虚儡日記

Lie街

四月四日

「背中と趣味と私と雑誌」


今日から日記をつけることにする。

こんなつまらない書き出しから始まってしまった事に些か後悔している。

海老で鯛を釣ろうとして、亀がかかった時のような損失感を感じざる負えない。


突然だが、私の趣味は、すれ違った人の背中を眺めることである。

背広、パーカー、Tシャツ、カッターシャツ等、様々な人間の服の後ろ側をみていると、猫背、反り腰、大股、がに股などその人間の片鱗が垣間見えることがある。


まれに、目が合うこともある。


くだらない趣味だと思うだろう。全くだ。全くもってくだらないし、何にもならい趣味だと私は胸を張って思う。

だが、趣味というものは本来そう言う、自分で考えたくだらない何かであるべきだと私は思うのである。


俗世間に見放されたような、廃れた書店の中に入ると、雑誌コーナーにたくさんの趣味が乱立している。

私はあの空間が苦手だ。趣味くらい自分の手で選ばせてほしい。趣味を探して、雑誌を手に取る人間と一生分かり合えない気さえしてくる。


あれらの雑誌の存在が、私たちが気軽に趣味を語ることができない要因の一つとなっているのではないか?

だとしたら、それこそ最も取るに足らないくだらないことだ。そんな趣味の悪いものはさっさと折れ曲がったガードレールから身を乗り出して、煮えたぎっているような悪臭を放つ用水路の中にドボンと落としてしまった方が、よほど健全だ。


私も引き続き、通行人の背中を盗み見る趣味を続けたいと思う。

いつか、通行人の背中を集めた雑誌が発売されるかもしれない。



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