脳死短編集
芥子川(けしかわ)
偽りの勇者
「お前は勇者などでは無い! お前は…..ただの偽物だ!」
「うるさい、黙れぇええ!!」
怒りに身を任せ、再び剣を振った。
だが、今度は俺が剣を振るよりも早く奴が動いた。
奴は懐からナイフを取り出し、自分の首元に突き立てた。そしてそのまま躊躇なく切り裂いたのだ。
その光景を見た俺は、全身の血が凍りつくような感覚を覚えた。
奴の首からは血が流れ出ている。
それでもなお、奴は俺を殺そうとしている。
「ハッハッハ! ニセ勇者のドゥルドゥルニャーバガスンよ…..貴様はここで死ぬんだ」
そう言うと、奴は再び剣を振りかざした。
しかしその時だった。
突如として現れた炎の壁によって、その攻撃を防いだ。
「なっ!?」
それは間違いなく魔法によるものだった。こんな強力な魔力を持っている人間は一人しかいない。
「待たせたわね、レイちゃん」
そこには美しい女性の姿があった。
彼女はいつも通り余裕のある表情で笑みを浮かべていた。
「遅いぞ、ルリア」
俺の言葉を聞いた瞬間、奴の目に動揺の色が現れた。
まさかこの状況で援軍が来るとは思っていなかったようだ。
奴の顔には明らかな焦りが見える。
「おや? 随分と面白い状況になっているじゃないですか」
さらにそこへもう1人、男の声が聞こえてきた。
「
彼はいつものように微笑んでいる。
「さて、どうしましょうか?」
田吾作は俺たちの方を見て問いかけてくる。
そんな彼に、俺は答える。
「こうなったら呼べるだけ呼ぼう」
俺は召喚魔法を使った。すると、次々と仲間達が集まってきた。
まず最初にやって来たのはラクルス村の村長であるアルヴィンさんとその娘のサーシャだ。
「大丈夫かい? レイ君」
「はい、何とか間に合いましたね」
「本当にありがとうございます」
二人は安堵した様子で俺に礼を言う。
それからすぐにロナも駆けつけて来た。
「遅くなってごめんなさい。でも、もう安心していいわよ」
ロナは笑顔で言った。
そして、最後に来たのはコボルト族の族長にして戦士のオーガロード・コボルドキングことポチだ。
「お呼びでしょうかワン?」
彼は嬉しそうな顔をしながらやってきた。
ちなみに今さらではあるが、彼に対して『わん』という語尾を付けるようにお願いしたのは俺ではなく、ロナの提案だ。なんでも『犬だから』という理由で可愛らしいからという理由らしい。正直よく分からないが、本人がそれで良いなら別に構わないだろうと思っている。
「ああ、来てくれて助かったぜ。実は――」
俺は事の経緯を説明した。
それを聞いてコボルド達は納得してくれたようで、それぞれ武器を構えて臨戦態勢に入った。
一方、ドゥルーワも流石にこの状況はまずいと悟ったのか、撤退しようとしていた。
だが、それを見逃すほど甘くはない。
「逃がすか!」
俺はすぐさま追いかけようとしたが、そこでロナが待ったをかけた。
「待ちなさい。私に任せてちょうだい」
彼女はそう言って一歩前に出ると、右手を前に出した。
次の瞬間、俺のブレスレットが輝き500人程召喚された。その内訳は全て女性だった。
「お前たち、あの馬鹿王子を拘束するわよ」
そう言うと、女性陣たちは一斉に動き出し、ドゥルーワを取り囲んだ。
そして一斉に攻撃魔法を放った。
「ぐわぁあああ!!」
彼女の放った火球や水弾などの攻撃により、ドゥルーワは大きく吹き飛ばされた。
「なっ!? 何故貴様らがここにいる!?」
突然の出来事に驚きながらも、必死に逃げ出そうとしている。
すると、俺の左指にはめた宝石が輝き5億人くらい召喚された。
恐らくこの世界だけでなく別の世界からも召喚されてるだろう。つまり俺の仲間はこの世界に5億507人いることになる。
「よし! 全員突撃だ!」
俺の指示を受けた仲間たちはそれぞれ攻撃を仕掛けていった。
最初は混乱していたドゥルーワだったが、すぐに状況を理解したらしく、剣を抜いて応戦し始めた。しかし多勢に無勢、次第に追い詰められていく。
「くそぉおお!! どうしてだ! 何でこんなことになったんだよ!?」
奴は泣きながら叫んだ。
そんな奴に向かって俺は言い放つ。
「お前みたいなクズがいるからだよ」
「なんだと……」
「確かにお前は勇者ではないかもしれない。だけど、この国の民にとっては紛れもない本物だったはずだ。なのに……お前はそれを汚した」
「うるさい! 黙れぇええ!!」
奴は再び剣を振り回したが、今度は誰も傷つかなかった。
代わりに奴の動きが止まった。その隙に俺は奴の後ろに回り込み、首元に手刀を叩き込んだ。奴はそのまま気絶した。
「ふう……これで終わりか」
こうして、俺の復讐は終わった。
5億507人の仲間と共に勝どきを挙げた。俺の復讐が終わったあとは、すぐに後始末が始まった。
まずは奴の死体の処理だ。このまま放置しておくわけにはいかないからね。腐るし。
「おい、そこの者」
俺がドゥルーワの死体を眺めていると、後ろから声をかけられた。振り返るとそこには一人の老人がいた。
「はい? なんでしょう?」
「お主のおかげで我が国の未来が救われた。感謝する」
どうやら国王陛下からのようだ。
「いえ、当然のことをしたまでです」
国王は頷くと、周りを見渡し俺の耳元で囁いた。
「しかし…この大人数どうするつもりかね?」
「あー、まあなんとかしますよ」
俺は苦笑いを浮かべつつ答えた。
それからしばらくすると、城から大量の兵士や騎士たちがやってきた。彼らは俺の姿を見て驚いた様子だった。
「まさか……ドゥルニャーバガスン殿ですか?」「はい、そうですよ」
「一体どうやってここへ?」
「ああ、それはですね……」
俺は事情を説明した。すると、兵士達は涙を流し始めた。
「まさか貴方のような方が我々のためにここまでしてくれるとは……本当にありがとうございます」
そして彼らも周りを見渡すと俺に言った。
「国民が一気に増えましたね…徴税も復興も捗りそうだ」
それからしばらくして、ドゥルーワの部下たちも到着した。
「申し訳ありません。ドゥルーワ王子の命令とはいえ、このようなことをしてしまって」
部下たちは深々と頭を下げて謝ってきた。
「いいんですよ。もう済んだことですし、それにあなた達も被害者なのでしょう?」
「はい、我々は騙されていたのです」
「そうですか…」
俺が彼らに労いの言葉をかけようとしたが、恐らく異世界から召喚されたであろう部族たちが放った矢が彼らを矢ぶすまに変え、見たこともない肉食動物が彼らの肉を生で貪り食った。
因果報応というやつだろうか? 結局、俺は誰一人救えなかった。
「さようなら……」
俺は小さく呟き、その場を去った。
終わり。
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