第7話 幸せな日々

 しばらくすると、イオリの顔には段々と笑みが戻ってきていた。レーザー光線もどきで、何でも自分で好きなように、加工できるようになったからかもしれない。

 この頃には、僕らは島の全体像どころか、その内部さえも、完全に把握したと言ってよかった。それはつまり、ある意味では、現実世界への帰還を、あきらめたということでもあったのだが、いずれににせよ、当面の間は、ここで生活をしなければならないだろう。

 島内には、二人で生活するには十分な食料があった。天候も良好で、安定している。ただし、ハプニングと呼べるものが起こらないので、平和な一方で刺激が少ない気もする。僕が一方的に心配していた、自分の体調についてだが、イオリが前向きに行動するようになったので、見る間に快復していった。ここはずいぶんと空気が澄んでいるので、それも影響しているのかもしれない。

 夕方、二人で洞窟へと戻っていると、イオリは明日の話をはじめた。色んなものに挑戦したり、未来の計画を立てたりしているのだ。イオリはもうすっかりと元気になったんだと、僕が安心して、思わず「笑顔が増えてよかった」と伝えると、照れたように頬を赤く染めた。


「なっ!」


 ……違った、怒っただけだった。

 この日、僕は洞窟の外で寝るはめになった。おまけに、ちょっとでも暖かくしようと温風を使えば、即座にレーザーが飛んでくる。あたったら、ただじゃすまないだろう。少し寒い……。でも、これって僕が温風を使わなくなると、イオリも寒くなるだけなんじゃ?

 そうは思ったのだけれど、口には出さなかった。だって、本当に、体の穴が増えてしまいそうなんだもの。







 翌朝、僕らは朝から二人で出かけた。それは今までに一度もないことだった。

 もちろん、二人で作業をするのはよくあることだ。だが、今日みたいになんの目的もなく、ぶらぶらと一緒に歩くのは初めてで、僕はイオリが何を考えているのか、急に知りたくなった。


「これじゃあ、で……デートみたいだよ?」


 肝心なところで照れた僕は、みっともなく台詞を噛んだ。だけれど、イオリはちらりと僕を見やるだけで、怒ったり否定したりしない。

 どういう心境の変化なのだろう。

 あまりに近くで長くいすぎたため、僕にはそれを知る機会がまるでなかった。あるいは、僕が見落としてしまっていたのだろうか。

 はっきり言って、僕はとても幸福だった。僕の勘違いじゃなければ、本当の家に帰れないという点を除けば、イオリにだって、大きな不満はなかったのではないかと思う。僕らは文明から離れたのだから、それは奇妙なことなのだけれど、そのくらいに毎日が充実していたんだ。

 でも、とても残念なことに、幸せな日々は長くはつづかなかった。

 イオリが病気になったからだ。

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