第235話 ヴィクトリア
◆◇◆◇◆◇
オークション会場での騒動から一夜が明けた。
騒ぎを引き起こした魔王信奉者の殆どは討ち取られ、生きたまま捕らえられた少数の者達も尋問を待っている状態だ。
そういった報告を幻主アイリーンから直接受けた後、彼女が今回の事後処理で多忙という理由から、元々予定していたエドラーン幻遊国へのダンジョン誘致の交渉についてはまた後日となった。
アイリーンならば事後処理をパパッと終わらせることが出来そうだが、大半のことは配下達に任せるつもりらしい。
早々起こるような出来事ではないので、配下に経験を積ませるために彼女は直接は手を出さない方針のようだ。
「……」
「……」
そんなアイリーンとの話を終えた後、俺は都内にあるホテルの一室にて昨夜の謎の美女と向かい合っていた。
エリュシュ神教国の者達が宿泊しているホテルは、此処では目立つ一団なので調べたらすぐに分かった。
そのホテルに向かうと、ロビーにて待ち構えていたお付きの神官からこの部屋へと案内され今に至る。
案内してくれた神官は既に退室しており、室内には俺達二人以外に人はいない。
「……」
「……」
目の前の彼女の名前はヴィクトリア・ソルド・イングラム。
エリュシュ神教国の名家イングラム家の血を引く者にして、SSランク冒険者や英雄使徒といった現時点で世界に六人いる超越者の一人である〈熾剣王〉だ。
「えっと、久しぶり、でいいんだよな?」
「……そうね。リオンが私を置いて戦いに赴いて以来になるわね」
「お、おう。確かに俺が知っているヴィクトリアみたいだな」
そして、俺の前の異世界における最終決戦である邪神戦の直前まで共にいたヴィクトリアでもある。
彼女が言うように、彼女を邪神戦で死なせないために決戦には連れて行かずに置いていって以来になる。
邪神の側近レベルとの戦いならまだしも、邪神相手には力不足だったので封印術式やら封印系能力などを使って強制的について来れないようにした。
恨まれているかと思ったが、今のところそんな様子はない。
怒ってはいるみたいだが……懐かしいな。
名前や種族もそうだが、二十代ぐらいの外見年齢に絶世の美貌、抜群のスタイルなども含めて以前とそっくりなのはどういうことだろうか?
違いは金色だった髪と翼が
前世の記憶を有していた魂にあった前の身体情報が反映でもされたのか、または向こうの世界と近似世界であるこの世界にもそっくりな遺伝情報を持つ血筋があって、条件があうそこに引き寄せられて転生したとかかな?
個人的にそのあたりの事情が非常に気になる。
「いつからこっちにいたの?」
「あー、まぁ、ちょうど一年前ぐらいに来たな」
「なんですぐに会いに来ないのよ」
「ヴィクトリアのことを知ったのは少し経ってからだったのと、俺が知ってるヴィクトリアと同一人物だという確証がなかったからだ。ヴィクトリアもそうだろ?」
「……前の記憶の有無を除けば私のリオンだと分かったわよ。あと、迷惑をかけたくはなかったし」
拗ねたように言うヴィクトリアに苦笑しそうになりつつも、此方からも聞いておきたいことを聞いておく。
「それで、どうやってこっちの世界に?」
「……きっかけはエクスよ」
「エクスが?」
そうしてヴィクトリアが話したのは、何とも言えない内容だった。
邪神討伐後、ヴィクトリアが戦場に向かうと、そこには邪神との霊的な繋がりなどの理由から元の世界に送還された俺の姿はなく、代わりに俺が使っていたエクスカリバーだけが残されていたらしい。
その後、エクスカリバーを俺の形見にヴィクトリアは僻地で隠居していたのだが、邪神を討った俺の武器の存在を知った人間達が引き渡しを要求してきたそうだ。
ヴィクトリアがそんな要求を聞き入れるわけがなく、色々あって最終的にエクスカリバーを抱き抱えたまま大火山の火口に身を投げたとのこと。
言いたいことはあるが、俺が原因の一つでもあるし何かを言う権利は無いだろう。
「こっちに転生したのはエクスが原因か?」
「それぐらいしか心当たりはないわ」
エクスカリバー自体が俺を転生させた謎の存在プローヴァによる粋な計らいのようだから、おそらくエクスカリバーにくっついていたであろうヴィクトリアの魂も一緒に送り込んだ可能性はある。
或いは、エクスカリバーの第七能力【
今も胸元にあるペンダント形態のエクスカリバーに問い掛けてみるが、返事は無し。
身に覚えがないならそういう反応が返ってくるのに、全く意思を返してこないことから、答えることをプローヴァに封じられているってところだろう。
「……ねぇ。今の戦闘技能は昨日で大体分かったから、他のも見せてよ?」
「他の? 例えば?」
「〈強欲〉自体の力とかよ」
「ふむ……そういうことなら此処で作業を済ませていくか。分かってると思うけど喋るなよ」
