第54話
「な、にを」
目を見開いて固まる馨を美和は悲しげに見つめた。
「あなたは結局、最後まで気づかなかった」
美和は
「あなたの書き込みがヒントになりました。Liberaはあなたですよね?」
「よく分かりましたね」
美和は
「そんなに難しいことではないんですよ」
「そうなんですか。でも、ヒントって」
「書き込みでは、美奈さんが恋人に振られてひどく
「……警察は、なんでもお見通しなんですね」
美和は力なく笑った。
「この結論に行き着くまでに、多くの捜査員たちが昼夜問わず捜査に当たりましたから。それに、最初にあなた方の入れ替わりに気づいたのは彼です」
若林は掌を田村に差し向けた。美和は俺たち――というか、俺の隣に立つ田村――に顔を向けると、ゆっくりと頭を下げた。
「ところで、Liberaというハンドルネームには何か意味があるのですか?」
「いえ、Liberaは私の好きなアーティストグループの名前です。どういうハンドルネームにしたらいいのか迷っていた時に、ちょうど彼らの曲を聴いていたのでそれを」
「そうですか。私たちの考え過ぎだったようですね」
若林がそう言うと美和は首を振り、「いえ、多分、あなた方の考えは当たっています」と答え、「少しだけ時間をいただけますか」と続けた。
「どうぞ」
そう言って、若林は俺に目配せをした。俺は肩をすぼめる。
「お祖母様。十年前、あなたが美奈に何を言ったか覚えていますか?」
美和が静かに馨に問いかけた。
「そんな昔のこと覚えている訳ないでしょう」
馨は不愉快そうに美和から顔を背けた。
美和は悲しそうに目を伏せ、「そうでしょうね。そうだと思いました。――あなたは卒業式を終えた日の夜、美奈にこう言ったんです。『お前、暗いのよ。もっと社交性があれば私も鼻が高いのに。ピアノだけしか取り柄がないんだから。育て方、間違えたようね』、と。……両親を失った私たちにとってあなたは唯一の保護者であり、家族だった。逆らうことのできない絶対的な存在だったんです。私は途中からあなたの
「ばかばかしいっ! 前から何を考えているか解らない子だったけれど、そこまでだったなんて……くだらない!」
吐き捨てるように最後の言葉を言い放った馨を俺は睨みつけた。
「あなたが彼女を追い込んだんでしょう! 子供にとって親は唯一の
「望月」
若林が、感情的になるな、と目で制した。
「警察官は無礼な人が多いようね」
馨は
これ以上みんなの足を引っ張るわけにはいかない。それに、新人だから刑事としての自覚が足りない、なんてやはり思われたくはない。俺は背筋を伸ばし、冷静さを取り戻す為に深呼吸する。
「気をつけろ。彼女はこの難局を乗り切る隙を狙っている」
田村が小声で言った。
「すまん」
美和は俺に小さく一礼すると、再び語り始めた。
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