造花であった者

三富士 三二

第1話 -前書きのようなもの-

 


 そういえば、物語というものは後書きに作者が現れることは多々ありますが、前書きに作者が登場するということは少ないように思います。と言っても体感半々ぐらいでしょうか? まあ、世界観を壊してしまうからかもしれませんね。他にも理由があるのでしょうが、私には検討もつきません。しかし、創作物という物は自由であり、作者が前書きとして現れても特に問題はないでしょう。

 そもそも、これは私の人生に似せて書き上げた物語ですし、そんな細かなことは気なしなくていいでしょう。

 私の思いのままに綴るとします。

 なぜならこれは私のある種の日記であり、伝記であり、自叙伝のようなものだから。




「我々は正しい歴史をほんのひと握りしか知らない。


 それは真実を認めたくない過去の偉人たちの行いによって隠されてしまったからだ。


 今、我々が真実だと思っている歴史は偽りであり、虚像であり、偽造されたものなのだ」




 byアイセア・カーチス




 『偽りだらけの人類史』より引用






 -終幕-






 長い悲しみが苦難が続いていました。


 しかし、今日この時、2人の少女によってその悲劇に終止符が打たれたのです。

  一筋の光が天貫いていきます。この光がどれぐらい高さまで届いているかは、光の筋の真ん中にいる私たちには分かりません。だけど、確実にその光は天高く伸びていて、その中を私たちは落ちています。風を体全身で感じれるほどの速さで落ちて行きます。次々と雲が通りすぎていきます。

 彼女と手を繋ぎました。同時に彼女と目が合います。

「ねえアリー、この後どうする?」

「あなたの好きなようにしていいですよ」と、一言、それを聞いて彼女はこう返えします。

「じゃあ、私の好きなようにさせてもらうよ」

 いつも通りの私の答えを聞けて彼女はとても嬉しそうでした。

 満面の笑みです。いつもはクールでかっこいい彼女ですが、これが彼女の本当の姿。裏の顔。私にだけ見せてくれる特別な表情。いつもの彼女のいたいけで少しっ子供っぽい可愛らしい笑顔でした。

「えぇ、私はあなたについて行きますよ」

 私たちは光の柱の中で少し長めの接吻をしました。


 -開幕-


 私の名前はアリシア・フォン・バルクホルン。

 訳あって、こことは違う世界から前世の記憶を持って転生してしまったようです。正確に言えば幼少期に前世の記憶を取り戻すタイプの方ですね。この世界では私は貴族の生まれで裕福な家庭で育ち。ある日、魔法というものに出会い心奪われ魅了されたのです。今世でのお父様は魔法に精通していて、その力を借りて長いこと魔法に関する知識をつけていました。気づけばこの世界に生まれ落ちて長い時が流れていて、思えば色々なことがありました。

 本来であれば大事な話であり、転生後から物語は綴るべきだとは思いますが、幼少期の話は正直長いので端折ります。ここまでの物語はまた別の時にでも綴らせていただきます。

 物語のスタートは、私が親元を離れ念願の国立ホルー・ド・シャークリス魔術総学院に入学してから始まります。

 私はこの世界へ来て、前世にはない魔術というものがあることを知りました。前世に魔法なんてものは無く正直驚きました。そんな魔法に興味を持たない訳がなく存在を知った次の日からお父様に頼み込み、助けを借りて猛特訓して魔術を習得しようとしました。そんなこんなで数年たった今、私は魔術を中心に学ぶ学院へ入学することが出来ました。大好きな魔法を8年間も学ぶことが出来る。そう考えるだけで私は幸せでいっぱいです。ワクワク、ドキドキが止まりません。

「大きい......」

 私を出迎えたのは学校で一番最初に目にするもの、正門です。

 前世では鋼鉄製の無骨な物で、気品さの欠片も感じられないものでした。ですが、この学校の門と来たら全体が金ピカすぎて眩しいです。

「コホン。お嬢様?」

 見とれている私にシルが声をかけられました。数年前からお世話になっているメイドさんです。

「ごめんなさい。ちょっとこの門に見とれてしまって」

「確かに美しい門ですが、王立学院のほとんどはこういった門だと思います」

 王立学院。要は前世で言う国立の学校ってこと。なのでお金がたっぷりあるわけですね。そりゃあこういった装飾品にも力が入っているわけです。

「ですが、お嬢様のその学院服。この門に見劣りしないほど、大変お似合いです」

「もう、シルったら。そのくだり、道中何度も聞いたわよ。恥ずかしいからやめてちょうだい」

 実な話、宿場から車を使いここまで来たのだが、その間シルによる。「お似合いです。お嬢様」というセリフを何度聞いただろうか。確かにこの制服。上下とも紺色のブレザータイプで、スカートは膝下ぐらい。学校指定の白色ニーハイソックス。袖には赤いラインが入っていて、襟には白のネックバンドと呼ばれるものがある。そう、普通に可愛いのですよ。

