第9話 捕まる、そして捕まえようとする話
「ま、まさか本当に隕石を呼ぶ能力があるとは......」
「隕石を呼ぶ能力じゃなくて確率を操作する能力だよ、貴族クン」
圧勝。というよりやり過ぎた。店を半分吹き飛ばしてしまったし、もしかしてやばい?
「確かにお前は強い......だがこれから憲兵がお前らを捕まえに来るだろう」
「嘘っ!? やっぱり?」
「でもエニーなら逃げられるっしょ?」
「エミリー......それはそう!」
「ふん、簡単に逃げられると思うなよ......」
「あ、そういえば土下座をしてもらうのを忘れてた」
「くっ......だが男に二言は無い」
「えへへ〜それじゃあまず正座して〜」
「こう......か?」
「次に手をこうして〜」
「......」
「最後に頭をさげる」
「くそッ......」
あ〜、たまらんっ!
調子に乗ってた奴を屈服させるのがここまで気持ちいいとは!
「さーて、帰ろうかな」
「ん? なんか騒がしくない?」
確かに、エミリーの言う通り辺りが騒がしい。軍靴の音が聞こえるような......。
「動くなっ!!」
「!?」
いつの間にかやってきた憲兵たちに包囲されてしまった。しかも人数が相当多い。200人とかもっといる感じ?
「お前たちは国家反逆罪の容疑がかけられている!!! 大人しく投降しろ!!!」
YABE、もう来たの!?
「隕石を呼び寄せ貴族らを殺害しようとした罪は大きい! 今すぐ武器を捨てて手を上げろ!!!」
こう囲まれて銃を突きつけられるともう何も出来ない。仕方がないので大人しく手を挙げる。
「よーし、そのままでいろ!」
こうして私たちは拘束され地下牢に入れられてしまった。
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「出してください〜」
「ダメだ」
看守が冷たく答える。
「私たちこれからどうなるんですかぁ〜」
「まずは3日間ここに居てもらう。その後裁判を受けることとなるだろう」
「ひどい〜こんな薄暗くて汚いところにいられません〜」
「黙ってろ」
「ぐう」
こんなところでは隕石を呼んだら建物が崩壊して圧死しそうだし、虹の剣も取り上げられた今の私は無力だ。
「てかあなたずっとここで見張ってるんですか?」
「看守だからな」
「え〜」
「だ、大丈夫ですよきっとすぐに出れますって」
「ロックきゅ〜ん」
「そこイチャつくな」
「えーカーマイン冷たい〜」
「元はと言えばアンタのせいでしょ」
「だって〜貴族がぁ〜」
「それは......わかるけど......」
「それよりカーマインさんはどうして貴族を嫌ってるんでしたっけ?」
「私のお母さん......ルビー・フレシャから聞いた話だけど......」
〜ちょっと長くなるので私エニーが読者に向けて説明する〜
《ルビー・フレシャ》 は、貴族の護衛などを勤めていたエディター。聞いた話だと実はルビーさんの代では既にフレシャ家は貴族グループから追放されていたみたいだけど、ギルドでの活躍ぶりを見た若手貴族がスカウトして貴族グループに復帰していたみたい。
それでしばらくは護衛任務に当たっていたんだけど、ルビーさんは貴族がやたら魔物に狙われることに気づいたみたい。
一部の高等な魔物は人間と会話が出来るみたいなんだけど、どうやらルビーは魔王の側近である魔物と接触したことがあるみたい。
あ、魔王ってのは全ての魔物の長とされる存在のことらしい。全ての人間の創造主である女神と対になる存在......と、聖書に書かれている。
魔王っていうとRPGの魔王が思い浮かぶけど、この世界の魔王は謎が多い。表にはもちろん出てこないし、なんなら侵略とかもされていない。年々魔物は増加傾向らしいんだけど、それぞれ独立して活動をしているみたい。
話を戻すけど、ルビーは魔王の側近から貴族が重大な秘密を握っていることを聞いたらしい。内容は【炎の鍵】についてらしい。
そしてその情報を持っている貴族を失職させたり、情報となる資料を燃やしたりしていたら貴族グループを追放されたとか。
〜〜
「その炎の鍵って何?」
「平たく言えば魔法よ」
「魔法ってエディットのこと?」
「炎の鍵はエディットを複合して発生させる魔法らしいわ、複合エディットとも」
「?」
「私も正確には知らないわよ。でも太古には炎の鍵を発動させたエディター集団がいたのは事実らしいわよ」
「で、炎の鍵を発動させるとどうなるの?」
「何でも異世界への扉を開くことが出来るって」
「えっ!?」
いい、異世界!?
