第8話 捨止の制騎士

 アレハンドロに鎧を直してもらって数日。


「暇だ……」


 捕虜のはずなのに、美味しい食事と暖かい寝床をもらい過去に無いほど甘やかされた生活していた。


「そんな事いいながら戦闘訓練はしてるじゃないですか」


 椅子でだらける私に、先程の戦闘訓練で魔法を使って私から逃げ回って疲れているジグがため息交じりに話しかけてくる。


「あんなの準備体操にもならないんだけど……」


「くそ~、魔術が使えるならなァ」


 ジグとの戦闘訓練では魔術抜きの剣術勝負をしてたワケだが、


「なんで剣を投げるんですか?!」


「武器ってのはあらゆる運用を想定しないとダメでしょ?」


 兄さんが『剣と槍は投げる時が一番強い』って言ってた。


 そこそこの広さを持つ庭。持ち主のジグを犬みたいに追いかけている。


「あのぅ……」


 庭を囲う柵の向こうから、弱々しい声は聞こえてきた。


「ん?」


「おー、レンリか。どうしたの?」


「団長、魔法庁からの使いで来ました」


 随分ずいぶんとかわいらしい、男の子。

 茶髪に小柄、明らかに十代前半くらいに見える。


「……また何かあった?」


「はい。十五番が廃棄に」


 ジグと何やら話しているが、私は何も分からない。私と目が合うや、ジグの背に隠れる。


「……お、女の人」


「レンリ、あの人は大丈夫だ。ご挨拶しなきゃ」


 大丈夫ってどういう意味だよ。


「こ、こんにちわ」


 オドオドとした挨拶。


「はい、こんにちわ」


 私の無駄にでかい体躯を、かがませ目線を合わせる。転生してからというもの、この鋭すぎる目つきのせいで子供にはよく怖がられた。


 だから、できる限り怖がらせないように態度で示しているのだが……


「ヒッ、肉食獣が得物えものを見る目だ」


「だめかぁ~」


「こら、レンリ。失礼だろ、ドラゴンくらいの怖さはあるぞ!」


「ジグの方が失礼だからな?」


 初心うぶな 年頃と考えれば、レンリの態度も仕方無い。


「だんだんと、慣れてくれればいいから」


 そう言って笑うと、


「……はい」


 弱々しくではあるが、彼はうなずき返してくれた。


「しかし、こんな若くして魔術騎士になるってすごいね」


「我々は実力主義ですからねえ」


 ジグは何かしらを羊皮紙に書き、レンリに渡す。


「そういえば、この国に女騎士っていないの?」


 自分と同じ立場の人間がいないか程度の興味だった。


「…………いないですねぇ」


「ん? でも、清王陛下の周囲にいた女性は?」


「あの方たちは、魔術師ですね。我々のように、近接戦闘をするわけでは無いですから」


「職種が違うってことかぁ」


 そういえば、『戦では違う職種を的確に配置することが、大事』って兄さん言ってたな。


「よし! 戦闘訓練、再開しよ」


 レンリとの話も一段落したみたいなので、木剣をジグに手渡す。


「レンリくんもするかい?」


 予備の木剣を手渡す。


「え? え?!」


「レンリ、気をつけろ。あの人、じゃれつくくらいの感覚で頭かち割ってくるから」


 私に数回ほど頭をやられてるジグが、ヒソヒソと警告していた。


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