「ですが、心配です。お嬢様とは当分会うことは無いでしょうから、ちゃんと学園で生活ができていけるかどうか」

「失礼な、ちゃんとできますぅ。自分の身の回りのことぐらいできますぅ」

 シルは相変わらずの心配症でした。

「でも、シルは当分この街にいるんじゃないの?」

「はい。当分というよりお嬢様が学院にいる間、この街に滞在しているよう旦那様から申しつかっております」

「なら、その間に観光や息抜きもできるわね」

「そうも行きません。これは遊びではなく、わたくしめの仕事にございます」

 真面目だ。すっごく真面目だ。やっぱりシルは真面目すぎる。けどコン詰めすぎないようにして欲しい。

 そうだ、これならどうだろうか。

「なら、私からの頼みを聞いてくれないかしら」

「ええ、お嬢様なんなりと」

「じゃあ、シルあなたは街を散策しなさい」

「えっと、それはどう言うことでしょうか?」

「そのままの意味よ。難しい話では無いでしょ」

 シルがちょっと困った顔をしてます。可愛いです。

「ですが、私は仕事としてこの街に滞在するんです。遊ぶわけではないのですよ」

 そうですよねシルならそう言いますよね、それはもう予想済みです。なら、これでどうでしょうか?

「なら、次会う時にこの街を案内してください」

「案内ですか?」

「はい、私とあなたが楽しめるように。この街の観光案内をして欲しいわ」

 少しあっけに取られていました。これは勝ちですね。

「やはり、お嬢様には勝てませんね。承知しました。不肖シル・フランク・フォードお嬢様に完璧な観光ガイドをお届けできるように致します」

「ダメダメ、私とあなた両方が楽しめる観光を用意するの」

「しまった」というシルの顔を見て、ついつい笑ってしまいました。それにつられてシルも笑っていました。

 その後、シルに別れを告げて私は意気揚々と校舎へ向けて歩みを進めました。

 やはり国立の学院。正面の門も然さる事乍ら、やはり学院内の装飾品はとても豪勢でした。

 眩しくて目が痛いぐらいです。と言っても絵画や芸術品には一切興味がないので これらにどう言った価値があるのかなんて、さっぱり分かりません。

 実家にいる時に叔母様から、芸術品の見分け方的なものを習ったはずなのですが。私にはまだ早すぎたのです。

 学院に来てまず目指す場所それは、講義堂だ。多分、入学式をするのだろう。

 しかし、学院内は広くひとつの街ぐらいあるんじゃないかと思うほどだ。迷子になりそうです。そのため学院の先輩たちや、先生が新入生である私たちを先導するようにしてくれています。というか、だいぶ歩いたのですがまだつかないんですかね? そう考えている間に、講義堂に到着しました。

 講義堂は既にたくさんの生徒達に埋め尽くされていた。全校生徒が1万を優に超えるマンモス校です。ですが講義堂とは言うものの、前世で行った大学のキャンパスの時に見たものとは大きく違っていて。どちらかと言うとオペラや合奏などで使われる舞台のような、コンサートホールのような感じです。

 ここで私、あることに気がつきました。

 ここは異世界です。

 そして、ここには学院の全校生徒が集まっています。

 さっきも言いましたが1万人を超える生徒がここには居るのです。あれを見ることが出来るはずです。ですが、異世界に行けばよく見る感じの人々がいません。

「髪が......、カラフルじゃない」

 そうです。ここに居る皆さんの髪色が、赤や緑、紫に水色などのカラフルな色ではなく。茶色に黒、金髪ばかりです。「異世界と言えば」みたいな髪の色をした人はいません。ある意味カルチャーショック的なあれを感じました。

 講義堂は賑やかだ。おそらく旧友や、同じ学び舎を出た友達なんかと話しているのだろう。しかし、私周りには顔を見知った人は1人たりともいませんでした。まあ半ば隠居生活をしていたようなものなので至極当たり前な話です。当然周りの人に声をかける勇気はなく、結局黙りこくってぼんやりしていました。

 その時、講義堂全体が薄暗くなる。それと共に賑やかだったこの場が一瞬で沈黙へ変わる。

 壇上にスポットライトが当てられる。スポットライトの当たる先には、この学院の後期生の制服を着た男の人が立っていました。

「初めまして。僕はこの学院の生徒委員長をしている、ウィリアム・ジョンソンだよろしく」

「「きゃぁー-!」」

 私には刺さりませんでしたが、大半の女子生徒には刺さったようです。なんかナルシスト感がするのですが、講義堂全体が黄色い声に包まれます。遠くからは名前を叫ぶ人までいますよ。すごく人気があるようで、ファンクラブとかありそうですね。

 盛り上がる講義堂に満足したのか、生徒委員長ことウィリアム・ジョンソンさんは全体に対して宥めるようなジェスチャーをしました。

 その仕草ひとつで講義堂全体が静まり返る。なんですこの統率感は......。

「では、神陽歴1913年度。入学式を開式させていただく」

 そう言いながら指を鳴らした。

 それを合図に講義堂全体に様々な魔法の演出が披露され、色鮮やかな花火のようなもの、あるものは星座をもしていたりと手の凝ったものばかり。これは相当熟練者によるものだとわかります。

