第291話 爵位と助手



 ◆◇◆◇◆◇



「ーー頭を上げよ。極東の地では大活躍だったようだな、リオンよ」



 皇城にある謁見の間に皇帝ヴィルヘルムのよく通る声が響き渡る。

 左右に立ち並ぶ諸侯達からの視線が向けられる中、玉座から掛けられた声に対して、アークディア帝国式の最敬礼を解き、下げていた頭を上げた。

 他の帝国貴族達も同席する公式の謁見であることを考えると跪くのが筋だが、俺がアークディア帝国に属する勇者兼賢者兼名誉公爵という肩書きを持つことから、永代貴族の中でも公爵家当主達のみが許されているのと同じ様に、跪かずに最敬礼のみとなっている。

 まぁ、時と場合によっては跪く必要もあるのだが、今はその必要はない。

 この俺の特別扱いには、伝統派に属する貴族など一部の貴族達の反感を買っていたりするのだが、それも今回の謁見という茶番劇の後には、その大部分は解消されることになるだろう。



「恐縮です、皇帝陛下」


「既に討伐された〈悪毒の魔王〉の残滓とやらと戦ったそうだな?」


「はい。知り合いからの依頼を受けて反逆者の鎮圧を手伝いに向かったのですが、まさかその先で魔王の残滓とも戦うことになるとは思いもしませんでした」


「ふむ、そうか。魔王の残滓は強かったか?」


「それなりには、と言ったところでしょうか。魔王の残滓とはいえ、種族的には毒を扱う風属性の龍種ですので、私や〈天喰王〉であるリンファ様のような者がいなければ、龍煌国の半分ほどが百年単位で人の住めない地と化していたかと思われます」


「ほう……残滓ですらそれほどの力を持つとはな。そんな相手に勝利するだけでなく、極東の覇者との外交もこなしてこれるような者は、リオンを置いて他にはいないだろう」



 事前に打ち合わせした通りの会話内容とはいえ、当事者として褒められるのは普通に気恥ずかしい。

 【無表情ポーカーフェイス】の有り難みを改めて実感しつつ、会話を進める。



「恐れ入ります。龍煌国との外交についてですが、状況的に相談する時間がなかったとはいえ、その節は皇帝陛下と外務卿であるディプロ伯爵閣下にはご迷惑をお掛けしましたことを、この場を借りて謝罪致します」


「当時の状況が如何に切迫していたかは、龍煌国から派遣されてきた大使より聞き及んでいる。余としては、そのような時間の限られた状況下で交渉し、我が国に莫大な利を齎したことを褒め讃えたいぐらいだ。とはいえ、越権行為であることもまた事実だ。その点についてディプロ伯爵はどう考えている?」


「はっ。確かに、エクスヴェル卿の行いは越権行為ではあります。ですが、大陸西部にある我が国と、大陸の極東部にある龍煌国の繋がりは元よりあってないようなものでした。仮に事前に相談されていたとしても、私達がかの国との折衝を重ねて満足のいく結果を出すまでに数ヶ月を要していたのは間違いないでしょう。その結果ですら、今回エクスヴェル卿が齎した成果には及びません。外務卿を任された身としては恥じ入るばかりですが、エクスヴェル卿が帝国にとって素晴らしい働きをなさったのもまた事実です。ですので、此度の越権行為につきましては、次回から気をつけていただくだけで構いません」


「勿論です。ディプロ伯爵閣下のご厚意に感謝します」



 これで、公の場での俺の謝罪と、ヴィルヘルムとディプロ伯がその謝罪を受け入れたという事実が周知された。

 ヴィルヘルムはまだしも、これまで簡単な挨拶ぐらいしかしたことがなかったディプロ伯とは交流がなかったので、今回の茶番劇の打ち合わせ前に彼の元へ謝罪に赴いた際に、詫びの品を渡しておいた。

 俺お手製の精力剤と発毛剤を含めた詰め合わせセットを贈った効果はあったようで、茶番劇の打ち合わせで再会した時には大変良い笑顔で握手をしてくれた。

 やはりお詫びの品という名の実弾賄賂はよく効くな。

 公式の場での謝罪を素直に受け入れてくれるだけでよかったのだが、自らを卑下した上に逆に俺の株を上げてくれるとは思わなかった。

 後で追加の精力剤と発毛剤を贈っておくとしよう。



「うむ。ディプロ伯爵とリオン、双方共に今後も国のために励むように。さて、宰相よ。今回、我が国と龍煌国との間に結ばれた条約の内容について、この場に集まった者達へと説明せよ」