「っ! ええ、勿論よ」
何故か嬉しそうなヴィクトリアに見られながら、防諜対策に遮音・対遠視・魔力阻害などの効果を持つ複合結界を室内に展開する。
準備を終えると、オークションで落札した品を【
俺が落札した分の代金は先ほどアイリーンに会った際についでに支払ってきた。
会話の流れで聞いてみたら、オークション支払い窓口ではなくアイリーンに支払っても大丈夫と言われたからだ。
正体を隠して出品した商品の落札代金については、昨日の騒動による混乱のせいでまだ全ては支払われていないようだった。
なので、明日あたりに分身体で回収しにいくつもりだ。
「……ふぅん、今生では複製は強欲と分かれているのね」
「ああ。おかげで前よりも使いやすくなってるよ」
スススッと何故か隣に移動してきたヴィクトリアに返事をしながら作業を続ける。
昨晩の【
予想していた通り霊薬であるレッサーエリクサーは効力を発揮し、一つ服用すると僅かばかり体調が良くなった。
短時間に連続で服用しても効果が無かったので、次は半日ごとに一つ飲んで効果があるかを確かめる予定だ。
そろそろ飲む時間だから一連の作業が終わったら飲むとしよう。
全ての
[アイテム〈混沌の泥〉から能力が剥奪されます]
[スキル【混沌の泥】を獲得しました]
[アイテム〈闇世の王剣〉から能力が剥奪されます]
[スキル【
[スキル【浮冥黒剣】を獲得しました]
[スキル【黒闇魔刃】を獲得しました]
[スキル【闇力吸収】を獲得しました]
[アイテム〈月光斧アーノルム〉から能力が剥奪されます]
[スキル【孤月斬刃】を獲得しました]
[スキル【三日月飛閃】を獲得しました]
[スキル【半月光断】を獲得しました]
[アイテム〈戦蠍王の毒瘴刃〉から能力が剥奪されます]
[スキル【多重毒素】を獲得しました]
[スキル【星瘴】を獲得しました]
[アイテム〈
[スキル【星叡鑑識】を獲得しました]
[アイテム〈黄金魔銃ゴルディオン〉から能力が剥奪されます]
[スキル【黄金魔弾】を獲得しました]
[スキル【
[スキル【
[スキル【
[アイテム〈劣神秘霊薬〉から能力が剥奪されます]
[スキル【上位状態異常回復】を獲得しました]
[スキル【体力全回復】を獲得しました]
[スキル【魔力全回復】を獲得しました]
[アイテム〈大魔獣アルデーモスの牙〉から能力が剥奪されます]
[スキル【耐性貫通】を獲得しました]
[スキル【災獣の牙城】を獲得しました]
[スキル【地災獣王の覇剛撃】を獲得しました]
[アイテム〈
[スキル【三天威・魔導増幅】を獲得しました]
レッサーエリクサーから獲得した【体力全回復】と【魔力全回復】に関しては、一日に一度しか発動出来ないようだ。
残る【上位状態異常回復】の方は何度でも発動できるみたいだが、今の虚弱状態には効果を発揮しなかった。
感覚的にはスキル化してしまったことが原因のようなので、レッサーエリクサーが効かなくなったわけではないはずだ。
そんなことを考えつつ、続けてスキルの合成を行なった。
その最後で【第六感】などのスキルが導くままに、多少悩んだが【強化合成】自体も合成の素材に使ってみた。
[スキルを合成します]
[【浮冥黒剣】+【黒闇魔刃】+【孤月斬刃】+【三日月飛閃】+【半月光断】=【
[【万毒】+【多重毒素】+【星瘴】=【
[【夜天強魔】+【
[【
結果、【強化合成】は更に上位の【混源融合】という【混源の大君主】の内包スキルに変化した。
以前との違いはあるようだが、これまで通りスキルの合成ができるようだ。
「作業は終わった?」
「一通りはな。これで満足してくれたか?」
「うん、創造系能力の確認は済んだわ。でも、あと二つほど確認したいことがあるの……避けないでね」
「えっ、グッ!?」
ズンッという鈍い音が幻聴で聞こえてきそうなほどの一撃を腹部に喰らった。
真横からの不意打ちのボディーブローは、大半の竜種の竜鱗すら打ち砕けるほどの破壊力だ。
ヴィクトリアの見事な技量によって衝撃の凄まじさに反して吹き飛ぶことはなかったが、血反吐を吐く寸前レベルの内臓ダメージを負った。
これまでの身体能力値の積み重ねや筋肉の増強などがなかったら、技量云々以前に腹部を突き破られていたかもしれない……。
「ふぅ、スッキリした。現時点でのリオンの耐久力の確認は済んだわ。前世で私を置いていったことはコレで許してあげる」
「それはどうも……」
「最後はコッチの確認もしないとね?」
甘んじてお叱りを受け入れるために回復スキルや魔法を使わないでいると、強制的にソファに押し倒されてしまった。
有無を言わさぬ強引な行動に驚いている俺の上にヴィクトリアが馬乗りになってきた。
「一体何を、ってそういうことか」
ヴィクトリアの目が色欲に塗れていることから、最後の確認とやらがナニを意味するかが分かった。
