桜パラソル

@ramia294

第1話

 お買い物には、ポイントが。

 こんな小さな田舎町にも、ポイントがあります。

 その名も鹿ポイント。

 シカせんべい一枚につき、1ポイント。

 ポイントが、1万ポイントに達すると、鹿園ろくえんツアーに、参加出来ます。

 楽園ではなく、鹿園です。


 春。

 満月の夜、行われるこのツアーに参加出来るのは、10名です。

 一万ポイントを持つ人は、もっとたくさんいます。

 いや、いるはずです。

 しかし、そのツアーに呼ばれる人数は、10名と決まっています。


 ツアーでは、シカのつののついた帽子をかぶります。

 これで、シカさんと会話が出来ます。

 シカさんたちの言葉が、分かります。

 

 帽子を被って、シカせんべいを空中へ放りあげます。すると、スキーとスキーストックに早変わり。

 もちろん、僕たちは、オシャレなスキーウェア姿に、いつの間にか変わっています。


 不思議な力を持つシカの角帽子。

 10個しかありません。なので、10人ご招待です。


 ツアー会場では、シカせんべい、ヨモギ餅、ポン菓子、きな粉たっぷりお団子の食べ放題の他、大和茶や鹿サイダー飲み放題になっています。

 もちろん、大人の方には、奈良のお酒に奈良漬、柿の葉寿司など、たくさん用意されています。

 ツアーが行われる合図は、シカ寄せラッパ。

 ただし、吹くのは、シカさんたちです。


 ラッパが吹かれると、散り始めた桜の花ビラが空に舞いあがり、周囲に広がっていきます。

 やがて、古都の空は、三笠山を頂上とする、広大な桜の花びらスキー場に早変わり。


 雪ではなく、花びら。

 薄桃色のゲレンデ。

 ターンのたびに舞い踊る花びら。

 浅い春の夜のひととき。

 春の喜び、いっぱいの、古い、古い都。

 歴史だけは、豊富にあります。

 この町の春のイベント。


 この夜だけは、お月さまも昔なじみのこの町のため、いつも以上に光ります。

 この日、この町、この時間。

 地上から見上げる空は、桜色。

 お月さまの頑張りで、町の皆さんにもお空を見上げる夜桜見物。

 桜色の大きな、大きなパラソルが、一本ひとつ

 町の空、全てを覆って開きます。

 僕たちの町だけの秘密の夜桜見物。

 シカさんは、神さまのお使い。

 これくらいは、朝飯前。


 ツアーまでの数時間。

 僕たちは、思い、思いに滑ります。


 一緒に滑る仲間たち。

 華麗に滑るのは、萩ヶ丘はぎがおか睦美むつみさん。

 僕の名前は、鹿野薗かのぞのたくみです。




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