「かしこまりました。それでは読み上げていきます」



 宰相の口から、アークディア帝国とファロン龍煌国の間に結ばれた条約の内容が読み上げられていく。

 長いので要約すると、『ファロン龍煌国は星戦報酬によってアークディア帝国の地に構築される新たな霊地を認め、アークディア帝国が霊地や星気に関連した各種技術を取得することに対して、国を挙げて全面的に協力する』といった内容だ。

 元々、星戦報酬で霊地を作り出すことが決まってからというもの、霊地に由来した仙術や丹薬などの技術の先駆者である龍煌国の存在は帝国の上層部では重要視されていた。

 霊地由来の技術や知識を参考にできるという点以外にも、内政干渉をしてくる可能性があるため、その対策についての話し合いが近々行われる予定だったのだが……まぁ、ご覧の結果である。


 棚から牡丹餅、と言っていいかは微妙だが、こんな好条件の条約と同じ内容を交流の希薄だった龍煌国からディプロ伯が持ち帰れるとは思えないので、皇帝であるヴィルヘルムを筆頭に国に上層部の皆が俺を褒め称えるのは仕方がないのかもしれない。

 そして、ここぞとばかりにヴィルヘルムからとある提案を受けた。

 少し悩んだが理には適っているのと、今の状況とあまり変わらなかっため、提案を受け入れることにした。

 その提案というのがーー。



「ーーまた、此度の功績に加えて、先日の戦争における魔王討伐をはじめとした数々の活躍を讃え、リオン・ノワール・エクスヴェル名誉公爵に対して、皇帝陛下の名の下にアークディア帝国永代公爵位を授与することを決定致しました」



 条約の内容を読み上げた後に続けて宰相から発表された内容を聞き、謁見の間に集められた帝国貴族達の半数以上が騒ついた。

 残りの帝国貴族達、伯爵位以上の上級貴族達は事前に根回しされていたので動揺は少ない。

 それでも動揺している者が上級貴族の中にもいるのは、Sランク冒険者に付随する名誉公爵位を持っていたとはいえ、平民出身の冒険者へと本当に永代公爵位が授けられたからだろう。

 そういう者達には頑張って気持ちの整理を付けてもらうしかない。


 褒美という形で世襲が可能な永代貴族としての公爵位を授ける、というヴィルヘルムからの提案を受け入れたのには大きく分けて二つの理由がある。

 一つ目は、宰相が述べた数々の俺の功績に対する国の面子のためだ。

 これは内々に報酬を受け取っていたことによる弊害なのだが、どうやら他国からは帝国は褒美もマトモに与えられないケチな国と思われていたらしい。

 実際には何かを褒美として与えているのは他国も理解しているため、ようは戦争に勝利した帝国に対する嫌がらせみたいなものだ。

 恩賞を内々に処理したことを逆手に取られたわけだが、国際的にそのような扱いになると帝国としては様々な面で悪影響が出るのは容易に想像できる。

 それを解決できるのが、爵位の授与というわけだ。

 最上位の爵位である公爵位というのも功績からして妥当らしい。


 二つ目は、皇帝ヴィルヘルムの実妹であるレティーツィアとの婚約に際しての箔付けだ。

 現皇帝の唯一の実妹という肩書きの価値が非常に大きいのは言うまでもないことだが、そこに更に絶世の美貌という要素までプラスされているため、俺とレティーツィアの婚約が仮発表されて以降、数は少ないが国内外から皇城へ反対の声が届いているらしい。

 Sランク冒険者なら誰でも与えられる名誉公爵位しか肩書きがなかったら、反対の声は多かっただろうが、今の俺には〈勇者〉であり〈賢者〉であるという比肩する者のいない肩書きがあるので問題はなかった。

 そのため、このまま正式な婚約発表に進んでも構わないのだが、反対の声は少ないに越したことはない。

 故に、反対している者達の主な主張となっている一代限りの名誉貴族という身分の問題を解決するためには、世襲可能な永代公爵位を俺に与えるのが最も効果があるという話になった。

 王族を除けば、永代の公爵位が皇妹と婚約、そして婚姻するのに最も相応しい爵位というのはこの世界の殆どの国の共通認識らしく、このことはレティーツィアだけでなくユグドラシア王国の王女であるリーゼロッテにも当て嵌まるとも言われてしまったら受け入れるしかない。

 公爵位というのは基本的に自国の王族や他国の元王族が賜る爵位ではあるが、この世界では王族の姫の臣籍降嫁先の当主ーー今回だと俺のことだーーが身分の釣り合いをとるために公爵位を賜ることもあるため、前例があるのも決め手だった。