「私のリオンかどうかを確認するなら、コッチの方も確認しないとね?」
「変わってないから安心しろ。だから退け」
「嫌よ」
無理矢理退かそうとすると、俺の手を掴んで抵抗してきた。
スキルも使って腕力を上げたが、ヴィクトリアも同じようにスキルを発動させてきたことで拮抗している。
素の筋力値は俺が少し上回っているみたいだが、ヴィクトリアは
加えて、両足で俺の腰をガッチリと挟んでいるため下半身も動かし難く、上手く動くことができない。
「こんな、とこで、馬鹿なんじゃないか?」
「リオンが結界を、張って、るから、大丈夫よ」
「そういう問題、じゃないだろ」
「安心して。またリオンに逢えると信じてたから、この身は清らかなままよ。今生でもリオンにしか身体を許すつもりはないわ」
「それは、ありがとよ。でも、そういう問題、でもないぞ、っと」
今の俺では腕力では勝てないようなので、仕方なく【転移無法】でソファ横の空間へと脱出した。
「場所を考えろよ、場所をよ……」
「私の主観では数百年ぶりなのよ」
「なるほど、とはならないからな」
「ならないの?」
「ならない」
なんだかドッと疲れたが、ヴィクトリアのこのどこかマイペースな感じは懐かしくもある。
そう考えると先ほどの状況にも懐かしさを感じないでもない。
「ふぅん。まぁ、リオンは私がいなくても困らないものね……前世と同じで周りに美女美少女がいるから」
「何のことやら……」
ヴィクトリアから冷たい非難の針をグサリと刺されながらも再びソファに座り、諸々の回復がてらレッサーエリクサーを服用する。
重度の虚弱状態が少し良くなり、ヴィクトリアから受けた腹部と手のダメージが完全回復した。
「それで、いつまで此処にいるの?」
「エドラーンにか? 出品物の代金の受け取りがあるから明日までは滞在するかな。それが済み次第、隣国との開戦も近いから国に戻るよ」
「……エリュシュに定住しない?」
「俺が宗教国家に住むわけがないのは分かってるだろ。例え前のような世界じゃなくてもだ」
「むぅ……」
拗ねるだけで言葉を重ねてこないことからヴィクトリアも俺の答えは分かっていたのだろう。
まぁ、前の異世界の時とは違う理由から宗教国家への定住は鬼門なんだけどな。
「……こっちが落ち着いたら遊びに行くから待っていてくれ」
「本当?」
「本当だ。あ、でもどうやって会おうか」
「普通に会えばいいじゃない」
「正体は隠していくからな」
「どのみち注目は浴びるんだから堂々とすればいいじゃない」
「どういう意味だ?」
「此処みたいな異国の地でもない限りは、英雄使徒である私と秘密裏に会うのは無理だと思うわよ」
「なるほど……」
確かに、エリュシュ神教国における超越者である英雄使徒と
だからと言って普通に会いに行ったら、正体を隠していようがいまいが注目を浴びるのは間違いない。
「うーん……まぁ、どうするかは追々決めるか」
そう言って【無限宝庫】から超遠距離連絡用の
持ち運べる懐中時計型なので保管もしやすいだろう。
「毎晩連絡するわね」
「いや、毎晩は困るんだが……」
「毎晩連絡しないと他の女達との逢瀬を邪魔できないじゃない?」
「……嫌がらせ目的なら出ないからな?
「冗談よ」
真面目な表情のまま冗談に聞こえないことを言ってくるヴィクトリアとの絡みに軽い疲労感を覚えるも悪い気はしない。
毎晩は無理だが、これまでの空白を埋めるために出来るだけ連絡を取り合うようにしよう。
今朝がた宿泊しているホテルを出る際に何かに勘付いている様子だったリーゼロッテには、ヴィクトリアのことを言っておいたほうがいいだろうな。
大魔王やその眷属達よりも、話を聞いた後の彼女の反応のほうが余程恐ろしい。
獲得できる戦利品があるだけ、大魔王などに挑むほうが気が楽だな。
☆これにて第九章終了です。
主に大陸オークション関連の章となりましたが、如何だったでしょうか?
アモラやルーラ、アイリーンにヴィクトリアといった新たな登場人物のお披露目となった章でもありましたが、彼女達の能力までは然程明かされませんでしたね。
初期のプロットでは二羽と二人も大魔王の眷属戦に加わっていたのですが、眷属程度に今のリオンは苦戦しないよな、と思い直し変更しました。
そのため、各所にその名残のようなモノがあったりします。
次の更新日に九章終了時点の詳細ステータスを載せます。
新たに使い魔枠を増やしたりしていますので、よろしければご覧ください。
十章の更新はいつも通りステータスを掲載する次の更新日の、その更に次の更新日からを予定しています。
十章では隣国との戦争関連の話になる予定です。
引き続きお楽しみください。
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