四月二十五日
部屋のどこかから音が聞こえる。
ひょろ、というか、ひゅひょ、というか。
初めは隙間風かと思ったが、どうやら違うらしい。
本棚の裏を探ったが、本の切れ端をいじらしく食う蟲以外、特には見受けられなかった。
引き出しもすべて開けたが、ファンタゼリーのゴミ以外特に何もなかったし。布団の中も、窓の傍も何にもいなかった。
ふと、思い立って、ポケットの中に手を突っ込んでみた。
何か生暖かいものが、指先に触れた。
それは笛だった。昔、母が買い与えてくれたものに形が似ていた。
その笛がひとりでに音を出していたのだ。
「ひゅろ。ひゅひゅ。ひょちょ。ひょー」
弱弱しく、寝たきりの老人の呼吸のように鳴っていた。
私は試しに吹いてみることにした。
「ぴゅー--!」
なんだ。見た目の割にいい音が出るなと思った。
リップを塗っていたので、拭き口が赤くなってしまった。
途端に、足が生えて、笛は家中を駆け回った。
「ぴゅー--!ぴっぴっぴ!」
なんだかうれしそうだなと、そう思った。
ひょっとすると、吹き口は本当に口で、私は無意識のうちに笛とキスをしてしまったのかもしれない。
そう思うと私はなんだか照れ臭くなって、頭をポリポリとかいた。
しかし、うるさい。
このままでは家を追い出されてしまう。
私が笛を追いかけようとすると、ドアポストから飛び出して行ってしまった。
笛の行方は誰も知らない。
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