折り、目線を合わせる。
綺麗な緑の瞳をしている子だ。
モジモジしている手を取る。
「責めてる訳じゃないよ。ただ、知りたいだけなんだ。ご飯は食べれてる?」
9歳か10歳くらいだろうか。栄養が行き届いていないのだろう。爪がボロボロだ。指もかさついている。
「あ、私、その・・・」
「誰?その子?」
オカンが戻って来て覗き込む。ニッコリ笑い、子供と同じ高さになる。
「私とも握手してくれる?」
「あ、、無理です。こんな私が、こんなきれいな人達と‼︎」
振り切られる手。
ごめんなさいと謝りながら駆けて行く。早い。思ったより元気そうだ。
「ネグレクトかしら?ひどいもんね」
「うん、まだあんな子がいるなんて」
「全てを把握するなんて無理よ。神じゃないんだから」
「……うん」
「落ち込まないの!次、行くわよ。次!そんで定期的にこの辺には来ましょう!携帯食と栄養剤を用意しておくから」
俺の背中を強く叩くオカン。オカンも気になるんだね。
なぜだろう。手を離しちゃいけなかった気がする。俺の大事な国民。不幸な子供だからだろうか。それとも。
言い知れぬ喪失感と共に、俺は次のターゲットへと向かった。
◇◇◇
「今日はダメだったわね」
ソファに足を投げ出し、ため息を吐くオカン。
「すぐに発見するのは無理だって、分かってたんじゃないの?」
俺はマントと上着を脱ぎ、ソファに掛ける。
俺達は王城へ帰って来た。今日会った3人はオカン曰く、違うらしい。
「そうだ、オカン。明日は付き合えないから」
「え?なんで」
「今朝、連絡が来たんだけど、明日大聖堂から呼ばれてさ。神託が降りるらしいよ」
神託は不定期に降りる神の言葉だ。
受けることができるのは、教皇と聖剣ヴィアラッテアの持ち主。つまり俺。
聖剣の主である俺は、教皇よりも強く受信できる。
神託が降りる時には前兆がある。大聖堂の中央にある水晶柱が輝き出すのだ。
「神託受けると動けなくなるから、明後日もヤバいかも……ってなに?その顔?」
オカンが鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしてる。
「バチモン……
「じゃないよ‼︎」
オカンの声を遮る。罰当たりにも程がある。
聖剣ヴィアラッテアに選ばれてから、俺は何度か神託を受けている。だいたいが自然災害の予知だ。判っていれば事前に準備できる。その為、神託を受けるのは最優先事項だ。
「私も行く!行きたーい」
手を上げるオカン。まるで買い物に行くかの様なのノリだ。
「面白くもないよ」
「良いじゃん。行きたい。見たーい。部外者はダメなの?」
「いや、対外的には、オカンは婚約者だから大丈夫だと思うけど。両親も一緒に行くし」
「じゃあ、お妃様に頼んでみる!」
目がキラキラしてる。
あぁ、外堀がどんどん埋まる原因の一つは、内から無自覚に援護するオカンのせいだ。
結果、オカンの願いは叶えられる。
節目がちに目を潤ませ、
「アダル様が心配なんです。神託を受けるとお倒れになると伺いました。そんな状態のアダル様の側にいられないなんて、考えられませんわ。考えるだけで気が狂いそうです。どうかお願い申し上げます。わたくしも、お連れくださいませ。どうか!」
オカンの渾身の演技が炸裂し、人の良い母上は涙を拭きながら、了承した。
オカンのベロが出てたのを見たのは、たぶん俺だけだろう。
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