 永代公爵になると課せられる主な義務の中には、他国との戦争などへの参戦義務と国の重要な会議への出席義務というものがある。

 これらの義務については、前者は〈勇者〉という肩書きがあるため国際的に参戦するわけにはいかないので無効化され、後者についても最近は〈賢者〉として国の会議によく参加させられている。

 つまり、現状と何も変わらないから、というのも提案を受け入れた理由の一つだな。


 永代公爵として領地も貰えるそうだが、その調整にはまだ少し時間がかかるため領地に関してはまた後日となっている。

 何処の土地をくれようとしているかについては、眷属ゴーレムによる情報網によって既に把握済みだ。

 まぁ、色んな意味で豊かな場所であるため公爵位に相応しいというのもあの場所が選ばれた理由なんだろうが、一番の理由は国の重要拠点の防衛戦力として期待されているからなのは間違いないだろう。

 うん。帝国貴族としての義務的な要素が加わるとはいえ、今とやることは変わらない。

 領地の立地的にも税収の面でも期待できそうだし、今後が楽しみだ。


 そう考えると色々とやりたいことが出てきたな……先ずは永代公爵という社会的地位を背景にドラウプニル商会の各種事業を更に推し進めるか。

 停滞していた買収交渉や勧誘の殆どは話が進むはずだ。

 それでも首を縦に振らないなら俺が直々に相手を説得すればいい。

 あとは、銀行業と保険業へ参入するのもいいだろう。

 永代公爵になった今ならば、保険業と絡めて説明すれば宰相も首を縦に振るはずだ。

 他には叙爵記念とかそんな風に銘打って、年末に向けて不良在庫の処分も兼ねてドラウプニル商会で特売セールでもしようかな?



 ◆◇◆◇◆◇



 そのまま叙爵式へと移行する皇城にいる分身体に向けていた意識の大部分を本体に戻した。



「さて、これで俺も公爵か。ま、色々と都合が良いな」


「おめでとうございます、マスター」


「ありがとう、エジュダハ」



 目の前で跪いて祝福の言葉を贈ってきたのは、黒いローブ姿に金属質な龍の頭蓋骨のような仮面を被った青年だった。

 アンデッドのようにも精霊のようにも見える霊体系の人外だが、物理干渉のために実体化できる能力を持っている。

 種族は〈死星命魂霊鬼モルステラ・ヴィレイス〉という新種の魔物であり、ユニークスキル【冥府と死魂の巨神ヘル】の【死徒創生ナグルファル】にて回収したエンジュ・シンラの魂などを使って生み出した〈生命〉〈死〉〈星〉の属性を持つアンデッドだ。

 正しくは、アンデッドに属しながら精霊でもある、と言うべきだが、アンデッドを創り出す内包スキルで生み出したので取り敢えずアンデッドで言いだろう。

 〈エジュダハ〉という名については、本物のマルベムが持っていたというユニークスキルの名称〈アジ・ダハーカ〉に関連した数ある名前の中から、エンジュの名に字面が近い名前を採用しただけである。


 エンジュの魂以外にも、武闘大会にて使用し壊れた双剣〈死が蝕む黒竜牙モルス〉と〈命を喰う白竜牙ヴィータ〉や、俺の血を適量、星鉄を数グラム、エンジュの遺髪、報酬の一部として半分貰ったマルベムの素材の中から骨と鱗と皮を適当に用意してから、展開された【死徒創生】の術式陣に全て放り込んで誕生した。

 魂を使用しているため、元となったエンジュの記憶情報を持ってはいるが、エンジュの人格は既にないため今のエジュダハにあるのは別の人格アルターエゴと言えるだろう。

 その頭部の上半分を多い隠すような龍の仮面の下にエンジュにそっくりな顔があっても彼ではないのだ。


 普通に生き返らせることも考えたが、本人に生きる気力がないようで蘇生を拒否された。

 蘇生を拒否している理由までは分からなかったのだが、生み出したエジュダハから聞き出したエンジュが復讐者となった経緯を聞いた後だと、おそらくは生き返っても復讐が果たせないからだろう。


