episode5
ゴシック調の
俺は大きく深呼吸するとエントランスへと歩き出す。
顔を
「おかえり」
俺はビクリと体を震わせる。振り向くことができず、背を向けたまま「こんばんは」と答えた。
「風邪大丈夫?」
柊が尋ねた。足音が近付いてくる。
「三澤くん。どうして、こっちを見ないの?」
俺は答えることができない。逃げたい。けれど、思いとは裏腹に身体が動かない。
「三澤くん?」
不安そうな柊の声に恐る恐る振り返る。困惑顔の柊に俺は顔を
「す、みません」
俺は駆け出し、ドアの鍵を開けて部屋に逃げ込んだ。ドアを閉めようとすると、柊が強引に中に入ってきて俺の身体を抱き寄せた。
「どうして逃げるんだ」
すごい力で抱き締められ、柊の身体を引き離すことができない。なにより、懐かしい柊の匂いと伝わる温もりに手に力が入らなかった。
「いや、だ」
なんとか声を絞り出すと、柊は一層悲しそうに俺を見つめて乱暴に唇を重ねた。手首を掴まれ、柊は首に唇を
「や、めて。……やめ、ろっ」
夢中で叫んだ。柊が動きを止めた。首に
「祐一」
柊から名前を呼ばれ、心臓が
俺の頬を優しく
言わなければ。今度こそ、自分の気持ちを――
「……嘘つき」
けれど出てきた言葉は、言おうとしていたものではなかった。
どうしても頭からあの学生のことが離れない。寝込んでいる二日間ずっと柊と楽しそうに話している姿が、部屋の中に入っていく姿が、脳裏をちらつき、俺の精神を
なにより、嘘をついた柊が許せなかった。その思いが自分の中で強くあったからかもしれない。
「嘘?」
柊は困惑したのか、手首を掴んでいた手の力をわずかに緩めた。その瞬間、俺は柊の手を振りほどき、自由になった両手で思い切り柊の身体を突き飛ばした。柊は尻もちをつき、玄関のドアに頭を打ち付けた。後頭部を押さえて
俺が言おうとしていることをすぐに理解したようで、「確かに彼とは昔付き合っていた。あの日は、家に置いて行った本を取りに来ただけだ。君に嘘は言っていない」と柊は言った。
やっぱり付き合っていたんだ。あの学生と……。
俺は震える唇を噛んだ。
「彼とは本当に」
柊の言葉を
もうなにも聞きたくない。あの男と柊の話なんて……聞きたくはなかった。
柊はよろりと立ち上がると、いきなり俺の手首を掴んだ。
「じゃあ、お前が秋山の家にいた数日間、俺がどんな思いでいたか分かるか?!」
柊が俺の手首を強く引き寄せ、抱き締めた。
「……頼む。俺以外のヤツと、そんな楽しそうにしないでくれ」
「柊、さん?」
柊の身体がかすかに震えている。
俺は驚いて顔を上げるが、柊の表情を
俺は
すると、しばらくして「すまない」と柊が静かに俺の身体を離した。
「忘れてくれ。君は、もっと
柊は顔を伏せたまま俺を見ようとしない。
様子がおかしい。
「柊さん?」
「すまなかった」
柊はもう一度謝ると、俺と目を合わせることなく外へと出ていった。
取り残された俺はわけが分からず、ただ
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