「すごく、キレイ」

 知らず知らずのうちにそうこぼれていた。

 その時だ、私の背中を冷たい手のようなものに触られたような、なんとも言えない感覚に襲われる。身体中が『ゾクゾク』するような感覚でした。

 すぐに背後を確認しますが、そこに居るのはさっきの私のように目の前で行われている演出に魅せられている人々でした。その後も周りを見ましたが特に周囲で変わったことはありませんでした。この講義堂は舞台を中心に扇状に観客席が用意されている作りになっている。私は左側の端に近い席だ。だから、右側に座っている人達の姿をある程度見ることが出来る。その中に私と似たように周囲を気にしている子がいた。長い金髪で目の色は遠すぎてわかりにくいです。ですが、彼女が容姿端麗なのはこの距離でもわかりました。

 これが私が初めて彼女のことを目にした瞬間でした。

 何度か周りを見渡したのですが、特にこれと言っておかしな物はなかったし、見ることもありませんでした。

 しかし、最後ステージに目を向けた時、生徒員長の姿が目に入った。彼が意味ありげな笑みを浮かべている気がした。

 歓迎のショーを楽しんだ後に始まったのは、もちろん学院長先生の偉いお話である。どこの世界だろうと、いつの時代だろうと、古今東西偉い人の話は長く眠くなってしまいます。どうにかなりませんかね?もっとこう、要点をまとめて簡潔に話すとかありますよね?まあ、そんな愚痴をここで漏らしてもどうにもなりませんね。

 でも、次の人が壇上へ上がった途端。私の眠気は吹っ飛びました。生徒委員長が登壇したからですね。もちろん女性陣の黄色い声のおかげです。

 またなだめるように手をヒラヒラさせる。静かになるのに数秒もかからなかった。なんなんだろうこの統率力は。

「新入学生諸、入学おめでとう。君たちはこれから8年間この学びやで、ここにいる仲間たちと苦楽を共にする。挫折することもあるだろう。衝突する時もあるだろう。しかしそれらは全て君たちを大きく成長させる。諦めるのではなく挑戦し続けるんだ。その先には必ず君たちの追い求める未来が待っているはずだ。それを見失わないように頑張ってくれたまえ。では、これを激励の言葉とする」

 なんだろうか、このスピーチを聞いて。ここにいる皆が彼を、生徒委員長を慕う理由がわかった気がする。考えを少し改めようと思いました。

 何より要点をまとめて簡潔に話しているあたり点数高いですよ。

 その後は、また偉い人の話が続きました。その間、睡魔という悪魔と戦う時間を過ごすのでした。

 どれぐらいの時がたったかはわかりません。なぜなら私が睡魔との戦いに惨敗したからです。気づけば前にたっていいる人が例をして壇上を立ち去るところでした。

 程なくして次は寮へ向かうよう指示が出された。誘導をしてくれる先輩にしたがって進む。少し庭園のようなものを挟んだその先に寮舎があった。Uの字を書いた宮殿のような寮舎です。当たり前ですが、私の実家に建物よりも大きものでした。寮に入るとまたも煌びやかな空間が目の前に拡がっています。メインホールです。入学前に届いた手紙を確認する。そこに書かれている部屋番号を確認して部屋を目指す。メインホールから右側の部屋です。廊下を進み最奥の突き当たりが私の部屋です。扉を開けば新しい生活空間が目の前に広がっているはずですが。

「どうしましょう......」

 気づけばそんなことを口にしていた。

 緊張していたのです。相部屋に人がどんな感じなのか、怖い人ではないだろうか、性格終わっていないだろうかと。それに今まであまり外に出てな私です。ここでどう挨拶すれば良いかわからなくなってきました。前世ではどうしてただろうか?そんなこと考えながら硬直していました。

「えっと、あなたそこで何をしているのかしら、もしかしてこちらの部屋の方?」

「ひゃっ、ひゃい!」

 突然、声をかけられたので変な声が出てしまいました。お恥ずかしい。さっきの声のする方へ顔を向ける。そこには、旅行カバン片手に持った女性が、クスクスと口に手を当て笑っていた。多分さっきの私の変な声を聞いたからですね。間違いないです。いや、恥ずかしすぎる。

「はい、私ここの部屋です」

「やっぱりそうだったのね。私セシリア・カノ・プリエト、セシルって呼んでちょうだい。あなたは?」

「私は、アリシア・フォン・バルクホルンです。アリーと呼んでください」

「はい、アリーさんこれから1年間よろしくお願いしますね」

 握手を求められました。それに応えて私も手を差し出す。

「はい、こちらこそよろしくお願いします」

 今日から私の新しい生活が始まります。魔法に友情と青春、楽しみなことが沢山あります。



 -to be continued-

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