異世界転生させ屋
しえり
第1話 転生の依頼
俺の名はジオ。そこらの学生や突然死をしたリーマン、それから老衰した爺さんや婆さんを転生させるのが仕事だ。
「今日は何の用だ、アーリン」
世界のどこかにある無駄に広い真っ白な空間。材質不明の建材が用いられた壮麗な建造物は、どこかオリンポスの遺跡を思い出させる。
その中央に佇むのが今回の依頼人、いや依頼神だ。
「毎度のことだけど、格好つけるわね、あなた」
流石に神なだけあって、クラクラするような美貌だ。少し垂れた目に愛嬌のある鼻、唇はわずかに厚く、ぬれている。
女神アーリンは俺のお得意様だ。もちろん、仕事上の付き合いしかない。
「格好つけてなんかいないさ。俺はいつでも格好いい」
「それはそのよれたコートが? それともオールバック? もしかして中古で買った安全靴のことじゃないでしょうね」
「うるせえな。シャツにも触れろ、六千九百円の一張羅だぞ」
「淡いブルーがかわいそうなくらい汚れているわね」
ケラケラ笑う彼女から視線を外す。いちいち仕草が艶かしい。
「要件はなんだ」
「あ、そうだったそうだった。今回は
「なぜ」
「優しい子でね、道路に猫が飛び出しちゃってそれを助けるのよ」
「なるほど。送り先は」
「テラシルよ。あそこは帝国と共和国との戦争が近いし、面白くなりそうじゃない?」
人の命をなんだと思ってんだか。神様ってのは恐ろしいが、それを食い物にしている俺も俺だ。
「運命は変えなくていいんだな。猫と事故、他に条件は」
「遺族や友人たちの記憶は全部消して欲しいの。悲しみは少ない方がいいから」
「それは、カナタのを? それとも」
「カナタちゃんはそのままでいいわ。家族や友達を思っての涙なんかもみたいし」
さすがは傲慢の神アーリン。見たいものを見るってのは、人間臭いともいえるが、やることがえげつない。
「そうだジオ。報酬はどうするの? また魔術でいいのかしら」
「ああ。それでいい」
「物好きな人ね。お金とか永遠の命とか、そういうものにすればいいのに。そろそろあなたに教えられる魔術も少なくなってきたわ」
「はっはっは。修羅場をくぐるには、魔術が一番役に立つのさ。命が無限だと、考えも体も鈍るからな」
「そんなもんかしら」
神にはわからないだろうが、俺は幾度となくそういう連中に出会ってきた。とはいえ本物の不老不死ではなかったがそれに近い何かであり、大抵は頭がぼやけているようなのばかりだった。
「じゃあ行ってくる」
手をかざし異空間への通路を作る。くぐればそこは別世界である。
「気をつけてねー」
「おう」
そうして俺は異世界に降り立つ。ここから転生させ屋の仕事が始まるんだ。
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