 かつてエンジュには妹が一人おり、その妹は龍煌国の名家の男の元に嫁いだ。

 子供にも恵まれて幸せな中、妹にとって義弟にあたる夫の弟が紅龍剣の使い手に選ばれ四天煌となった。

 そこまでは良かったのだが、それから暫く経ってから義弟が先代煌帝の末の皇女と駆け落ちしてしまってからエンジュの人生が狂うことになった。

 一番可愛がっていた末の皇女を奪われた先代煌帝は、奪われた恨みからエンジュの妹家族も含めたその義弟の親族達に対して連座制による処刑を実行した。

 私怨から当時でも廃れた制度を持ち出しただけでなく、駆け落ちのそもそもの原因はその義弟に一目惚れした皇女の方にあることは上流階級の間では知られており、次期星守候補で連座の対象外だったエンジュや当時は皇太子だったラウをはじめとした一部の者達は猛反対した。

 それでも聞き入れられることはなく強行された結果、エンジュは唯一の肉親だった妹だけでなく、まだ子供だった可愛がっていた甥と姪まで失った。

 その上、国民に対しては義弟が皇女を唆したという真逆の情報を真実として発表され、国民はその発表を信じた。

 処刑されたエンジュの妹達は死後も民から蔑まされることになったわけだ。


 そんな悲劇を経験したら復讐者となってしまうのも無理もない。

 しかも元凶の先代煌帝も間もなく病死し復讐を果たせず、民に対する復讐も今代煌帝であるラウと超越者であるリンファによって阻まれる。

 一度反逆に失敗した以上、もう二度と同じ手段は使えないので、蘇生を拒否するのは当然なのかもしれない。

 まぁ、復讐を阻んだ俺が言うのもどうかと思うけど。

 無理矢理生き返らせることも可能だったが、そこまでする理由はないので、欲しかったエンジュの知識と技術、そして各種研究の助手を獲得するために魂を使わせてもらい、エジュダハを生み出した。

 マルベムと戦ったその日のうちにエジュダハを生み出してから半月が経つが、このエジュダハは超優秀なので非常に助かっている。

 おかげで行なっていた研究開発の完成度も上がり、作業が捗って仕方がない。

 


「エジュダハ。お前がこっちに来たということは……」


「ハイ。安定状態に入りました」


「そうか」



 座っていた椅子から立ち上がると、固有領域〈強欲の神座〉にある秘密研究所〈偉大なる秘法アルスマグナ〉のエリア内を歩いていく。

 後ろにエジュダハを引き連れて移動した先の研究室には様々な機材が並んでいた。

 そんな研究室の中央には床と天井を繋ぐ円柱状の透明なカプセルが設置されており、カプセルの中では六角柱型の黄金色の金属塊が輝いている。

 この物体は開発中の伝説レジェンド級のアイテムであり、おそらくこれまでは存在しなかったタイプのアイテムだ。



「ふむ。〈聖金霊装核キトリニタス〉の状態は順調みたいだな」


「ハイ。現時点でも精製率は九割を超えています。あとは、このまま魔力と各種属性因子の供給を続ければ数日以内には完成するかと思われます」


「状態的にもそれぐらいだろうな。完成まで漕ぎ着けそうだし、今後は試作型のコレは〈キトリニタス=トライア〉と呼称しよう」


「承知しました。ん? マスター、カプセル内の風の属性因子が減っていますので少し失礼します」


「いや、俺がやろう。後々のことを考えるとデータ的にもその方がいいだろう」


「かしこまりました」



 カプセルの根本にある機材を操作してから、手を押し当てて風系統スキルを発動させてカプセル内に風属性因子を注入していく。

 このスキルはマルベムとの戦いの後に融合して手に入れたスキルだ。

 その際の通知に意識を向ける。



[スキルを融合します]

[【暴虐ノ風】+【穿風闘脚】+【風霊の王】=【暴風神魔ルドラ】]



 大層な名前のスキルができたが、残念ながらユニークスキルではなかった。

 まぁ、ユニークスキル並みに強力な上に放出される属性因子の質も良いので構わないのだが。


 面倒な作業と超々希少素材を使った〈試作仕様トライア〉は俺自身が使うとして、トライアのデータを使って製作する予定の量産型キトリニタスはどうしようか。

 ヴァルハラクランで使ってもいいが……いや、公爵としての権威を確立するために国に何個か献上するのもアリだな。

 キトリニタスを国内から選び抜かれた精鋭に国が貸し与えるという形にして、龍煌国の〈四天煌〉とか、ロンダルヴィア帝国の〈三帝剣〉みたいな精鋭集団を作るよう進言するとかがいいかもしれない。

 〈勇者〉は人間同士の争いには基本的に参戦できない暗黙の了解の所為で、公爵として参戦することができない代わりみたいなものだ。

 量産型は生産性を上げるために性能を抑えたデチューン仕様にする予定だが、伝説級であることに変わりないので数を増やすなら相当な大金が必要になるが、そのあたりの判断はヴィルヘルムや上層部に判断を任せるとしよう。