「異世界ってのは、読んで字の如くこことは異なる世界ってことらしいわ」
「そ、そんなこと本当に出来るのかなぁ」
「まあ確かにこんなエディットを使える人は見たことないけど」
「複合エディットというのも聞いたことがないですね......」
そうなのか。まあSランクエディターは現在世界にふたりしかいない。私レベルのエディターがもう5人ぐらい入れば出来そうな気もしなくはないが、簡単には再現出来ない感はある。
「で、異世界への門を開いた後はどうなったのさ?」
「この辺りは私も詳しく知らないんだけど、どうやらそれが引き金で人類は滅びかけたらしいわよ」
う〜ん。転生してからようやくまともな情報にありつけた感はあるけど、ちょっとまだ遠くの話感が否めない。現実的な次の一手は魔王の側近を探すことだろうか。
この後炎の鍵について色々考察してみたものの、どれも推測の域を出ず。
夜になったので寝ることにした。
—-------
「はぁ......」
「寝ないんですか?」
「寝れないの!」
「そ、そうですよね......すみません......」
「あ、いやこっちこそごめん......」
「ちょっとエニーとロックうるしゃい......ぐぅ......」
寝ているカーマインを起こしそうになってしまった。申し訳ねぇ。小声で話そう。
「エニーさんってちゃんと主張するタイプですよね」
「まあね」
「ボクってあんまり主張が得意じゃなくて......エニーさんが羨ましいなって」
「いやいや、私はあんまり参考にしない方が良いって......今日もやりすぎてみんなに迷惑かけちゃたし......」
「ボクの両親が既に亡くなってるのはもう話したよね?」
「あ、うん......」
そう言えば出会って最初の頃に、ロック君に何故家に両親がいないのかを聞いたところ既に亡くなっているとのことだった。ただ理由までは聞いていない。
「実は、父も母も冒険者だったんだ」
「うん」
「ある日、ボクはどうしても買ってほしいイヤリングがあってそれをねだったんだ」
「うん」
「それはちょっと高くて、今の貯金じゃ手が届かないものだった」
「結構する?」
「50万モカぐらいだったかな」
「うぉお......なかなかのお値段」
「両親はそのイヤリングを購入するために、連日クエストを受けていた」
両親は総合Bランクの能力があったという。Bランクならそれくらい稼ぐのに半年を丸々費やす必要はあるかな。
「ボロボロになって帰ってきた日も少なくなかったよ。それでもイヤリングが欲しかったというのと、両親が大丈夫って言うからなかなかボクは止める勇気が出なかった」
「......」
「そんなある日、とうとうクエストを受けている途中に魔物に襲われてしまうんだ」
「その魔物って......」
「《ニャダル》 という超強力な魔物だったらしい。宝石と貴族を狙うとされているけど詳細はわからない」
「そうなんだ......」
「......」
「......」
沈黙が気まずい。
「それで、どうしたら自己主張って出来るのかなって......」
「ええと......」
「......」
こっちをしっかりとみているロック君。しっかり見てるんだけどどこか弱々しさもあり、それでも何とか折れないように踏みとどまろうとする意志を感じる。
「......」
「ねぇ、ボクはどうしたら......」
「それは......」
「!?」
私はそっとロック君に近づいてキスをした。ロック君のは、私より温かみがあった。
「んっ......」
ちょっともったいないけど、今は少しだけ触れて唇を離した。
「ななな、何を!?」
「しぃ、カーマインとエミリーがおきちゃう」
「そうですけど......」
ぐ......照れ顔がエロ過ぎる......すぐに離れて正解だった。危ない危ない。
「ま、まぁこんな感じですれば良いから......」
「こんなの真似できないですよ......」
「別に全部真似しなくても......ロック君にはロック君の良さがあるから......」
「は、はい......」
「それじゃ、おやすみ......」
「おやすみなさい......」
この後は言うまでもなく寝れなかった。
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