 義兄予定のヴィルヘルムにも皇帝用のキトリニタスを贈るとして、各種タイプの名称は〈皇帝仕様インペラトール〉と〈通常仕様レガトゥス〉にするか。

 紅龍剣を持ち逃げされた龍煌国の二の舞にならないように、盗難防止機能も実装する予定なので他者に渡しても問題ない。

 そう考えると、龍煌国にプレゼントする予定の新たな黒龍剣と、交渉時にラウから依頼されて製作する新たな紅龍剣にも盗難防止機能を実装するべきだろう。

 近々、国の使節団が話し合いのために龍煌国に向かう際には俺も同行する予定なので、その時にどうするかリンファとラウに聞いてみるか。


 間に他の国を挟んでいるとはいえ、西と東の大国の戦力を増やすことに対して、その二つの大国に挟まれる形のロンダルヴィア帝国のアナスタシアからは文句を言われそうだな。

 帝位争いに勝ち残れば彼女が皇帝になるのだし、何かしらテコ入れをした方がいいかもしれない。

 何がいいだろう……俺の本拠地であるアークディア帝国にはキトリニタスと機甲竜を用意する予定だから、この二つ以外がいいよな。

 セジウム経由で黒の魔塔主としてロンダルヴィアに何かを売りつけるか?



「ふむ……」


「どうかしましたか、マスター?」


「いや、俺が儲けつつ大国間のパワーバランスを調整したくてな」


「大国ですか。マスターが言う大国とはアークディアとロンダルヴィア、そしてファロンですね?」


「ああ。アークディアにはキトリニタスと機甲竜を、ファロンには新たな黒龍剣と紅龍剣を用意する予定なんだが、ロンダルヴィアをどうしたもんかと悩んでてな」


「確かに、ロンダルヴィアには三帝剣と機甲錬騎がありますが、現状の戦力のままでは見劣りしますね。とは言っても伝説級の魔剣が一振り二振り程度の差……いや、煌帝専用の魔剣は除外していいですから、ロンダルヴィアの元に旧紅龍剣があるなら数自体は同じになりますか」


「言われてみればそうだな。まぁ、ファロンに仙術といった霊地関連技術がある分だけ戦力に差があるが、コレは今更だしな……」



 大前提としてリオン変装中の俺ランスロットが同一人物とバレないようにする必要がある。

 アークディア帝国の公爵として他国に売り込みに行ける範囲のモノなら問題ないんだが……。



「ま、何かしら考えとくか。エジュダハも何か思い付いたら教えてくれ」


「かしこまりました」



 エンジュがクーデター時に使った謎の白い石。

 アレの効果を簡単に言うと、『神域級魔法を一度だけ発動できる』というものだ。

 魔法行使のための魔力は自前で必要なので使える者は限られるが、神域級魔法行使権限を与える迷宮秘宝アーティファクトの希少性は非常に高い。

 そんなアーティファクトをエンジュに渡したのはロンダルヴィア帝国の皇子の一人だ。

 目的は不明だが、十中八九は敵国である龍煌国に混乱を齎らすために譲渡したのだろう。

 エンジュに対してだったら、その皇子もいるロンダルヴィア帝国の利になることを考えろとは言いづらいが、俺の使い魔であるエジュダハになら気にせず言うことができる。

 改めて良い拾いモノだったな。



「……今後もよろしく頼むぞ、エジュダハよ」


「ハッ。微力ながらお力添えさせていただきます」



 エジュダハと共にキトリニタスの黄金の輝きを眺めつつ、今後について思案を巡らせ続けた。






☆これにて第十一章終了です。

 主にファロン龍煌国を舞台にした章となりましたが、如何だったでしょうか?

 霊地やら星気、仙術と初出しの要素が出てきましたね。

 同じ大陸内でも西と東で物理的に距離があれば文化も技術も違うことを表してみました。

 リオンがそんな異国の技術も手に入れたので、色々なモノが生み出されていきそうです。


 次の更新日に十一章終了時点の詳細ステータスを載せます。

 新たに使い魔枠が増えている以外では、今章よりも前にレメゲトンに蒐集された魔権系ユニークスキルを一番下部に纏めていますので、よろしければご覧ください。



 十二章の更新はいつも通りステータスを掲載する次の更新日の、その更に次の更新日からを予定しています。

 十二章では久しぶりの冒険者活動と、ファロン龍煌国以外の他国での活動の話がメインになる予定です。

 引き続きお楽しみください。


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 どうぞよろしくお願い致します。

 

 

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